TRTは本当に筋肉に効くのか?──話題のテストステロン補充療法を科学的に検証してみた件
「TRT(テストステロン補充療法)」ってのがありますわな。その名のとおりテストステロンを注射で打ち込む方法で、「アンチエイジングに効く!」という人がいれば、「それってほぼステロイドじゃん…」と眉をひそめる人まで様々でして、とにかく賛否両論だったりします。
で、個人的にも「本当にそこまで効果あるの?」とか「副作用の心配はどうなん?」みたいな疑問はずっとあったんですが、ちょうどタイムリーな研究(R)が出たので、今回はその内容をもとに「TRTって実際どうなのよ?」という話を見ていきましょう。
「テストステロン=筋肉」というのは本当か?
今回チェックしたのは、20~59歳の男女4,495人のデータを用いた横断研究であります。被験者はアメリカの国民健康栄養調査(NHANES)に参加した人々で、テストステロン値と筋肉量・筋力の関連を調べたんだそうな。
結論から言っちゃうと、この研究でわかったポイントは以下のとおりです。
- テストステロンの値が高い男性は、筋肉量が多い傾向がある
- でも、筋力(握力)とは有意な関連がなかった
- 女性では、筋肉量・筋力ともにテストステロンとの関連は見られなかった
つまり、「筋肉量を増やすにはテストステロンが効くかも。でもパワー系の効果は微妙」という、ちょっと肩透かしな結論になってるわけですね。
では、実際のところ「TRTでどれくらい筋肉が増えるのか?」ってのが気になりますが、これについては、
- テストステロン値が最下位(平均298ng/dL)から最上位(平均519ng/dL)に移行すると、筋肉量は約2.3kgアップする。
みたいな結果になってます。つまり、TRTで「正常範囲の下限 → 上限」まで押し上げても、得られるのはほんの数kgの筋肉ってことでして、個人的には「あれー、意外とショボいかもー」とか思いましたね。
ちなみに、この結果は、過去の研究(R)ともおおむね一致してまして、一部には筋肉量が最大4.4kg増えたというデータもありますが、対象年齢が幅広く(18〜85歳)、参加者数も少なめだったため、今回の最新研究の方がより信頼性が高そうな気がしております。
でもステロイド的な効果は? ガチで打ったらどうなるの?
では、TRT以上の量を打てばもっとガツンと効果が得られるのかと言いますと、2001年の有名な研究(R)では、テストステロンを週に25mg〜600mgの範囲で投与したら、以下のような結果になったんだそうな。
- 週に50mg(ごく一般的なTRTのレベル):筋肉量にほぼ変化なし(+0.6kg)
- 週に125mg(上限ちょい超え):+3kg程度の筋肉増
- 週に600mg(ガチステロイドレベル):+7kg超の筋肉増
ということで、本格的に筋肉を増やすには生理的な範囲を超える必要があるってことですな。TRTを適切に行っても、SNSで見るような“バキバキボディ”には到底届かないわけですな。
まあ、それもそのはずでして、TRTってのはそもそも筋肉増強のための治療じゃなくて、あくまで以下のような症状に対する医療行為ですからねぇ。
- 性欲の低下
- 疲労感
- うつっぽさ
- 集中力の低下
- 睡眠の質の悪化
こういった症状を改善するために、正常なテストステロン値に戻すのが目的で、その副産物として筋肉がちょっと増えることもあるよーくらいのイメージを持っておくと良いんでしょうな。
TRTのリスクはどうなってるの?
とはいえ、そうなると「でもホルモンいじるのって危険なんじゃないの?」という疑問もわくわけです。一説には、TRTには以下のようなリスクがあるとされてまして、
- 赤血球の増加 → 血栓リスク
- 前立腺のマーカー上昇 → 癌との関係は不明だが要モニタリング
- 脂質プロファイルの変化
- 精子の数が減る(不妊リスク)
- 薄毛が進行しやすくなる
ただ、ここらへんの問題については、医師の監督下で行われる適切なTRTであれば、「まあ大丈夫でしょう!」と言えるレベルにはなることが近ごろはわかってたりします(R)。もちろん、ネットで入手した怪しいテストステロンを自己判断で使うのは危険すぎますが、ちゃんとしたとこでやる限りはそこまで心配しなくても良いかと思う次第です。
ちなみに、最近は一部のビルダー界隈で「過去にバリバリのステロイド使ってた人が、現在はTRTだけやってる」みたいなパターンに移行するケースもよく耳にするところです。ステロイドで得た“資産”を維持するために、TRTを使ってるわけですな。これが良いことなのかは謎ですが……。
ってことでTRTについてまとめておくと、
- TRTで筋肉はちょっとだけ増える(2〜3kg程度)
- 筋力はあまり変わらない
- 正常値の範囲内でテストステロンを補充するだけでは「マッチョ化」は無理
- リスクはあるが、適切な管理のもとなら比較的安全
- 「筋トレのブースター」としては使えない
みたいになります。つまり、TRTってのは思ったほど劇的じゃないし、副作用もゼロじゃないし、継続管理が必須だしで、普通に地味な医療行為だとお考えいただくのがよいでしょうな。
ということで、「最近TRTが気になってるんだけど…」という方は、まずは自分のテストステロン値を確認し、本当に治療が必要かどうかを冷静に見極めるところから始めてみてくださいませー。