話すことは「脳の最強筋トレ」だった件：「心理言語学から見る、しゃべることの驚くべき効果」みたいな本を読んだ話
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『言葉以上のもの（More Than Words）』って本を読みました。著者のマリーレン・マクドナルド先生は、ウィスコンシン大学マディソン校の心理言語学者で、サブタイトルは「話すことはいかに心を研ぎ澄まし、私たちの世界を形成するか」みたいな感じ。その主張のポイントをざっくり言い換えると、
- 話すことは、聞き手のためだけでなく、自分自身の脳にとっても強力なチューニング手段である！
みたいになります。私たちは、ふだん何気なく「しゃべる」って行為をしてますが、これは単なるコミュニケーション手段ではなく、「思考力を高め、感情を整え、学習効率を引き上げるための最強ツール」だというんですな。なかなかグッとくる問題設定じゃないでしょうか。
ということで、いつもどおり本書から参考になったポイントを見てみましょうー。
- まず最初に強調されているのが、「話す＝脳のウォームアップである」という事実。たとえば、「Can I get fries with that?（ポテトもらえます？）」みたいな簡単なセリフでさえ、この背景では50,000語以上の語彙ストックから正確な6語を選び抜くという、地味にハードな脳内処理が行われている。つまり、発話ってのはそれ自体がかなりの脳トレであり、このプロセスを繰り返すことで、集中力や注意力、さらには意思決定の精度が高まる。
- 「発話」で脳機能が高まる具体的な例としては、
部屋の中で消えた鍵を探すときには、「鍵、鍵……」とつぶやくだけで、注意がその対象に向かいやすくなる．
やるべきことを声に出して言うことで、目的意識が高まり、行動の持続力がアップする
みたいな効果が示されていて、ここらへんは日常でもすぐに使えるテクニックとして応用できそう。ちなみに、この現象は「自己音声化（self-directed speech）」とも呼ばれ、アスリートの自己コーチングや、認知行動療法でも広く使われている定番メソッドである。
- 「なんかモヤモヤするけど、何が不満なのか自分でもわからない……」という問題に立ち向かう時には、こうした感情の混乱を整理するために「言葉にすること」がめっちゃ重要になる。実際のところ、「怒っている」のか「怖い」のか「不安」なのかを明確にラベリングすると、脳の感情中枢である「扁桃体」の活動が沈静化するという研究もある（fMRIベースの研究だけど）。つまり、感情を言葉に変換することで、自律神経やストレス反応もコントロールしやすくなるため、これを利用すれば、以下のような効果が期待できる。
イライラしているとき → 「私は今、不安なんだな」と言語化することで冷静さを取り戻せる
緊張しているとき → 「緊張してるけど、それは大事な仕事だからだ」と再定義することで前向きに変換できる
感情の言語化には、相手が必要というわけではなく、独り言でも、頭の中のセルフトークでも効果はある。これすぐに使えて良いテクニック。
- 子どもの発達において、「どれだけたくさんの言葉を浴びせたが大事！」だと言われがちだが、マクドナルド先生はそれに一石を投じており、実際には「子どもがどれだけ“自分で話したか”のほうが大事！」だと主張している。実際、近年の研究では、親との対話の回数が多い子どもほど、語彙力・集中力・学習準備度が高いことがわかっている。
この知見が示すのは、「一方的なインプットでは脳は育たない」という事実であり、たとえば以下のような育児スタイルは見直しの余地があるかもしれない。
・スマホやYouTubeに子守りをさせる
・子どもの発話を待たずに、大人が先回りして言葉を出す
・家の中での会話が「命令ベース（早くしなさい！）」になっている
あくまで言語は「キャッチボール」なので、子どもが自分の言葉で考え、話し、それに大人が応じるというやりとりのなかで、最も脳をトレーニングすることができる。
- 世の中には「話す＝スピーキング」というイメージが強いが、マクドナルド先生は「書くこと」も同じくらい強力な“言語アウトプット”と位置づけている。特に注目すべきは、書くことで思考がクリアになるという点で、これは、作家ジョーン・ディディオンの有名な言葉「私は、自分が何を考えているのかを知るために書く」に通じる。具体的なデータとしては、
・日記を書くことで、感情や悩みを客観視できる
・目標を文章にすると、達成率がアップする（これは行動科学の定番知見）
・問題の原因と対策を文章にすると、脳がより深い洞察を得る
といった形で、書くことで「自分の考えが見える化」され、いろんなメリットを得られることが示唆されている。ちなみに、書く内容は他人に見せる必要はなく、むしろ見せない前提のほうが本音を引き出しやすいという研究もあ。1日10分、寝る前に手帳に今日の気づきを書くだけでも、認知面と感情面でメリットを得られる。
- 最後にマクドナルド先生は、「社会は話すことの価値を軽視している」という問題提起をしている。たとえば、学校教育では子どもは基本「静かにする」ことを求められるが、この静けさこそが学習効率を阻害している可能性がある。実際に、これまでの研究でも、
・パッシブな授業（講義中心）は記憶定着率が低い
・生徒同士でのディスカッションやペアワークは、理解度を大きく向上させる
・書くことを通じた自己表現も、学習効果を高める
といった結果が得られており、「黙って聞く学習」はオワコンになりつつある。
- 以上の話は高齢者にも当てはまり、
・退職後の会話量が減ると、脳機能も急激に低下する
・孤立が進むと、認知症のリスクが一気に跳ね上がる
というデータもあり、高齢者こそ「しゃべること」が必要だと考えられる。
- ということで、「話すこと」にはナイスなメリットが多く、「脳の集中力を高める」「感情を整える」「思考を整理する」「他者と繋がる」「学習効果を高める」「認知機能を維持する」など、人生に必要なあらゆるメリットを得られる、まさに「認知と感情の総合トレーニング」と言える。特別なツールもスキルもいらないので、まずは小さな独り言から始めてみるとよい。
