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インスリンの分泌量を気にしてもダイエットには意味がない理由

Obesity

こないだ、「たんぱく質でもインスリンはガッツリと出る」って話を手短かに書きましたところ、疑問のメールをいくつかいただきました。たとえば、


以前に、糖質はインシュリンを分泌させるので、インシュリンの量が多いと、食べたカロリーに関わらず脂肪になるという記事をどこかで読んだことがあります。あれはどうなるのでしょうか?

太るのは糖質だけで、タンパク質や脂肪では太らないと聞きますが、違うのでしょうか? じゃあ、どうすれば痩せるんですかぁ〜?

などなど。少なからず混乱した方がいらっしゃったようです。どうもすいませんねぇ。




で、確かに糖質がインスリンを分泌させるのは間違いなく、インスリンが脂肪の代謝にかかわっているのも事実ではあります。ただし、「インシュリンの量が多いと食べたカロリーに関わらず脂肪になる」とか「タンパク質や脂肪は太らない」といった話は明確に間違いです。


というのも、高タンパクな食事をしますと、血糖値のレベルは変わらないにもかかわらず、インスリンはガンガンと出ちゃうんですね。そのへんを明確にしたのはシドニー大学の研究者たちで、食品ごとのインスリン分泌量をまとめてくださっております(1)。


食品ごとのインスリン分泌量 
以下、それぞれの食品を口にしてから2時間後のインスリン分泌レベルをざっと並べてみます。詳細ははぶきますが、数字が大きいほどインスリンが出やすいとお考えください。


炭水化物系
  • パスタ 4,456
  • パン 12,882
  • 玄米 6,240
  • 白米 8,143
  • ライ麦パン 6,659
  • フライドポテト 7,643
  • 全粒粉パン 11,203
  • ジャガイモ 13,930

タンパク質系
  • タマゴ 4,744
  • チェダーチーズ 5,994
  • グリルビーフ 7,910
  • 豆類 9,268
  • タラ 9,350
  • ベイクドビーンズ 20,106

フルーツ系
  • リンゴ 8,919
  • オレンジ 9,345
  • ブドウ 12,293
  • バナナ 12,445

菓子系
  • ドーナッツ 12,445
  • チョコレートケーキ 14,305
  • クッキー 15,233
  • ポップコーン 6,537
  • ポテトチップス 8,195
  • アイスクリーム 12,348
  • ヨーグルト 15,611
  • ジェリービーンズ 22,860
シリアル系
  • ケロッグオールブラン 4,229
  • オートミール 5,093
  • ミューズリー 6,034
  • コーンフレーク 8,768


インスリンが出ようが出まいが食べ過ぎれば太る
そんなわけで、タンパク質の固まりのようなタマゴですら、インスリンの分泌量はパスタより多いわけですね。牛肉なんかも余裕でコーンフレークより数字が大きいですし。別に何を食べてもインスリンは出るし、食べ過ぎれば普通に太るって話であります。


というと、「いや、タンパク質はグルカゴンを出すから太らないんだ」って反論が出てきたります。グルカゴンは脂肪を分解するホルモンでして、タンパク質で分泌量が増えることがわかってるんですね(2,3)。


この説が正しいなら、確かにいくらタンパク質を食べても太らなそうですが、実際のデータではイマイチ支持されてないんですよ。たとえば2008年には、参加者にタンパク質と脂肪の入ったドリンクを飲んでもらう実験(4)が行われたんですが、確かにグルカゴンの分泌は増えたものの、体内の遊離脂肪酸の量は減っちゃった(=脂肪の分解量は下がっちゃった)んですね。


こういった現象が起きるのは、ASPってホルモンが存在するから。ASPは「中性脂肪を合成するもっとも重要なホルモン」と呼ばれてまして(5)、 結局のところ、インスリンが出ようが出まいが、脂肪を食べればちゃんと太るようにできているわけです。


インスリンを減らしても体脂肪の減り方は変わらない 
実際、インスリンの量と体重は関係ない!って研究は山ほどありまして、有名なのは2006年の実験(6)。肥満ぎみの参加者33人を3つのグループにわけて、以下の3パターンのダイエットに挑戦してもらったんですね。


  • 糖質制限ダイエット
  • 低脂肪ダイエット
  • 高脂肪ダイエット

もちろん、いずれの食事法も摂取カロリーはほぼ同じ量に調整されております。すると、8週間後の結果はこんな感じになりました。


  • 糖質制限ダイエット 脂肪が4.5キロ減
  • 低脂肪ダイエット 脂肪が4キロ減
  • 高脂肪ダイエット 脂肪が4.4キロ減

まぁ、ほとんど差はありませんね。データを見ると、糖質制限ダイエットは33%もインスリンの分泌量が少なかったようですが、とくに体脂肪の減り方には影響が出なかったわけです。


1999年にもスタンフォード大が似たような実験(7)をしてますが、やはりインスリン量と体脂肪の減少には関係がないとの結論。これらのデータを見ちゃうと、どうもインスリンの量に気を配っても意味がないとしか言えない感じ。


まとめ
そんなわけで、インスリンは脂肪の代謝に必須のホルモンではあるものの、


  • インシュリンの量が多いと食べたカロリーに関わらず脂肪になる
  • タンパク質や脂肪はいくら食べても太らない

といった説はたんなる疑似科学と申せましょう。いくらインスリンが多くても摂取カロリーが少なければ脂肪は増えませんし、逆にインスリンが少なくてもタンパク質や脂肪を摂りすぎればバッチリと太ります。


まぁ、非常に常識的な結論になっちゃいますが、インスリンの分泌量に神経を使うんだったら、できるだけ加工食品を減らし食事報酬の少ない暮らしを心がけたほうが吉。自然に脳のセットポイントが下がって、苦しまずに痩せられるかと思います。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。