楽しんでる人が一番売れる!というマーケティング研究の話
「自分が楽しんでいることを他人に伝えると、どう評価されるのか?」というポイントを調べた研究(R)が、めちゃくちゃ実用的だったので内容をチェックしておきましょう。
楽しんでる人のモノは売れる
このテーマを掘り下げたのは、ノースウェスタン大学のチームで、彼らが着目したのは「クラフト系のマーケット」や「個人営業の現場」です。たとえば、Etsyみたいなフリマ系のプラットフォームや、あるいは農産物の直売所やクラフトフェアなどです。
SNSの発展により、私たちは誰でも自分の商品を世の中に売りさばくことができるようになりましたが、こうした現場では、「ブランド力」や「企業名の信頼感」がほとんど使えないのが難点。そのため、いかに自分の“人となり”を伝えるか? が重要になるわけですが、当然ながら「私はこんなにすごい人間なんです!」と叫んだところで、誰も信じてはくれないわけです。
そこで研究チームが考えたのが、
売り手が『これを作るのが楽しい』と伝えるのが、良いマーケティング戦略になるのではないか?
という仮説です。いかに自分が楽しんでやっているのかを示す方が、商品の質や人気をアピールするよりも効果があるのではないかと、チームは考えたわけですね。
そこで研究チームが行った実験は以下のようなものです。
実験1:Facebook広告に「楽しんでいます」と加える
まず、ビジネスコンサルタントの広告を2パターン作成し、Facebook上で小規模ビジネスオーナーに表示させたんだそうな。
- パターンA:このコンサルタントは経験豊富です。
- パターンB:このコンサルタントは経験豊富で、仕事を楽しんでいます。
すると、結果には明らかな違いが見られまして、「楽しんでいます」と書かれたパターンBの広告の方が、クリック数が40%も多かったと言うからびっくりです。たった一言の追加で、見知らぬ人からの信頼度が上がるわけですな。
実験2:ブラウニーの人気 vs. 楽しんで作った
さらに、ここでは大学の学生フェアでフィールド実験も行われております。具体的には、2種類のブラウニーを並べて、どちらかを選んでもらうというシンプルな実験をしたんですが、それぞれに以下の説明を添えてます。
- ブラウニーA:「これは私たちの一番人気のブラウニーです」
- ブラウニーB:「これは私たちが作っていて一番楽しいブラウニーです」
その結果、65%以上の人が「楽しい」と書かれたブラウニーを選んだというんですな。味も見た目も同じなら、みんな「楽しんで作られた方」を選ぶらしいってことで、なかなか面白い心理現象ですね。
なぜ「楽しんでいる」が信頼されるのか?
ではなぜ、「楽しんでいます」と言ったほうが、モノが売れるのでしょうか? ここには、心理学的に説明可能なメカニズムがいくつかありまして、ざっくり説明すると以下のようになります。
- 内発的動機づけ:「楽しんでやっている=誰に言われたわけでもなく、自らの意思で行動している」という意味になる。こうした「内発的動機」は、信頼や共感の大きな源になり、「自分で選んでやってるんだな」と感じられると、それだけで誠実さや熱意が伝わりやすくなる。
- スキルの証明:ある程度のスキルが必要になる活動を「楽しんでいる」と言えるということは、その分野に熟達しているサインとも受け取れる。要するに「プロにとっては、難しいことも楽しい」というイメージがあるため、「楽しんでいる人=うまい人」という認識が自然に生まれる。
- 努力と集中の暗黙の前提:「楽しいからこそ、自然と努力している」「楽しんでいるなら、ちゃんとやっているに違いない」と、我々は無意識に判断しやすい。努力と楽しさが矛盾するものではなく、むしろセットで理解されるというのがこの現象の特徴である。
ということで、ぜひ皆様もっと「楽しんでます!」と言ってみるのがオススメなんですが、実際には、楽しさを表に出す人が少ないのも事実ではあります。実際、研究チームがEtsy上の数千プロフィールを分析したところ、自分がその商品を楽しんで作っていると書いていた出品者は、なんとわずか1%だったそうな。
このようなギャップがなぜ生まれるのかといいますと、こちらにもなかなか複雑な心理が絡んでおります。
- 「楽しんでる=ラクしてる」ってイメージを持たれたくない問題:「好きでやってるなら、あまり頑張ってないんじゃない?」という誤解を恐れるパターン。とくに日本のような「苦労信仰」の強い文化では、この傾向がより顕著だと思われる。
- 楽しんでるなら、値段を下げるべき?と思っちゃう問題:「自分は楽しんでやっているから、そんなにお金はもらえませんよ……」という心理もよく見かけるところ。でも実際には逆で、楽しんでやってるからこそ、他人はそこに価値を感じ、むしろ高く買ってくれる。
これは自分でも「あるなぁ」って感じでして、身につまされるものがありました。もうちょい、「楽しんでるところ」をアピールするか……(って周囲に言っちゃうと逆効果なんだけど)。
ただし「単純作業」に対する楽しさは逆効果なので注意
ただし、ひとつだけ注意点がありまして、研究チームによれば、「高度なスキルが必要ない作業」に対して楽しさを表現すると、逆効果になる可能性があるとのこと。たとえば、機械で自動生成された商品の製造や、単純なルーティンワークに対して「楽しんでやってます!」とアピールすると、
「楽しめるってことは、それしかできないのかも」
「楽しむ余裕があるほど、スキルがないのでは?」
みたいに受け取られる可能性が激増しちゃうんだそうな。なので、「楽しんでます」アピールをする際は、スキルや創造性が問われる分野であることを、しっかり伝えるのが重要になるわけですね。
というわけで、今回の結論をざっくりまとめるとこんな感じになります。
- 「楽しんでいます」と伝えるのは、信頼と魅力を高める有効な戦略である。特にスキルが求められる分野では、楽しさは実力の証明になる
- 多くの人が誤解しているが、楽しんでいるからこそ高く売れる。ただし、単純作業への楽しさアピールは逆効果になる可能性がある
個人的にも、自分の本を書いている時は「めっちゃ楽しくもあり」、同時に「めっちゃ辛くもあり」って感じですが、これからはもう少し、「楽しんでる感」も言葉にしていったほうが良いのかもしれませんなぁ。