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「1.6g/kgでは足りない?」筋肉を最大化するプロテイン摂取ガイドライン改訂版

   

わたくし、これまで日々のタンパク質の推奨量として、

 

  • 基本は体重1kgにつき1.6gは欲しいよねー
  • 体重1kgにつき2.2gだとさらにいいよねー

 

みたいなことを言ってきまして、個人的にも1日に体重1kgにつき2gを目指して摂取しているわけです(なかなかハードな量ですが)。

 

が、実は最近「実はもっと高い摂取量が必要かもしれない……」って気になってきましたんで、そこらへんの話をしてみましょう。

 

 

「タンパク質は体重1kgあたり1.6g」はどのデータから来たのか?

まずはおさらいから。ことの起こりは2018年で、49件の研究(R)をまとめたメタ分析が発表され、タンパク質摂取量と除脂肪体重(≒筋肉)の関係を調べて、「ブレークポイントは1.62g/kgだ!」って結論を出したんですよ。つまり、それ以上のタンパク質を摂っても筋肉の伸びは止まるよーって話ですね。

 

が、実はこの話には以下の注意点がありまして、

 

  • p=0.079で統計的有意ではない
  • 信頼区間が1.03~2.20g/kgと幅広い
  • サプリ無し、筋トレ未経験者が多く含まれていた

 

といったポイントがあるところから、「明確に1.62g/kgだ!」とは言い切れない内容ではあったんですね。ただし、この時点では最も良い感じの内容だったので、個人的にはこの基準を採用してたんですよ。

 

ただし、この研究の補足資料(Supplementary Figure 3)に目を向けると、以下のような現象が起きていることも事実だったりするんですな。

 

  • Cribb(2007年):1.63→2.92g/kgで筋肉+1.6kg

  • Hoffman(2009年):1.63→2.22g/kgで筋肉+1.25kg

  • Kerksick(2006年):1.58→2.32g/kgで筋肉+1.7kg

 

いずれも、タンパク質が1.6g/kgを超えるグループの方が顕著に筋肉が伸びているんですよね。「1.6g/kg以降はタンパク質は無意味」って説とは真逆の結果も、意外と珍しくないってことですな。

 

 

他の研究で見えてきた“上限値”の再検証

では、さらに近年のメタ分析(R,R)ではどんなことを言っているかと言いますと、

 

  • スプライン分析により、タンパク質摂取量がおおよそ2.3g/kgくらいまでは筋肥大効果が見られると報告
  • 摂取量が2.35g/kgを超えると効果が鈍化または頭打ちとなる傾向が確認された

 

みたいな感じでして、これらの結果を統合すると、タンパク質摂取の“安全圏”として、

 

  • 男性は2.0〜2.35g/kg
  • 女性は1.75〜2.05g/kg

 

くらいが現実的なラインじゃないかなーって気がしてくるわけです。

 

では、長期試験だけでなく、1日単位での代謝研究ではどうなのか? ってことで、IAAO法(Indicator Amino Acid Oxidation)を使った試験の結果も見てみましょう。これは、ざっくり言えば「使われずに燃やされるアミノ酸の量」をもとに、必要なタンパク質量を推定するものでして、より精度が高いとされてるんですな。

 

この方法を使った研究では、次のような結果が出ております。

 

  • 男性:平均2.0g/kg、95%の人をカバーするには2.38g/kg
  • 女性:平均1.49g/kg、95%カバーには1.93g/kg

 

ということで、この結果もまた、驚くほど長期試験のブレークポイントと一致してまして、理論と実践がうまく整合してるなーって印象があるわけです。

 

加えて、タンパク質必要量には個人差が大きく、研究では約20%のばらつき(標準偏差)があることが確認されてたりします。そう考えると、「自分は多めに必要かも?」って前提で考える方が安全なんじゃないでしょうか。「最初は2.0g/kgを目安に、体調や筋肉の伸び方を見ながら±0.2g/kg調整」みたいなイメージが良いのかもしれませんなぁ。

 

 

 “タンパク質のゴール”改訂版

ということで、この話をふまえて、タンパク質の推奨摂取量を改定してみると、以下のような感じになります。

 

 

男性の場合

筋肉の成長を最大化したい男性は、次の数値を目安にするとよいでしょう。

 

  • 最低ライン(効果が出るかもしれない下限):体重1kgあたり1.7g
  • 平均的に最適とされる摂取量:2.0g/kg
  • 確実に成果を出す“安全圏”ライン:2.35g/kg

 

女性の場合

女性の場合は、筋肉量や代謝の違いを反映して、やや少なめが推奨されてます。

 

  • 最低ライン:体重1kgあたり1.5g
  • 平均的に最適とされる摂取量:1.75g/kg
  • 安全圏ライン:2.05g/kg

 

体脂肪を除いた「除脂肪体重(FFM)」ベースで見た場合(男女共通)

できるだけ精密に管理したい方は、「除脂肪体重(=筋肉、骨、内臓などの脂肪を除いた体重)」をベースに考えるとよいでしょう。これは性別による差異が小さく、個人の体組成により即した指標になりますんで。

 

  • 最低ライン:2.0g/kg(FFMあたり)
  • 最適ライン:2.35g/kg
  • 安全圏ライン:2.75g/kg

 

使い分けの目安

さらには、ここまでの数値を実際にどう活用するかもまとめると、こんな感じです。

 

  • 筋肉を最大限に増やしたい 安全圏(2.35〜2.75g/kg)→減量期・ハードトレ期におすすめ
  • 筋肉維持・ほどよい増量 中間ライン(2.0g/kg前後)→ 食事の自由度と両立したいとき
  • なるべくシンプルに管理したい 最低ライン(1.5〜1.7g/kg)→ プロテイン補給を最小限にしたい場合

 

ってことで、従来の基準よりも“ちょい上”ぐらいの結果となりました。実際のところ、2.0g/kgあたりが“本当の基準”であり、安全圏として2.35g/kgまで摂っておくのが安心ってとこじゃないでしょうか。もちろん、それ以下でも構わないっちゃ構わないんですけど、個人的にはもうすぐ50歳だし、さらにタンパク質を増量しようかなぁ……と。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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