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要するに意志力とは◯◯の問題である |「意志力3.0」 #3

Control

 

意志力が無限だってホント? 

意志力について考えるシリーズの3回めでーす。初回では「意志力は使うほど減るって説が間違ってたかも」って話を書きまして、2回めでは「意志力は無限のリソースなのかもよ?」ってとこまで話を進めてまいりました。

 

 

と、ここで誰もが思うのが「意志力が無限のわけねーだろ!だったら誰も苦労しないよ!」ってとこでしょう。みんな自制心が効かないからダイエットに失敗したり、エクササイズが続かなかったりするわけで、意志力は消耗すると言われたほうがしっくり来ますもんね。

 

 

ってことで、 ここでは「意志力の消耗」に変わる別のモデルを紹介しつつ、「意志力ってなんなの?どう考えればいいの?」ってあたりをみていきましょう。理屈っぽい話になるので、すぐに使えるライフハック的なネタが好きな方は、次回までお待ちください(笑)

 

 



 

 

ヒトの心は複数のモジュールの集合体

さて、まず参考になるのは、ペンシルバニア大学のロバート・クルツバン博士が「だれもが偽善者になる本当の理由」で提唱している説であります。

 

 

 

本書の内容を一言をでいえば、「ヒトの心は複数のモジュールの集合体だ!」みたいな感じ。私たちの脳は、「食べないと腹が減るモジュール」や「エクササイズをサボりたいモジュール」など、いろんな機能を持ったプログラムが集まってできてるんだって考え方です。

 

 

それぞれのモジュールは特定の役割を果たすのが目的なので、ときには矛盾が生じちゃうことも多め。普段は「痩せたいモジュール」が起動してるのに、目の前にお菓子が置いてあるせいで「甘味の快楽を得たいモジュール」が起動して、両者がせめぎあってるような状況ですね。

 

 

意志力の消耗はモジュールのコスト増大

で、クルツバン博士は、こういったモジュールの働きが「意志力の消耗」に見えてるんじゃないの?と言うんですな。どういうことかと言うと、

 

  1. 目の前のお菓子に対して「食べたいモジュール」が起動する
  2. お菓子をガマンすると、「食べたいモジュール」の機会コスト(本当はお菓子を食べられるのに食べれない)が増加する
  3. コストが増加しすぎて、「いまガマンしている自分」を正当化できなくなる
  4. 食べたいモジュールが制御不能になる

 

みたいな感じ。「意志力」っていう単一の資源が減ったわけじゃなく、心のモジュールのコストが増えすぎたせいでコントロールが不能になるんじゃないのか、と。おもしろい説ですよねぇ。

 

 

意志力は簡単な報酬でリセットされる

実際、クルツバン博士が過去に行った実験では、意志力が減ったように見える状況でも、ちょっとした報酬(砂糖水とか)をあたえられた被験者は、セルフコントロール能力がもとに戻ったんだとか。がんばって何かをガマンしたあとでも、そのコストに応じた報酬さえあれば意志力はリセットされるわけですね。希望のある話ですなぁ。

 

 

もっとも、上の例はモジュール説をすごくシンプルに説明しただけなので、現実ではもっと大変な状態になります。

 

 

たとえば、「今晩なにしようかなー」とか考えた場合は、「飲みに行きたいモジュール」「誰かと遊びたいモジュール」「ゴロゴロしたいモジュール」「勉強しようモジュール」みたいなのがどんどん起動して、状況によって優先順位がコロコロ変わっていくようなイメージ。確かに、単純な「意志力の消耗」よりも、こちらのほうがいろんな現象を説明できそうではありますな。

 

 

意志力は優先順位によって変わる

ただし、このモジュールモデルは、脳の仕組みをかなりうまく説明してるものの、いまいち使いづらいものがあります。無数のモジュールを想定しちゃうと、カオスすぎて現実への応用が難しいんですよね。

 

 

というわけで、もう少しプラクティカルなモデルを提示してるのが、トロント大学のマイケル・インズリット博士による2012年論文(2)。インズリット博士も「意志力はなくならない」派の学者さんで、これまでに数々の実験を重ねた結果、「意志力のプロセスモデル」ってのを考案しております。

 

 

プロセスモデルを簡単に言えば、「意志力とは優先順位によって変わる!」というもの。意志力が減っていくように見えるのは、その人が自分をコントロールできなくなったからではなく、状況が変わったせいでモチベーションの優先順位が変わっただけなんだって考え方です。

 

 

たとえば、いくら「運動したくないなー」と思っていたとしても、好きな異性から「一緒にジムに行こう」と言われれば一気にやる気が出るはず。つまり、セルフコントロールができない状態というのは、意志力が無くなったのではなく、たんに自分をコントロールするのが嫌になった状態なんだ、と。これは上で紹介したモジュール説ともつながる話で、どちらも「特定の状況における優先順位」を問題にしてるわけですね。

 

 

それで、結局は意志力ってなに?

そんなわけで、以上の2つのモデルをふまえたうえで、あらためて「意志力ってなに?」って疑問をまとめると、

 

  • 意志力とは戦略の問題である

 

って感じになりそう。たとえば、遅くまで勉強していて嫌になってきた場合でも、そこから「興味のある部分を重点的に学ぶ」って戦略を採用すれば意志力がもどるかもしんないよねー、みたいな話です。このときに意志力の消耗説を採用してると、「自制心が減ったからしょうがないか…」って結論になりかねないので注意が必要であります。

 

 

この路線でさらに詰めていくと、

 

  • 結局は「意志力を鍛える」のってムダじゃない?
  • っていうか、そもそも「意志力」とか考えないほうがいいんじゃない?

 

って考え方につながっていくわけなんですが、長くなってきたので今回はここまで。次回は、「意志力があると言われる人の特徴とは?」ってところを押さえたうえで、具体的なセルフコントロールの方法についてまで行ければ行きたい感じ。長くてすいません。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。