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心理学の入門書には間違いが多いから気をつけて!みたいな研究

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心理学の入門書は間違いが多い? 

以前にも書いたとおり、なにかと心理学のへの風当たりが強い昨今。今度は「心理学の教科書にも結構デマが多いから気をつけや!」って論文(1)が出まして、個人的にもいろいろ勉強になりました。

 

 

この論文は、ステッソン大学のクリストファー・ファーガソン博士によるもの。以前に「暴力的なゲームで遊んでも暴力的な人間にはならない!」って研究を発表した、ゲームファンには頼もしい先生です(笑)

 

 

今回ファーガソン博士が調べたのは、「心理学の教科書って正しいこと書いてるの?」って疑問について。よく売れてる心理学の入門テキストを24冊ほど調べて、正当性をチェックしたんだそうな。



心理学にありがちなデマ

その際に博士が基準に使ったのが、以下の12ポイント。ネットなどでよく見かけるけど、実際はまだ学問的に決着がついてなかったり、完全にデマだったりする説が選ばれております。

 

 ▼まだ学問的には議論が多い説

  • メディアと暴力:テレビやゲームの暴力シーンが、現実の暴力犯罪に影響をあたえてるのだ!みたいなやつ。まだ学問的にはそこまで決着がついていない。
  • ステレオタイプ脅威:「女性は数学が苦手」や「老人は記憶力が悪い」といった情報にさらされると、実際に能力が下がっちゃうよ!みたいなやつ。理論を支持しない研究も多い。
  • ナルシシズム感染:現代では若い世代にナルシシズムが増加している!みたいな説。支持する研究者も多いが、いっぽうで「統計ミスだ」との指摘も多い。
  • 叩く子育ての悪影響:子育てで子供を叩くと、攻撃性が高い大人に育つぞ!という説。反論する論文も多い。
  • 多重知能理論:人間の「頭の良さ」はテストの成績で測る知能だけじゃない!他にも、音楽的知能や身体運動的知能、博物的知能といったいろんなタイプの知能を持っているのだ!みたいな理論。近年ではかなり批判が多い。
  • 進化と配偶者選択:進化のプロセスが人間の恋人選びに大きな影響を与えているのはほぼ間違いないのに、「進化心理学」を嫌う研究者も多いため、配偶者選択を社会的な要因がメインで説明しようとするケースが多いとのこと。
  • 抗うつ剤の効果:抗うつ剤が本当に鬱病や不安に効くのかどうかは、まだまだ不明な点が多い。そのあたりをちゃんと解説しているかどうか。

 

 ▼完全にデマだと判明している説

  • キティ・ジェノヴィーズ事件:ある深夜にティ・ジェノヴィーズという女性が暴漢に殺された際、付近の住民38人が事件を目撃していたのに誰も通報しなかった。「傍観者効果」という心理用語を生んだ有名な事件。……が、後の調査により、本当は誰もまともに事件を目撃していなかったことが判明している。
  • 戦時中の洗脳:朝鮮戦争で捕虜になった兵士が、洗脳で機密をしゃべらされていた!みたいな説。が、現実は誇張が多く、実際は拷問による自白の強要がほとんどだった。
  • ブローカ野:ブローカ野はヒトの脳の一部で、言語処理などを行っている。外科医のポール・ブローカが発見したと言われがちだが、実際はアーネスト・オービュルタンの功績。
  • 脳は10%しか使ってない説:多くの人間は、脳が本来持っているポテンシャルの10%しか使っていないのだ!みたいな説。いまでは完全にデマだったことがわかっている。
  • モーツァルト効果:モーツァルトを聞いて育った子供は頭が良くなるよ!みたいな説。その後の追試でガッツリと否定された。

 

 

というわけで、 心理学ファンならずとも一度は見聞きしたようなネタが並んでおります。「脳は10%しか使ってない!」とかはさすがにネットでも見かけなくなりましたけど、キティ・ジェノヴィーズ事件などは真相を知らない人も多いのでは。

 

 

心理学の入門書には偏った解説が多い

で、それぞれの説がどう紹介されているかをチェックしたところ、

 

  • 偏った解説をしていた割合
    • メディアと暴力:87.5%
    • ステレオタイプ脅威:75%
    • 叩く子育て:58.3%
    • 多重知能理論:91.6%
    • 進化と配偶者選択:62.5%
    • 抗うつ剤:83.3%
    • キティ・ジェノヴィーズ事件:54.1%
    • 戦時中の洗脳:4.2%
    • ブローカ野:75%
    • 脳10%説:0%(25%がちゃんとデマだと伝えていた)
    • モーツァルト効果:4.2%

 

みたいな結果でした。かなり議論の多い問題にも関わらず、一方的な立場で書かれている教科書はかなり多かった模様。進化心理学もまだまだ受け入れられてないのね…。

 

 

まとめ 

こういった結果が出た理由について、博士は以下のように推測しておられます。

 

  • 心理学は分野が広いので、ひとりの筆者ではカバーしきれない
  • 「議論はわかれている」や「統計には限界がある」みたいな話ばかりだと、本の売れ行きに影響が出る

 

うーん、なるほど。あんま誠実に書きすぎると本が売れなくなるんじゃないか、と。ちょっとわかるなぁ(笑)

 

 

そう考えると、ひとりの著者が書いた包括的な入門書よりは、専門家が自分の分野だけに絞った専門書を読んでいくほうがいいんでしょうな。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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