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なぜ今もシャーマンが必要なのか?現代人の不安に効く“古代の知恵についての本を読んだ話

 
 

シャーマニズム(Shamanism: The Timeless Religion)』って本を読みました。著者のマンヴィール・シン先生はカリフォルニア大学の文化人類学者で、サイエンスやネイチャーにも論文が掲載されたことがある偉い人であります。

 

本書のテーマはもちろん「シャーマン」で、古代や未開社会などで霊や精霊と交信し、その力を借りて病気を治療したり、悪霊を追い払ったりするアレですな。というと、たんなる古来の迷信みたいなイメージがあるかもですが、シン先生は10年以上かけて世界中のシャーマンをフィールドワークした上で、

 

  • シャーマニズムは、“消えない”どころか、今も私たちの心理の根底に強く根づく「不安対処ツール」だ!

 

みたいな話になっております。シャーマンは人間の本性にもとづいているので、現代人にもめっちゃ関係があるんだって話ですな。

 

ということで、いつも通り本書から参考になったポイントをまとめてみましょうー。

 

  • シン先生は、「シャーマン的な存在は、ほぼすべての人類社会に登場する」という事実を指摘している。北極圏のトナカイ使いも、アマゾンの農耕民も、古代中国も、アフリカの狩猟民も、どの文化にも「トランス状態で霊と交信する人」が存在している。

    その手法にはバリエーションがあり、踊りや太鼓でトランスに入る者がいれば、幻覚剤を使う者もいるが、みなに共通するのは「何か見えない力と交信し、人の運命を左右する」という役割を持っている点である。このように、シャーマンがヒューマンユニバーサルである事実は、文化の伝播ではなく「人間の心に深く組み込まれた認知のクセ」が原因なのだと考えられる。

 

  • 人間のクセとは、以下のようなものである。

    ・私たちは隠れた因果関係を探したがる → 苦しみには“何か理由がある”と考えがち。
    ・意味がなくても“おまじない”をする → どうしても不安なときは、「やらないよりマシ」と思ってしまう。

    これらは「パターン認知」や「ベットヘッジ」と呼ばれる認知バイアスで、こうした傾向があるからこそどの時代にもシャーマニズムが自然に生まれる。つまり、シャーマンは“文化の産物”ではなく、“脳の仕様”である。

 

  • もう一つ、人間には「異常さ=力がある」という直感があるのも重要である。シャーマンになるためには、たいてい強烈なイニシエーション(通過儀礼)を受ける必要があり、たとえば、

    ・インドネシアのメンタワイ族では、魔法のハーブで視覚を変容させる
    ・オーストラリアでは、胸を切り開いて水晶を体内に入れると信じられていた

    などがある。その他にも、断食、禁欲、幻覚剤の過剰摂取、長期の隔離といった手法があるが、これらの作業が行われるのは、人間には「他と違う存在ほど、何か特別な力を持っていそう」と感じる認知バイアスがあるからである。

 

  • この直感は現代でもしっかり機能しており、

    ジャック・ドーシー(元Twitter CEO)が、一日一食&冷水シャワーを日課にしていることをアピったり、
    エリザベス・ホームズ(Theranos創業者)が、ほぼグリーンジュースだけで生活していることをアピったり、
    サム・バンクマン=フリード(FTX元CEO)が、だらしない服装や寝ぐせを逆手に取って“天才キャラ”を演出したり、

    といったことを行うの、「普通じゃない人=なにか知ってそう」という感覚を引き出すために、現代のテックエリートが活用しているのだと考えられる。

 

  • 「シャーマニズムと宗教の権力構造」も重要なポイントである。私たちは、宗教の進化を「アニミズム→シャーマニズム→一神教」と段階的に進化してきたように思いがちだが、実際の歴史はもっと複雑で、多くの宗教は、もともとシャーマニズム的な要素(予言、トランス、癒し)からスタートし、それが組織化・制度化される中で、「エクスタシー」的な要素が排除されていった経緯を持っている。

    たとえば、初期のキリスト教には預言や霊的体験があふれていたし、モルモン教も初期はシャーマニックな要素が強かったが、制度化が進むごとに「勝手に神と交信する人」は脅威になるため、禁止&排除されることが多い。つまり、シャーマニズムは常に「民衆の直感」として支持されるけれども、「組織の安定」とは相容れない存在でもある。

 

  • では、「シャーマンの治療って本当に効果あるの?」ってとこが気になるが、これについては「十分にある」。そのメカニズムとして、シン博士は以下の内容を挙げている。

    プラセボ効果の極大化→ シャーマン系の治療はドラマチックなので感覚を刺激してくれるし、「自分は大切にされている」と感じられる働きがあるため、自己治癒力が高まる。
    物語の再構成(ナラティブ・セラピー)→ シャーマン系の治療は「霊に取り憑かれている」「魂が迷子」などのストーリーを与えてくれるため、自分の問題に納得感が生まれる。
    社会的な包摂 → シャーマン系の治療は、家族や仲間が一緒に参加し、踊り、抱きしめ合い、食事をするため、孤独が軽減し、それが癒しになる。

    ということで、薬もカウンセリングも効かないようなケースでは、こうした「総合的な支援」が力を発揮するのは、十分にありうる話である。

 

  • このようなシャーマンは現代にも存在し、たとえば金融の世界にいる「ヘッジウィザード」、つまりファンドマネージャーや投資アナリストたちが典型である。彼らは、未来を“予言”することに莫大な報酬が支払われているが、実際のパフォーマンスはランダムと大差がない。それでも、人々が彼らの「儀式」に頼ってしまうのは、彼らが謎の指標を分析し、常人には理解できない専門用語を使い、24時間働いて普通の人間とは違う生活を送り……という“神秘的オーラ”が「この人は特別なんだ」と思わせてしまうからである。つまり、彼らは「魂を呼び戻す」のではなく、「経済的未来を読み解く」ことに特化したシャーマンなのだと言える。

 

  • ということで、シャーマニズムとは、「人間の不安と向き合い、物語を与え、孤独を癒すメンタルテクノロジー」なのだと言え、その必要性は現代でも変わらない。むしろ、不確実性がますます高まる現代においては、誰もが「自分なりのシャーマン的存在」を必要としているのだと言える。

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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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