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寒冷シャワーで痩せるは嘘?最新研究で判明した「寒さと食欲」の意外な関係

 
 

ここ数年、SNSやフィットネス界隈でやたらと「寒さは最強だ!」って話を聞くわけです。

 

冷水シャワーを浴びれば朝から覚醒!

氷風呂でメンタルが鍛えられる!

サウナ→水風呂で自律神経が整う!

寒さに耐えることで脂肪が燃える!

 

みたいな感じでして、個人的にも「なんらかの効果はあるんだろうなー」とか思っております。が、その威力のほどはまだよくわからないところがありまして、今回は「寒さと代謝のリアルな関係性」を調べたデータ(R)をチェックしてみましょう。

 

 

「寒さで痩せる説」はどこから来たのか?

まず、この研究で調べたのは「寒さで食欲は減るのか?」ってポイントです。

 

寒さがダイエットに効くって話はよく言われてまして、そのメカニズムとして挙げられるのが、

 

  • 寒さで交感神経が活性化する→ ノルアドレナリンが分泌され、代謝が上がる
  • 褐色脂肪細胞の活性化→ 通常の白色脂肪よりエネルギーを消費して熱を生む
  • しばらく冷たい環境にいると白色脂肪が“ベージュ化”→ 一部が褐色脂肪のように振る舞い始める

 

みたいになってます。これらはすべて理論としては正しく、事実、短期的には代謝が上がることも確認されてるんですよ。

 

では、その代謝アップが「どのくらいの量」で「どれくらい続くのか?」ってことで、今回の研究はその疑問に答えようとしたわけですな。

 

 

極めて現実的な「寒さ」で実験してみた

この研究は、47人の男女(平均37歳、BMI32の肥満体型)を対象に、以下の条件に置いております。

 

  • 気温23.5℃(通常) vs 19℃(軽い寒さ)の部屋にそれぞれ24時間滞在してもらう
  • それぞれの温度で「決められた食事」と「食べ放題」を実施する
  • 計4回の滞在をクロスオーバー方式で実施(全員が全パターンを体験する)

 

つまり、極端な冷水シャワーや氷風呂ではなく、「ちょっと肌寒い室温に1日いたらどうなるか?」という、非常に現実的な状況を設定したわけですな。

 

そのうえで、呼吸チャンバーという特殊な機器を使いまして、

 

  • 24時間のエネルギー消費
  • 食事量(自販機で自由に好きなものを選べる)
  • ホルモン(レプチン、グレリン、インスリンなど)
  • 体温、皮膚温、主観的な空腹感・ストレス感

 

などを詳細に記録していて、非常に丁寧で信頼性が高い研究設計になってますね。

 

 

痩せるどころか食欲爆増!

さて結果をシンプルにまとめると、

 

  • 寒い部屋にいた被験者は、平均で411kcalも多く食べていた!

 

みたいになります。寒い部屋にいたら逆に食欲が増えちゃったわけでして、これはなかなか辛い結果ですなぁ。しかも、寒い部屋にいた参加者は、

 

  • 糖質:約160kcal増加
  • 脂質:約186kcal増加
  • タンパク質:約64kcal増加

 

ってことで、すべての栄養素で過剰摂取が見られたんだそうな。この数字は、冷水シャワーで消費できるカロリーの数十倍でして、ダイエット目的で寒冷刺激を取り入れると、むしろ食欲が無意識のうちに増えてしまう……のかもしれませんな。

 

しかも、ここで嫌になっちゃうのが、

 

  • 寒い部屋にいても、エネルギー消費量はまったく増えていなかった。

 

って結果も出てるとこですね。つまり、寒さで「カロリーが燃えた」わけでもないし、「寒さに耐えて痩せた」わけでもなく、ただ単純に太りやすくなるという結論であります。

 

では、なぜ寒さでこんなに食欲が増えるのか?ってのが気になりますが、実は寒冷条件では以下のような生理的変化が見られたんだそうな。

 

  • 手足の皮膚温度の低下
  • グレリン(空腹ホルモン)の増加
  • レプチン(満腹ホルモン)の低下
  • FGF-21の減少(代謝調整に関与)
  • セクレチン(褐色脂肪活性化関連)の上昇

 

いずれも、かなり興味深い変化だとは思うんですが、実際に増加した食事量との統計的な相関は確認されてないので、これらの変化が積もって食欲の増進につながったのかなぁ……って感じですね。冷えた日になんとなく甘いものが食べたくなったって話はよく聞きますが、これは意外と「寒さに対する無意識の適応」かもしれませんな。

 

 

それでも寒冷刺激に希望はあるのか?熱のほうがいいんじゃないのか?

もちろん、このデータは「寒冷刺激が否定された!」ってわけじゃなくて、

 

  • 短期的な回復(例:激しい筋トレの後)
  • メンタルへの覚醒効果
  • 精神的なタフさを鍛える儀式的要素

 

などでは、相変わらず一定の効果があるだろうと思っております。あくまでダイエットに使うと辛いかもよーって話なので。

 

そう考えると、近年の研究を見ると、サウナや温水浴の効果のほうが優秀な印象もありまして、

 

  • 心血管機能の改善
  • 炎症マーカーの低下
  • インスリン感受性の向上
  • 幸福感ホルモン(エンドルフィン)の増加

 

といったポジティブな変化がいくつも報告されてるんですよね。しかもサウナは安全性が高いし、気持ちいいから習慣化しやすいしで、そこらへんも非常によさげなんですよね。そう考えると、温活の方が現実的な選択かもしれませんな。

 

まあ、これはあらゆる健康法に言えることですけど、「リスクが低く、負担も少ない範囲で、期待も高く持たずに取り入れる」ってのがめっちゃ重要になりますね。要するに、サウナも水風呂も生活のスパイスとして扱うのがちょうどよくて、寒さを使う場合も、「朝シャワーを10秒だけ冷水にする」とか「冬に少し暖房を控える」程度のほうが習慣化しやすくて良いのではないでしょうか。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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