あなたが【考えすぎ】て【疲れ切っている】のはなぜ?という本を読んだ話
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『呪術的過剰思考の時代(The Age of Magical Overthinking)』って本を読みました。著者のアマンダ・モンテル先生はニューヨーク大学で言語学の学位を取得した人で、その後はジャーナリストとしてニューヨーク・タイムズやコスモポリタンなどにアカデミックな記事を寄稿しているとのこと。
で、この本は、「現代人って何でこんなに考えすぎてるの?」「みんな考えすぎで疲れ切ってない?」みたいな問題をテーマにしております。現代の情報過多に対して私たちの脳がどう反応し、どうやって機能不全を起こしているのかについて、おおまかな見取り図を提供してくれてるんですな。
ってことで、いつもどおり本書から勉強なったところを見てみましょうー。
- 人間の心は「情報化時代」に向いていない。情報化が進むにつれて、現代人はより人生を混乱させている。現代では孤立を感じる人が多く、疲労に悩まされ、スクリーンにばかり気を取られ、死ぬほど考えまくり、TikTokの怪しい占い師やインフルエンサーを無闇に信頼し、陰謀論に注意をひかれている。事実、2021年にCDCが行った調査によると、若者の42%が過去2週間に悲しみや絶望を感じ、日常生活を普通に送れないと答えた。
- このような精神的な苦痛は、現代人に「世界は悪くなっている!」という印象を与える。しかし、実際には、この不安の多くは認知バイアス、つまり私たちが自分自身に精神的なトリックをかけているせいで発生している。人間は誰しも、生まれつき神秘主義的な性質を持つが、これが情報化と悪魔合体したのだと言える。資本主義やデータ過多による競争圧力が、私たちの不合理な本性と衝突し、激しい妄想を生み出すようになったのである。
- 「サンクコスト」「ハロー効果「イケア効果」といった有名なバイアスは、私たちの限られた時間や精神的なリソースを節約するために生まれたショートカットである。しかし、これらのバイアスは、気づかれぬうちに私たちの意思決定を支配しており、その多くが逆効果になっているかに気づくことができない。
この事実は、科学のリテラシーがある人でも変わらず、2011年にイェール大学で行われた実験では、「科学のリテラシーを高めると、自分が同意しない意見を受け入れようとしなくなる」という結論も出ている。これは、科学のリテラシーがある人派、情報を持っているおかげで、既存の信念を守るのがうまくなったのだと推測される。
つまり、科学のリテラシーやエビデンスが増えるにつれて、文化的な偏向はむしろ大きくなる可能性がある。科学について学ぶにつれて、多くの人は、チェリーピッキングが美味くなるからである。
- なかでも現代に顕著なバイアスは、「有名人崇拝」と呼ばれる現象である。人々のつながりが希薄になり、アイデンティティを確立しづらくなった現代では、若者が有名人を救世主のように崇拝する現象が起きやすい。
事実、2021年にアメリカで行われた研究では、「有名人崇拝」がこの20年で劇的に増加していることがしめされた。2019年に日本で行われた調査でも、青少年の約30%が、好きな歌手やスポーツ選手といった有名人を極度に模倣する傾向が見られた。
一般的に、「有名人崇拝」はセルフイメージの問題と相関し、その中には「ボディイメージへの不安」「美容整形への依存」「感覚的な快楽の追求」「認知の硬直性「アイデンティティの希薄さ」などが含まれる。この傾向が強い人ほど、うつ病、不安、解離、自己愛、依存症などの問題に悩みやすかった。
- 有名人への憧れは不健全なことではないが、現実の生活から得られる【ポジティブなストレス】が不足すると、オンライン上の人間関係に没頭しやすくなる。この傾向は、ハロー効果の発生につながり、ある有名人のなかにひとつでも良い面を見つけると、「この人はすべてすばらしい」と無意識に思い込む心理が生まれる。これが有名人崇拝の原因となっている。
- 以上のことから、自分の認知バイアスを自覚することは、他人の不合理を思いやり、自分の不合理を懐疑することにつながる。それが、この時代を生き抜くために役立つ最重要な方法かもしれない。
幸いなことに、私たちは思考のバイアスを乗り越えることができる。2021年に発表された研究によると、自分自身の思考プロセスに気づくよう訓練された被験者は、フェイクニュースや陰謀論に対して影響されづらくなった。
- 思考プロセスに気づくには、すべての人間はみな「呪術的思考」を持っている事実を認識するところから始まる。呪術的思考とは、理性や論理では説明できないところに因果関係を見る思考のことである。
呪術的思考とは、私たちが自動的に、あるいは無意識のうちに取っている心理的なショートカットだと言える。これは人類の脳に生まれつき備わったシステムで、「変な水を飲めばすべてが治る!」といった不可解な思い込みや、いつもヤバい人間と友人になってしまうような、身の回りでよく見かける不合理な選択の根底には呪術的思考がある。
- 呪術的思考は人間が古代から使ってきた思考の形態だが、これが現代人に特有の「考えすぎ」を生んでいる。多すぎる情報に直面すると、現代人の心は呪術的思考が発生し、非生産的な思考に取り憑かれ、理性的に考えるべき複雑な問題をスルーしてしまう。ネット上で議論をしているうちに、いつしか新石器時代の思考が優勢になり、話がカオスになっていくケースはとてもよく見かける。
- このような、原始時代には役だった呪術的思考がトラブルを起こす時代を、筆者は「呪術的過剰思考の時代」と呼んでいる。情報のオーバーロードが呪術的思考を刺激し、それが現代人の考えすぎと疲労をもたらしていると理解するだけでも、この問題をある程度まで防ぐことができる。