「食べる時間」で太る?科学が示す“時間栄養学”の真実とは
ここ数年、「何を食べるか」だけでなく「いつ食べるか」を重視するって考え方、いわゆる時間栄養学(クロノニュートリション)が注目されるようになってきました。これは、ざっくり言うと、
- 「食事のタイミングや頻度が、体調や体型にどう影響するか?」
って問題に答えようとする分野で、近年では「プチ断食」や「時間制限食」などが流行ってるせいもありまして、世間的に関心が高まってる印象っすね。
ただし、いまんとこまだまだこの分野の結論は出ていない印象でして、
- 「食事回数が多いと痩せやすい」とする研究があれば、「回数が多いと太る」とする研究があったりする。
- 「食事を摂るタイミングが大事」とする研究があれば、「食事の時間は関係ない」とする研究もあったりする。
みたいに、バラバラの結果が報告されているのが現状なんですね。なかなか困ったもんですなぁ。
ということで今回は、その「ごちゃごちゃした状況」に風穴を開けるべく、東大の先生方が日本で大規模調査(R)をしてくれたんで、内容をチェックしときましょう。
これは全国の20〜69歳の男女1,047人を対象にしたもので、食事の「時間的パターン」と「食生活の質」「肥満度」の関連を調べたものになります。個人的に、この研究が「よいですなー」と思ったのは、以下の3点であります。
- 1. 「アンケート」と「食事日記」の2パターンで検証している:食事内容を調べる方法として、「記憶に頼るアンケート(MDHQ)」「リアルタイムで書き留める食事日記(4日間の記録+時間記録)」の2種類を使って、食事の「タイミング」「頻度」「長さ」などの行動を調べてる。
- 2. 「エネルギー摂取のサバ読み」も考慮してる:人間は本能的に「いい自分を見せたくなる」生き物で、とくに太っている人は、つい食事の量を少なめに書いてしまいがち。これを“エネルギー摂取の過少申告”と呼ぶが、この誤差を調整する工夫も入れられているのもナイス。
- 3. 平日と休日での食習慣の違いも評価:平日と休日で食事の時間がズレることを「食事ジェットラグ」と呼ぶ。このズレが健康にどう関係するかも、詳しく分析されているあたりも素晴らしい。
ということで、類似の研究と比べてもガッツリやってる印象でして、非常にありがたい話ですな。
では、結果を見てみましょうー。
結果1:アンケートだと「食事タイミング」が肥満や質に関係していた
まずはアンケートをもとにした結果から見てみると、以下のような傾向が出たらしい。
- 食生活の質が悪化するパターン
- 間食の頻度が多い
- 食事の回数が多い
- 最後の食事が遅い(夜遅くに食べている)
- 食事の中心時間が遅い(全体的に遅めの食生活)
- 平日と休日で食事時間がズレている(食事ジェットラグ)
ということで、アンケートの結果をまとめたら「ちょこちょこ食べてる」「夜遅くまで食べてる」「生活リズムがブレブレ」という人は、食事の質も悪くなりやすいって結果だったらしい。
さらに、肥満(BMI25以上)や腹部肥満のリスクが高まるパターンとしては、「食事や間食の頻度が多い」「食事ウィンドウ(最初の食事〜最後の食事までの時間)が長い」「最初の食事が早すぎる」「休日の最後の食事が遅い」って結果が出てるのもおもしろいです。
これらの関連は、「エネルギーのサバ読み」を補正して初めて見えてきたポイントでして、やはり過小申告を考慮しないと、本当の関係ってのは見えないわけですな。
結果2:でも「日記」では関連が出ないという不思議
ところが、もうひとつの方法である「食事日記」で分析してみると、不思議な結果が出てまして、なんと「ほとんどの関連が消えてしまった」というんですな。食事の時間、回数、長さなど、いろんな要素を調べてみても、食生活の質や肥満とは関係がないという結果だったんですよ。
例外的に、「平日の朝食・夕食が遅い人は食生活の質が悪い」って関係だけ出てますが、それ以外はスッカラカンであります。不思議っすねぇ。
このギャップは一体何なのか?ってのが気になりますが、研究チームはいくつかの仮説を立てております。
- 食事日記には「反応バイアス」があるのでは?:食事日記をつけるという行為自体が、行動に影響を与える可能性があって、たとえば、「今日は日記を書かなきゃ」と思うことでヘルシーな食事を選ぶようになったり、深夜にポテチを食べたくなっても日記を意識して我慢したり、といった形で、普段の行動が変わってしまうという問題があるわけです。
- アンケートは「記憶と印象」に基づいている:逆に、アンケートでは、過去1か月の平均的な食事を思い出して書く形式なので、こちらは「自分はこういう人間でありたい」というセルフイメージが混ざりやすく、ややバイアスがかかることが多いとされております。
つまり、どちらの方法も一長一短で、この違いが時間栄養学の判断を難しくしてるわけですな。んー、難しい。
まあ、ここらへんの問題をどうするかは先生方に任せて、私たちがどうすべきかと言うと、個人的には以下の3つを守るのがいいんじゃないかと思うわけです。
- 「夜遅くの食事」はなるべく避ける:とくにアンケートベースでのデータでは、最後の食事が遅いほど、食事の質が悪くなりやすい傾向が出ていたので、寝る直前のドカ食いは、消化にも睡眠にも良くない傾向はありそう。
- 食事のリズムをできるだけ一定に保つ:平日と休日で食事時間が大きくズレる「食事ジェットラグ」も、食事の質と負の相関が出ております。「週末だけ朝寝坊して夜食のみ」みたいな流れを毎週末繰り返している方は、まずは休日も平日と同じような食事を心がけてみるのがよいでしょう。
- 自分の行動を「観察」してみる:自分の食事行動を把握するには、短期間でもいいので日記をつけてみるのがおすすめ。たった3日でも、自分がどの時間帯に、どんな理由で、どんなものを食べているかの「クセ」が浮かび上がってきますし、そのおかげで自分の行動も良い方向に変わるんじゃないかと。
ということで、今回の研究の最大のポイントは、「どう測るかによって、時間栄養学の結論は変わってくる」ってのを明らかにした点っすね。クロノニュートリションはまだ若い研究分野なんで、まだ確定的な答えは出ていないんだけど、食事のタイミングが体内時計や代謝に影響するのは間違いないので、とりあえずは上の3つだけでも守っておくのが吉じゃないでしょうか。どうぞよしなに。