糖質制限をしたままハードな運動をするのは意味がないので止めたほうがいいですよ
糖質制限とスポーツに関するご質問をいただきました。
私は、約半年前から1日1.5食、2ヶ月前から糖質制限を続けていました。
半月ほど前、バスケ(試合形式で)を約2時間プレーしました。前半は身体も軽く、ケトン体を代謝できる身体になったおかげかな、などと思っていましたが、後半からパフォーマンスがどんどん落ちてないがら、少々無理をして続けていました。
終了間際になって呼吸困難感が強くなり、数分休んでもまったく息が整わない状態になりました。(中略)
もしよければ、suzuki yuさんのお考えを聞かせいただけますでしょうか。
とのこと。糖質を抜いた状態でスポーツをしたらパフォーマンスが激落ちしてしまった、と。確かに糖質制限ダイエットの世界ではよく聞く疑問ですねー。
で、結論から言ってしまうと、そもそも糖質制限はスポーツに向いてないので止めたほうがいいです。ヒトの体は糖質がないと運動ができないようになっていますし、この事実は体内でケトン体が代謝されてようが変わりません。
というと、糖質制限ダイエッターの方からは、「ケトン体でも十分に運動ができたデータがある!」といった反論が出てくるはず。そこで、まずは糖質制限とスポーツに関する論文を見てみましょう。
糖質制限はスプリント能力を下げる
まずチェックしたいのが1983年の実験(1)。スーパー糖質制限と運動能力の関係を調べた研究で、糖質制限ダイエット界では「これぞケトン体でスポーツができる証拠!」と言われている論文であります。
具体的には、まずは5人の参加者に4週間のスーパー糖質制限を指示。全員がケトン体を代謝し始めたところでサイクルマシンに乗ってもらい、運動能力が上がったかどうかをチェックしたんですね。
その結果は、
- 炭水化物を食べていた場合、息が切れるまでの時間は147分だった
- スーパー糖質制限をした場合、息が切れるまでの時間は151分だった
といった感じ。ほとんど変わらない数字が出ております。これだけ見ると、「やっぱりケトン体でも運動はできる!」て結論になっちゃいそうですが、さらに細かくスーパー糖質制限のデータを見ていくと、
- 参加者1:運動能力が激減(-48分)
- 参加者2:運動能力が激減(-51分)
- 参加者3:運動能力が微増(+3分)
- 参加者4:運動能力が増加(+31分)
- 参加者5:運動能力が激増(+84分)
って感じになってるんですね。つまり、ある者はスーパー糖質制限で運動能力が上がるし、またある者は運動能力が下がってしまうわけです。これでは、あまりに個人差が大きすぎて何も言ってないに等しいのではないかと。このデータをもとに「ケトン体でも十分!」と言っちゃうのは無理がありすぎです。
さらに、この実験を手がけたフィニー教授は、21年後の論文(2)でこう言っております。
サイクルマシンに乗った参加者たちは、スーパー糖質制限を始めて1週目でエネルギーレベルの減少がみられた。その後、運動能力は回復したものの、糖質を制限している間はスプリント能力が元にもどらなかった。
言うまでもなくスポーツに一番必要なのは走力ですから、スプリント能力が下がっちゃうのは大問題でしょう。
やっぱり糖質制限はスポーツに向いてない
それでは、他の実験ではどんな結論が出ているかと言えば、いずれもスーパー糖質制限には厳しい論文ばかりです。それぞれのデータをあげていったらキリがないんですが、幸いにもカナダスポーツ学会のトレント・ステリングワーフ博士が、自身のツイッターで糖質制限と運動に関する論文の傾向をまとめてくれております(3)。
これによると、
- いままでに糖質制限と運動能力を調べた実験は全部で21件
- そのうち糖質制限で運動能力が下がったものは12件
- 糖質制限で運動能力が上がったと報告したものは2件のみ
- 残りの7件は判断不能
といったところ。いかに「糖質制限は運動に向いてない!」ってデータのほうが多いかがわかるかと思います。
もうひとつ、2005年に出たメタ解析(4)も見てみましょう。これは、過去に行われた糖質制限と運動能力に関する20件の実験を精査して、より大きな結論を導き出したもの。科学的な証拠としては、かなり信頼性が高いとお考えください。
その結論を抜き出すと、
いまのところ、高脂肪(低糖質)食が持久系のスポーツに良い影響をおよぼすとの証拠はまったくない。長期的に見てアスリートの健康にどんな影響があるかも不明だ。
というもの。ひかえめに見ても、糖質制限で運動能力が上がるって話にはならなそうですね。
さらに2007年のレビュー論文(5)でも、
アスリートは、つねに最高のパフォーマンスをする方法を探している。過去20年の間にも、多くのアスリートと科学者たちは、糖質制限が運動能力を高める可能性を探ってきた。(中略)しかし結果としてわかったのは、炭水化物をちゃんと食べた場合にくらべると、いくら脂肪の代謝量が増えようが強度の高い運動はできなくなるということだ。最高でも能力は現状維持どまりで、決して上回ることはない。
とのこと。こちらもバッサリですね。
まとめ
以上の話をまとめますと、
- 「ケトン体でも運動はできる!」説の根拠になってる実験はデータに意味がない
- スーパー糖質制限で運動能力が上がる人もいるが、まず期待しないほうがいい
- ほとんどの実験では、糖質制限で運動能力は下がるとの結論が出ている
といったところ。まぁグリコーゲンがないと運動もできないのは生理学の基礎なので、当然といえば当然の結果かもしれません。ほとんどの人にとって糖質制限とスポーツの組み合わせは向いてないでしょうし、体への悪影響も大きいはず。「目的別『ベストな糖質摂取量』ガイド」などを参考に、ちゃんと糖質を摂ったうえでスポーツを楽しまれることをおすすめします。