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褒められるのが怖い理由とは?──ポジティブ評価恐怖(FPE)の正体と克服法の話

 
 

「すごいね」「さすが!」なんてほめ言葉は、普通は嬉しいはずですが、なぜか困った感覚を覚えてしまう人も少なくないでしょう。「素晴らしかった」とかほめられた瞬間、内心がザワザワしてしまって、急に胸が苦しくなっちゃうような、あの現象ですな。

 

この違和感、実は心理学的に名前がついてまして、「ポジティブ評価恐怖(Fear of Positive Evaluation FPE)」などと呼ばれております。この「褒められると緊張する問題」と、そこから抜け出すためのヒントを調べた研究(R)が出てましたんで、内容を簡単に見ておきましょう。

 

これはドイツ語圏の思春期684人を対象にした縦断研究でして、みんなを半年かけて調査して、ポジティブ評価恐怖と社会不安、感情コントロール(受容・抑圧・反すう)などの関係性を分析したんだそうな。そこでまずは、FPEの人たちの特徴を見ておきましょう。

 

1. 「目立つこと」に対する強い不安がある:FPEの人は、良い意味で注目される場面でもプレッシャーや不快感を抱きやすい傾向がある。たとえば、「プレゼンで褒められると、その後『次はもっと期待される……』と感じて緊張しちゃう」「人前での賞賛や称賛を『恥ずかしい』『不釣り合い』と感じてしまう」といったことになりがち。

 

2. 自己主張が苦手で控えめな性格:FPE傾向がある人は、自分の意見や強みを前面に出すことに抵抗を感じることが多い。「出しゃばっていると思われたくない」「自分だけが注目されるのは怖い」みたいな思いが強いため、集団の中でも一歩引いた立場を選びがち。

 

3. 感情の抑圧傾向が強い:FPEが強い人は、嬉しさや喜びといったポジティブな感情でさえ「出しすぎないようにしよう」と意識する傾向がある。そのせいで、笑顔が不自然に控えめになったり、喜びを感じていても「冷静なふり」をしてしまったりといった振る舞いが増える。これは「ポジティブに見えると期待される」ことへの不安から来ている。

 

4. 「反すう」傾向が強い:ポジティブな出来事の後でも、「あれ、本当に褒められたのかな?」「変に思われなかったかな?」と後から何度も思い返す癖がある。特に人とのやり取りの後に、自己評価を繰り返す傾向が強くなりやすい。

 

5. 「自己肯定感」が低く、承認への不信がある:FPEの根本には「自分は褒められるに値しないのでは」という自己イメージの歪みがあることも多い。褒められても「本音じゃない」と思ってしまったり、ポジティブな反応に違和感や不信感を持ったりと、こうした自己概念のギャップが、ポジティブなフィードバックを「攻撃」にさえ感じさせることがある。

 

ということで、「ほめ言葉を素直に受け取れない!」問題は、基本的に感情の抑圧が原因になってることが多いみたいっすね。このような心理ってのは、特に思春期に発生しやすいそうで、その理由は以下のようになっております。

 

  • 重要な人からの評価が急増する:思春期ってのは、親だけでなく友人や教師、SNSでの反応も含め、「誰かの目」が頻繁になるため、どうしても他者からのジャッジに敏感になりがち。

 

  • 自己イメージが模倣と比較に揺れやすい:まだ自分の立ち位置が定まっていないので、みんなと比べて自分はどこまで通用するのかがわからず、そのぶんだけ不安が募ることになる。

 

  • 感情のコントロール回路が未完成:前頭前野の発達には個人差があり、思春期はまだ“理性”の部分がちゃんとでき上がっていないことが多い。そのため、感情の「受け止め方」が安定せず、ポジティブな感情でも戸惑ってしまうことが多い

 

これらの要因が重なって、思春期の人間ってのは「良いこと」すら恐怖の対象になってしまうわけです。こうしてみると、アイデンティティがまだふんわりしているあたりも、FPEが発生する要因になるんでしょうな。

 

では、どうやってこの“ポジティブな不安”を和らげるか?ってことですが、だいたい以下のような介入が推奨されております。

 

1.「受け入れ」のトレーニングを行う:まずは「褒められて気まずい」って感覚を、ちゃんと感じてみるのが大事。気まずい感じがわきあがったら、「この嫌な感じを感じ切るのだ!」と自分に許可を与えるのがよさげ。これが出発点になるので、取り急ぎこの姿勢を保つようにしましょう。

 

2.抑圧ではなく、“ちょっとだけ表現”を試す:誰かからほめられたら、「微笑む」「ありがとうと言ってみる」など、自分にとって違和感がないレベルの小さなリアクションから始める。これを何度も繰り返すと、ポジティブフィードバックにも体が慣れてくる。

 

3.反すうを起こしたら、“客観視”で受け流す:ほめられた後に「本当に褒められたか?」と思ったら、「あーまた考えてるな」と自分を観察するだけでもOK。これによって「反すうは反すうだ!」と一回立ち止まることができるようになる。

 

4.時間のスケールを長く捉える:今回の調査では、たった半年の期間でもFPEが時間とともに変化する傾向が見られた。そのため、小さな変化を焦らずにキャッチしていくのが、長期的な成長につながるのだと思われる。

 

ってことで、個人的には「ちょっとだけ嬉しい感じを表に出す」と「反すうを客観視で受け流す」の2つが効果的なんじゃないかなーと思った次第であります。まあ褒められたときに「ドキっとする」のは、わりと普通の反応だとは思いますんで、そこから素直な反応ができるようにじっくり調整していけばいいってことなんでしょうな。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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