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今週半ばの小ネタ:しんどいスポーツで細胞が長生きに? 運動前の意志力使用はNG? アイスラリーが夏の体温上昇に効く?

Summary


ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。

  

 

 

しんどいスポーツをやってる人は細胞の寿命が長い?

運動をよくする人ほどテロメアが長い!(DNAの保護キャップみたいな存在。細胞の寿命に関係していると考えられる)って報告は多く、新しい研究(R)も「負荷が強い競技を行っているアスリートはテロメアが長い!」って結論が出ておりました。

 

 

これは80名の男女(26.4±7.6歳)を対象にしたテストで、それぞれが参加する競技のVO2max(全身持久力の指標)によって、スポーツの負荷をいくつか変えております。

 

  1. 低負荷=乗馬、ゴルフ、クライミングなど
  2. 負荷=サッカーなど
  3. 負荷=長距離走、サイクリング、トライアスロンなど

 

ここからさらに全体を25歳未満と25歳以上にわけて、それぞれのテロメアの長さや炎症レベルを比べたんだそうな。すると、結果はこんな感じです。

 

  • 年齢はテロメアの長さとは関係がなかったが、負荷が高いスポーツをしている人は、低負荷および中負荷の運動をしている人よりもテロメアが長かった(p≦0.05)
  • 負荷が高いスポーツをしている人は、炎症性サイトカインの一部が多かった(負荷が高い運動のせいで体内が炎症しているのだと思われる)

 

って感じです。負荷が高いスポーツを行っている人ほどテロメアが長く、より細胞の老化が遅いかもしれないわけですな。

 

 

もちろん、だからといってトライアスリートが長寿だとは言い切れないものの、とにかく高負荷な運動ほどテロメアに効くのかも?ぐらいに思わせる内容っすね。個人的にはオーバーワークが心配なので持久走とかはしないつもりですが、定期的にめちゃくちゃ高負荷な運動をしとこうかな……とは思いましたね。

 

 

 

エクササイズ前に自制心を使うとパフォーマンスが下がる?

「意志力を使うとどんどん減っちゃう!」っていう有名な考え方に対し、近年はいろいろと疑問が出ているのはご存じのとおりです。モチベーションのあり方によって意志力のレベルは簡単に変わるので、自制心を働かせたら確実に意志の力が減るとは言いづらいところがあるんですよね。

 

 

そこで新しく出たデータ(R)は、「事前に意志力を使ったらスポーツのパフォーマンスは低下するか?」ってとこを調べてまして、結論から言ってしまうと、

 

  • スポーツ競技の前や最中に意志力を働かせすぎると、熟練した動きをスムーズに行えなくなる

 

だったそうです。これは13名の男子ホッケー選手(20±1歳)を対象にした試験で、まずはみんなにストループ課題をしてもらい、その後でホッケーのパフォーマンスをチェック。さらには血中のコルチゾール濃度を測定して、どんな傾向が出るのかを見たんだそうな。

 

 

その結果、参加者にどんな違いがあったのかと言いますと、

 

  • 意志力を使ったほうが、参加者はエラーを起こす確率が大きくなった

  • しかし、ホッケー課題の完了時間、フランカー課題の成績,コルチゾール濃度には影響がなかった(いずれもp>0.05)

 

という感じでして、競技の前に意志力を使うほどスキルのパフォーマンスは低下するみたいっすね。特に、ドリブル、パス、シュートなどの精度が必要な技術に影響を与えるようで、精密な作業を行う前に意志力を使うのは避けたほうがいいのかなーってとこですね。

 

 

こうなると「やっぱり意志力は減るのか?」って気にもなりますが、個人的には「意志力ってのは機会費用の争いなのだ!」って説が気になっていて、事前に認知に負荷をかけたせいでタスクの優先順位が変わったのかも?ぐらいに思いましたが。

 

 

 

アイススラリーで運動による体温上昇を食い止められる?

まだまだお暑うございまして下手に外で運動をすると危ない状況ですが、新たに「アイススラリーで深部体温の上昇を食い止められるのでは?」といった話(R)が出ておりました。アイススラリーってのは耳慣れない言葉ながら、水をシャーベット状の細かい氷にしたもので、ポカリスエットさんから商品が出てますな。通常の氷に比べ結晶が小さいおかげで、冷却効果が高いといわれてるんですよ。

 

 

この実験はナショナル車椅子ラグビーチームから13名を選んだもので(脊髄損傷があると体温調節機能が低下する可能性があるため)、選手たちには、60分間のトレーニングセッションの前にアイススラリーか室温のプラセボ飲料を6.8g/kgずつ摂取したそうな。どちらの飲料にも糖質6%のゲータレードが入っていて、味は同じだったとのこと。

 

 

すると、やはりアイススラリーには相応の効果が見られまして、

 

  1. アイススラリーによる冷却は、運動開始後から30分後の体温上昇が遅くなった

  2. しかし、アイススラリーを使ったグループは、運動開始から終了までの間の体温上昇が大きかった

 

って違いが出たそうな。もちろん、この実験は脊髄損傷により体温調節機能が低下している人が対象でしたが、報告された結果は他の研究ともよく一致しており、おそらく一般的な運動のときにもアイススラリーは使えるのではないかと。

 

 

また、アイススラリーの方が体温上昇が大きいのが気になる方もおりましょうが、これは他の冷やし方でも観察される話なのでご安心ください。さすがに現在の暑さのなか外で運動したいとは思えないものの、該当しそうな方にはアイススラリーが使えるかもしんないですな。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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