人間関係を改善するための根本的なルールはこれだ!みたいな本を読んだ話
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『穏やかに他者とうまくやる方法(How to Love Someone Without Losing Your Mind)』って本を読みました。著者のトッド・バラッツ先生は公認心理療法士で、カップルの関係改善のエキスパートなんだそうな。
なので、本書も恋愛にまつわる話がメインではありますが、その内容は予想していたよりも深め。『エブエブ』や『私ときどきレッサーパンダ』などの映画でもおなじみな「世代間トラウマ」の話があったり、「無(最高の状態)」みたいなトラウマの不快さを受け入れる話があったりと、普通に人生の処方箋として読んでも役立つ内容になってるのが良いですね。
というわけで、本書から勉強になったところをまとめておきましょうー(細かいトレーニング法などは省いているので、そこが気になる方は原著を当たってください)。
- 人間関係の問題に対処するとき、私たちは自分の内面や個人の体験をふりかえってみることが多い。たとえば、同僚との会話がうまくいかなかったときに、過去の職場での成功体験を思い出し、自分にとってどのようなコミュニケーション方法が有効だったのかを分析するようなやり方である。
- しかし、実際には、私たちがコミュニケーションで抱える問題は、自分が両親や祖父から受け継いだ“世代間ストーリー”が原因になっていることが多い。これは、前の世代が抱えたトラウマが、次の世代にも引き継がれてしまう現象を意味する。
すべての人間関係の課題は、今ここにいる私たちの問題だけでなく、前の世代の未解決の問題から生じていることが非常に多い。
たとえば、戦争中に激しい戦闘を経験した祖父が、子供や孫に対して過剰なまでに安全を重視する教育を行ったせいで、家族全体が不安を感じるようになるようなケースである。
また、祖父母が経済的に苦しい時代を生き抜いたため、次の世代もお金に対して極度の不安を抱くようになったりするようなケースもある。
- このようなトラウマの連鎖を断ち切るためには、家族の歴史を深く掘り下げることが重要となる。家族の隠れた物語を認識することで、世代を超えた理解と癒しを育むことができる。
世代間の理解が深まれば、私たちは自分の人生をより広い視野でとらえることができ、目先の感情で反応せずに済むようになるからである。
- 前の世代から受け継がれた物語は、私たちの感情のトリガーを刺激しやすく、それによって個人の人間関係に影響を与える。トリガーとは、未解決のトラウマを刺激し、感情的な反応を引き起こす要因を意味する。通常は、友人やパートナーから言われた言葉、口調、しぐさ、匂いなどがトリガーとなり、過去のトラウマがよみがえってしまう。
このような感情のトリガーを認識し、注意して管理できれば、私たちは、世代間のトラウマを意味あるものとして活用し、受容と思いやりを促進することができる。
- たとえば、親の育児放棄を経験した人は、大人になってからも、パートナーの小さな嘘を激しい裏切りであるかのように感じることがある。このような強い反応が起きる原因は、養育者との幼い頃の経験にまでさかのぼることができる。
このメンタリティを理解するのは容易ではないが、それができれば、2人の潜在的な対立を、パートナー間の相互理解と忍耐を築くチャンスに変えることができる。
たとえば、この本の著者は、子供のころに厳しくしつけられて育ったため、誤ってパートナーの車を傷つけてしまった際に、激しい罰を受けることを予期してしまい、うまく謝ることができなかった。しかし、パートナーはその事実を知っていたため、著者を怒らずにハグで安心させてくれた。
このように、大人の人間関係の中で癒される体験を積まないと、トラウマの解決は難しい。このような癒しを達成するには、自分の世代間トラウマや、幼少期のトラウマが、現在の人間関係へどのように影響しているのかを深く理解する必要がある。
- そこで大事なのは、トラウマに恐れを抱くのではなく、好奇心をもってトリガーにアプローチすることである。
トリガーによって引き起こされる不快感は、単なる障害ではなく、成長のための触媒となる。そのため、「なぜこのようなトリガーが生まれたのか?」「このトリガーにはどんな機能があるのか?」「このトリガーは私をどう守ってくれたのか?」などと、興味を持ってトリガーを分析することで、私たちは自身の最も傷つきやすい部分へ直にアクセスし、その結果、個人的に成長することができる。これは、セラピストが「修正的感情体験」と呼ぶものである。
ちなみに、ここで言う「痛みや困難」は、日常的な失望やフラストレーション、他人や自分自身に対して憎しみを感じる瞬間などを意味する。これらのトリガーには、自分が受け継いだ世代間のトラウマが反映されていることが多い。
- その点で、人生の究極のゴールは、幸福やポジティブさの追求ではなく、人生に内在する困難と向き合い、そこから意味を引き出すことによって真の充足感を得ることだと言える。
このような視点の転換は、他者とより深いつながりを築くためにも欠かせない。無限の喜びを期待して相手とコミュニケーションを取ると、人間関係は失望の連続になってしまうからである。
しかし、困難は人生の本質だと認識できれば、トラブルに対処し、理解し、許容し、効果的にやり過ごすための手段を身につけることができる。これがレジリエンスの源泉となる。
- 同じような意味で、「人間関係の終わり」も重要な要素である。私たちの社会は、人間関係の終わりは失敗や損失とみなす傾向があるが、人生や個人的な成長を目指す上では「人間関係の終わり」を理解するのも欠かせない。
そもそも人生は不確実性と変化に満ちており、「死」と「別れ」は常に絶え間なく続く。しかし、現代の文化は、始まりを祝う一方で、「終わり」の悲しみを強調するようにできている。このような偏った視点を持ったままでは、人間関係の終わりを「失敗」としか考えられなくなる。
しかし、人間関係の終わりを、成長と自己反省の機会だと捉えれば、それぞれの終結は新しい章の始まりを意味することになる。すべての終わりは、再出発と新たなつながりへの道を開き、より良い関係を築く機会を与えてくれるため、出会いと同じぐらい重要に思う必要がある。
- 「運命の人」という神話も、現代の人間関係を難しくしている一因である。自分にピッタリくるような運命の相手を求めることで、現代人の多くは、絶え間ない失望と人間関係の不安のサイクルにはまりやすくなっている。
しかし、運命の相手などは非現実的な妄想でしかないので、その代わりに、「人間関係とは、努力、理解、相互成長を通じて進む長い旅である」という見方に変える必要がある。
このようなアプローチは、短期の恋愛をしている人や、何十年も結婚生活を送っている人をふくめて、誰にとっても不可欠なものだと言える。「運命の人」という考えを捨て去れば、「この人は本当に私に合っているのか?」という不安に立ち向かい、より回復力のある関係を築くことができるようになる。
- 実際のところ、私たちにとって本当に必要なのは、「運命の人」ではなく、「十分な人」である。これは、人間関係に妥協せよという意味ではなく、「一人の人間ではすべてのニーズを満たすことはできない」という事実を認識することを意味する。
この意味で、「十分な人」とは、私たちが相手の限界を受け入れながら、関係改善の努力を続けられる人を意味する。真のパートナーシップとは、「充実感は自分自身の中に見出すものだ」という理解からしか生まれない。