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つねに賢い判断ができる人は「自己分散型」の思考がうまいんじゃないの?という話


  

無(最高の状態)」って本では、メンタルトレーニングの基本的なポイントとして、

 

  • 自分をただひたすら観察しようぜ!
  • 観察を突き詰めて智慧にいたろうぜ!

 

みたいな話をしております。

 

 

「智慧」がどんな状態を指すのかは本書をお読みいただければと思いますけど、すごーく雑にいうと「バイアスに飲まれず賢明な推論や偏りのない判断ができる!」みたいな感じです。ご存じのとおり、私たちの思考はゆがみが多いんで、それにまどわされずに判断ができるってのはすごいことなんすよね。

 

 

ということで、近ごろチェックしたデータ(R)もまた「智慧」に関するものでして、筆頭著者は「つねに的確な判断を下せる人は何が違うのか?の心理学」でも紹介したイゴール・グロスマン博士です。「私たちが正しい判断を下すには何が必要か?」についてずっと調べているおもしろい先生ですね。

 

 

で、今回の研究がなにを主張しているかと言いますと、

 

  • 心拍変動は智慧の高さと連動してるんじゃない?
  • 心拍変動と智慧の高さは、観察の能力が大事なんじゃない?

 

という2つのポイントです。心拍変動については「「心拍変動」を鍛えれば自然とダイエットになるんじゃないの?説」をご参照いただければ幸いですけど、簡単に言っちゃうと心拍数のゆらぎのことで、この数値が大きいほどストレスへ柔軟に対応できると考えられているんですよ。

 

 

が、この文献では「心拍変動はもっといろんなものを反映してるよ!」ってところを取り上げてまして、

 

 

  • 実際、安静時の心拍変動が高い人は、実行機能に関わる新皮質構造の活動が活発であることがわかっている

 

  • また、心拍変動が高い人は、ワーキングメモリが発達しており、セルフコントロールも上手い傾向がある

 

  • 逆に、安静時の心拍変動が低い人は、脳の一部エリアの働きが低下しており、認知・感情機能の低下が起きやすい

 

といった先行研究が紹介されてました。心拍数のゆらぎというと大したことがなさそうですけど、実際には幅広い知性の指標にもなり得るんじゃないか?って感じですね。

 

 

ということで、この実験では150名の男女に協力を頼んで、こんな実験をしております。

 

  1. 心電図機器でみんなの心拍変動をチェック

  2. 教育、環境、政治、社会保障など、議論が分かれるような問題について、自分なりの答えを考えてもらう

  3. その際に、参加者を「自己没頭型」と「自己分散型」の2グループに分ける

  4. 参加者の答えの質と、心拍変動の数値を比較する

 

ここでいう「自己没頭型」と「自己分散型」ってのがどういうことかと言いますと、

 

  • 自己没頭型:その問題に没頭して、一人称の視点で問題の答えを考える(「私だったらどう行動するか?」「私の場合はどう思うか?」のように、できるだけ「私」を使って考えるように求められた)

 

  • 自己分散型:その問題の状況にフォーカスして、三人称の視点から題の答えを考える(「◯◯さん(自分の名前を入れる)だったらどう行動するか?」「彼の場合はどう思うか?」のように、できるだけ「引いた視点」を使って考えるように求められた)

 

って感じになります。三人称視点の重要性は「無(最高の状態)」にも書いたとおりですが、ここでも「自分から距離を置くことで心拍変動が変わり、そこから良い推論の能力が生まれるのでは?」と考えたわけですね。

 

 

すると、実験の結果は博士の予想どおりで、

 

  • ベースの心拍変動が高くて、なおかつ自己分散型で考えた人ほど、良い推論をする傾向が高かった

 

だったそうです。たんに心拍変動が高いだけでは良い推論にはいたらず、第三者的な視点が必要なんじゃないか?ってことですね。

 

 

ちなみに、ここでは「良い推論」の判断基準として、

 

  • 自分の知識には限界がある!と認識できている

  • ものごとは常に変化するのだ!という可能性を認識できている

  • 他者の視点への配慮がある

  • 違った視点をまとめて妥協案を出すことができる

 

みたいなポイントを使っております。あくまで自己中心的ではなく、幅広い目くばせをしつつベターな提案ができるかどうかを重視してるんですね。

 

 

研究チームいわく、

 

過去の理論にもとづいて、心拍変動が高いほど賢明な判断をしやすくなる大きな原因は、「視点の自己中心性」と「自己分散による視点の減少」によるものだと思われる。

 

とのこと。なにやら難しい話ですけど、ざっと箇条書きでまとめてみると、

 

  1. 心拍変動が高い人はストレスに強いので、脳の情報処理により多くのリソースを使うことができる

  2. しかし、ストレスに強いだけでは自己中な思考から抜け出せないので、どうしても認知がゆがんじゃう(自分に都合がいいデータばかり使ったりして)

  3. そこで自己分散型の思考を使うと、自己中な思考を抜け出し、さらに精度の高い判断が可能になる

 

ぐらいの意味になります。ストレスに強い人は情報処理にも強いけど、それだけじゃダメなんで、心拍変動と客観視点の両方を鍛えたほうがいいんでしょうな。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。