健康情報の専門家「健康情報を追い求めすぎて不健康になっちゃダメだぞ!」
「健康の罠(The Wellness Trap)」って本を読みました。著者のクリスティ・ハリソンさんは摂食障害を専門とする登録栄養士であり、同時にジャーナリストもやっている人らしい。
で、本書は「健康のためなら死ねる!そして、本当に死んでしまう!」という人たちのメンタリティを取り扱ったものです。いわゆるオルトレキシアの問題に近くて、健康にこだわりすぎるあまり、極端なことをして逆に体を壊しちゃうパターンですね。私も健康系のブログをやってもうすぐ10年になりますんで、似たような問題を抱える方はよく見られます。
ってことで、本書から、個人的に勉強になったところをまとめときましょう。
- 「健康的な食事」というと、野菜とタンパク質ばっかり食べて、他の食品はほとんど口にしないように考える人がいる。事実、多くのインフルエンサーや代替医療、統合医療のプロバイダーは、乳製品、穀物、加工食品、そして特定の野菜まで、かなり多くの食品をカットするように指示する。
結果、セロリジュースが万能薬のように持ち上げられ、血糖値が正常な人でもポータブルの血糖測定器を持つように勧められ、セリアック病は人口の1%以下しか存在しないのにグルテンフリーを指示されたりしている。
しかし、このような制限は、私たちに食への恐怖を抱かせ、食習慣を乱れさせる可能性が高い。食生活を急激に変えると、人間関係に影響が出たり、食事の喜びが減ったり、悪いときには人生を健康に支配される可能性もある。たとえ科学的根拠があったとしても、精神的、感情的、社会的な幸福を損なうことなく、極端なダイエットを長期的に続けるのは難しい。
- また、研究によると、サプリメントの飲み過ぎなどにより、毎年23,000人の救急外来を受診しており、そのうち2,000人以上(9%)が入院している。これも健康を追い求めすぎる弊害のひとつである。
いくつかの調査によると、全米で人気のあるサプリメントの中には、ラベルに記載されていない医薬品などが混入している可能性もある。特に減量系のサプリメントは合成アンフェタミンが混入しているケースも多い。ところが、サプリメントが安全でないことが判明しても、FDAのリコールやメーカーへの警告文は何の効果もないケースが多い。
- 一方で、多くの人々は大手の製薬会社を警戒する傾向もある。そこには正当な理由がある場合も少なくないが、少なくとも医薬品には規制があり、市場に出る前に安全性と有効性のテストが義務づけられている。
ところが、サプリメントには、そんな安全性テストの義務がないにもかかわらず、多くの人は、サプリメントを無害だと信じてしまいやすい。
- 科学的な証拠がないのに、多くの人が補完医療、代替医療、統合医療にひかれるのは、現代の医療制度では、体の不調に苦しむ人の多くが画一的な治療しか受けられず、「私は一人の人間として見られていない……」という気持ちがブーストしてしまうからだと考えられる。メンタルのサポートを感じづらい現代の医療制度において、多くの人々が代替医療に期待を抱くのも無理はない。
しかし、多くの補完医療、代替医療、統合医療は、食物アレルギーや感染、栄養バランスなどを強調しすぎるきらいがあり、そのせいで、まともな医療なら発見できたはずの問題が見過ごされてしまう確率を高める。その結果、本当の不調の原因がわからずに、放置されることも少なくない。
- このような問題が起きる一因は、もちろんソーシャルメディアにある。インフルエンサーのページを何気なく見たり、「いいね!」を押したりするだけでも、エンゲージメントを最大にしようと試みるアルゴリズムのパワーが働き、極端なダイエット法や有害な健康習慣がどんどん表示されてしまう。
しかも、ネットで話題になりやすいのは、斬新で物議を醸すような情報である。そのため、極端で根拠がない健康法ほど、良識的でありふれた投稿よりも広がり、ユーザーを誤った情報に導いてしまう。最近の報告によると、InstagramやTikTokを使う10代の少女たちは、すぐに摂食障害向けのコンテンツに誘導される。
- さらに、ソーシャルメディアは情報を平坦化するため、医師や科学者だろうが、インフルエンサーと同じように紹介されてしまう。それどころか、より多くのフォロワーを持つインフルエンサーほど、信頼できるようにも見えてしまう。
個人的な体験を共有するのは悪いことではなく、医療制度では得られないメンタルのサポートを得られる可能性もある。このような情報源の平板化は、すべての情報を相対化させ、すべてのテクニックが等しく有効であるかのような錯覚を生じさせる。しかし、健康の問題においては、ソーシャルメディアのパーソナリティを行動の手本にするのは危険である。
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このような罠にはまらないためには、代替医療や統合医療に、従来の医療と同じレベルの懐疑心を持つしかない。従来の医療制度が親身になってくれないと感じる気持ちは正当なものだが、代替医療の世界が、こうした気持ちを搾取していることを忘れてはならない。
代替医療への懐疑心を取り戻すには、まずはソーシャルメディアから一歩引いてみるか、あるいは完全に離れてみるのがよい。そうすれば、アルゴリズムに影響されることなく、自分自身の問題と真剣に考える余裕が生まれる。
- 同じように、代替医療を信じる人から距離を取るのも重要である。友人や家族が極端な健康法に走った場合は、彼らを否定するのではなく、「自分はそういうのはよい」とだけ伝えて、「健康に関する話題は避けたい」という態度をしめすほうがよい。
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ネットの健康情報を考える際は、ワシントン大学のマイク・コーフィールド博士が提唱する「SIFT」のガイドラインを使うとよい。これは、以下の頭文字を取ったステップである。
1.立ち止まる(Stop)
2.情報源を調べる(Investigate the source)
3.より権威のある報道を見つける(Find better coverage)
4.主張、引用、メディアをオリジナルのソースまでたどる(Trace claims, quotes, and media to the original context)