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「主観的年齢」が若さのカギ?──心が若い人ほど健康で長生きする理由

  

「実年齢より若い気がする……」みたいなタイミングは誰にでもありましょう。たとえば、学生時代に好きだった音楽を今も聴いているときとか、スポーツをやってみたら意外と動けたとか、年下の人と話していても会話が合ったりとか……実年齢よりも若いような気がする瞬間みたいなことですね。

 

この「心の若さ」は「主観的年齢(Subjective Age)」と呼ばれてまして、近ごろはアンチエイジングの世界では「実年齢よりも自分を若く感じることが、健康や幸福の鍵ではないのか?」なんてことが言われてるんですよ。

 

「主観的年齢」をもうちょい詳しく説明しとくと、これは「私は◯歳だけど、気持ち的には◯歳くらいだな」と感じる、その“感覚的な年齢”のこと。実年齢とは違って、自分がどう感じているかにもとづくので、当然ながら人によって結構なバラつきがあったりします。たとえば、65歳でも「まだ40代くらいかな?」と思ってる人もいれば、30歳でも「気持ちはオッサンです……」という人もいるわけですね。

 

で、この主観的年齢、じつは健康や幸福度との相関がけっこう強いことが、ここ10年ほどの研究で示されてきていて、

 

  • 自分を若く感じている人は、うつになりにくい
  • 自分を若く感じている人は、記憶力が良い
  • 自分を若く感じている人は、寿命が長い傾向にある

 

などなど、主観的年齢が若いほうが、メンタル・フィジカル両面でポジティブな影響があるらしいんですよ。これは素晴らしいですねぇ。

 

ならば、「どうやって主観的年齢を若く保てばいいのか?」ってことで、ウィーン大学の先生方がナイスな研究(R)をしてくれてました。

 

研究で使われたのは「ドイツの未来の高齢化プロジェクト」という大規模調査のデータで、対象は30歳から80歳までの男女が768名。みんなに「どんなライフドメイン(生活領域)で、何歳くらいと感じているか?」をかなり細かく聞いてまして、具体的には以下のような8つの領域での主観年齢をチェックしてます。

 

  1. 家族・パートナーシップ
  2. 友人・知人
  3. 宗教・スピリチュアリティ
  4. 余暇・社会貢献
  5. パーソナリティ・ライフスタイル
  6. 仕事
  7. フィットネス
  8. 健康・外見

 

そしてさらに、「この領域では、何歳から“年寄り”だと思いますか?」という“老いの閾値”も調べてるのがポイントで、これによって「若く感じる人は、どんなところで年齢を操作してるのか?」もチェックしたわけです。

 

結果として見えてきたのは、以下のような傾向であります。

 

  • 30代~40代の若者層:自分にとって重要な領域ほど「若く感じている」。たとえば、仕事に情熱がある人は「仕事面ではまだ20代のつもり」といった具合。

 

  • 50代以上の高齢層:重要な領域で「老いの定義」を後ろにずらしている。たとえば「健康的なら70歳でも若いよね」とか「見た目がいいなら80代でもイケてる」と思うことで、アイデンティティを守ろうとしている。

 

ということで、年代によって主観年齢のとらえ方に違いがあったんだそうな。このような心理の違いを、心理学では「同化」と「調整」と呼ぶんだそうで、

 

  • 同化:現状をそのまま受け入れつつ、感じ方だけを変える(「自分はまだ若い」と思い込む)
  • 調整:価値基準そのものを変える(「そもそも60歳はもう“老い”じゃないよね」と考える)

 

みたいな感じで、だいたいの人は若いころに同化を使い、年をとると調整へとシフトしていくみたいっすね。みんな年代ごとに「心の若さ」を維持する戦略を変えてるわけっすね。

 

もちろん、「主観的年齢が若ければすべてOK!」ってわけじゃなくて、この研究でも触れられるとおり、あまりに現実離れした“若いつもり”は、時に痛々しく見えてしまうこともあります。いわゆる“若作り”ですな。が、ここで大切なのはあくまで“心のなかで”若さを保つことでして、明らかに老人が見た目だけ若者に寄せても意味はないので、そこはご注意ください。

 

この研究のまとめでも、「外向けに無理して若作りしなくていいよー。でも、内面で若さを維持するのは、じゅうぶん価値があるからね!」みたいなトーンになってます。具体的に何が推奨されているのかと言いますと、

 

  • 他人の基準ではなく、自分にとって重要な領域での「若さ」を見つめ直す(たとえば「趣味の世界では今でも20代の感覚で挑戦してる」とか)
  • 年をとっても「老いの定義」を柔軟に変える(たとえば「本当の老年は80歳からだ!」でもいい)
  • 「老い」を自分にフィットする価値観に再定義し直していく(たとえば「今の自分にできる範囲で楽しく成長できていれば、それは若さと同じ」みたいな感じ)

 

このあたりが、心の若さをキープするためのポイントになりそうであります。こうして見ると、個人的には「老いの定義」を変えるやり方を無意識によくやってる気がしてきました。

 

もちろん、加齢による変化は避けられず、体力も落ちるし、筋肉も衰えるわけです。私自身、日々ガンガンに老眼が進んでまして、「あー、やっぱ40代前半の頃と違うな」とか実感してますしね。

 

でも、自分にとって意味のある領域で「若くいる感覚」を育てていくほうが心身にはよさそうなんで、若作りと言われない程度にがんばろうかと思うわけですなぁ。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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