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今週の小ネタ:プチ断食で痩せる?睡眠改善する?「炎症性の食事」は細胞を老化させる?フィッシュオイルでよく眠れる?

 


ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。

 

 

 

プチ断食で痩せる?睡眠改善する?

ここ数年で「プチ断食」の人気がじわじわと再燃してきてまして、「16時間断食」もだいぶ人気になってきた印象であります。実際、私もかれこれ10年ぐらい続けてまして、すっかり体が慣れております。

 

そこで新たに出た系統的レビュー(R)では、「時間制限食ってどんな効果があるの?」って疑問を改めて掘り下げてくれててナイスでした。このレビューの全体像を見てみると、

 

  • 対象となったのは、18〜71歳の男女。メインは過体重〜肥満傾向の女性。
  • 食事の制限時間は、1日のうち4〜10時間の間だけ食べてOKというパターン(いわゆる16:8とか、20:4など)。
  • 期間は1カ月〜12カ月とばらつきがある。
  • 合計11件の臨床試験を分析。そのうち7件がランダム化比較試験、残り4件はコントロールなしの単群試験になってる。

 

みたいになります。全体のデータの質はそこそこでして、ここから得られる知見もそれなりに信頼できるんじゃないかと。

 

で、結果を超シンプルにまとめてみます。

 

  • 体重と体脂肪は減った。
  • が、睡眠の質は上がらなかった。

 

ということで、体型の管理には有効なんだけど、睡眠の質には影響しないって感じっすね。プチ断食には「体内時計を整える」といったイメージもあるんで、「きっと睡眠も良くなるはず!」と期待しがちなんだけど、今回のレビューだとそうはいかないみたいですな。

 

ただし、ここにはいくつか注意すべきポイントもありまして、

 

  • ほとんどの研究が主観的な睡眠評価しかしていない(つまり「よく寝た気がする」ってだけ)
  • そもそも参加者の睡眠時間は平均7時間で、もともと十分だった
  • カフェインOKだったので、効果が打ち消された可能性あり
  • 研究のバラつきが大きく、バイアスも高め

 

ってあたりがありまして、個人的に睡眠に関してはけっこうエビデンスの質が微妙な印象を受けました。なので、「時間制限食では睡眠の質が上がらない!」と断言するには、まだちょっと時期尚早なのかもしれませんな。

 

ただ、プチ断食が睡眠に効く証拠がないのも事実なので、現状としては、

 

「体脂肪を落としたい」

「血糖コントロールを整えたい」

「過食を防ぎたい」

 

といったメタボ予防や減量を狙ってプチ断食を行うのが、現時点では正解っぽいですね。

 

 

 

「炎症性の食事」は細胞を老化させる?

「炎症を起こす食事が良くない!」って話はよくしてますけど、実際に炎症性の強い食事がどこまで「細胞の寿命」と関係するのかをチェックしたレビュー(R)が出ていて、非常に良い感じでした。

 

このレビューでは、以下のようなデータをまとめております。

 

  • 対象者は合計12万人超(年齢9〜80歳)で、かなり幅広い年齢層になってる。
  • 観察研究9本を分析していて、そのうち7つがクロスセクショナル(単時点の調査)、2つがコホート(5〜10年間の追跡)。
  • 食事の炎症性を表すスコア「DII(Dietary Inflammatory Index)」とテロメア長との関係を調べている。

 

用語を簡単に説明しとくと、テロメアってのは、細胞の染色体の末端についてる「キャップ」みたいなもので、これが短くなると細胞の老化が進むとされております。いわば「細胞の寿命メーター」みたいな存在っすね。

 

また、DIIスコアってのは、過去の研究から食事の炎症度をインデックス化したもので、

 

  • −6.48に近いほど抗炎症的な食事
  • +3.98に近いほど炎症を起こしやすい食事

 

というふうに評価されます。まあ今回の9つの研究は、どれもDIIの全45項目をフル活用していないので、精度にはちょっとバラつきがある感じではあります。そこはちょっと注意。

 

で、肝心の結果はというと、

 

  • 9本のうち4本で、DIIスコアが高いほどテロメアが短いという相関が確認された。

 

みたいになります。つまり、「炎症的な食事ほど、細胞の寿命が短くなるっぽい」って結果ですね。個人的には「やっぱりなー」って結論っすね。

 

ただし、このレビューにはいくつかの制限がありまして、

 

  • ほとんどがクロスセクショナル研究(なので因果関係はよくわからない)
  • 食事の評価法にばらつきあり(FFQ vs 24時間リコール)
  • DIIの計算方法が統一されてない
  • そもそもテロメア長そのものに測定の揺れがある

 

みたいになります。炎症的な食事が細胞の老化に関係する可能性は高いんだけど、証拠はまだ弱いってとこじゃないでしょうか。とはいえ、「抗炎症的な食事」が良いのはほぼ確実なので、食事で「炎症コントロール」するのは大事だよーってとこは動かないわけですが。

 

 

 

フィッシュオイルでよく眠れる?

魚油(フィッシュオイル)で睡眠改善だ!」って話(R)が出ておりました。これは横断研究+14カ月のランダム化比較試験をまとめたレビューでして、その結論を先に言ってしまうと、

 

  • 魚油は睡眠に少しだけ効く!まあ、その効果はかなり控えめだけどね!

 

みたいになります。ちょっと判断に困る結果ですなぁ。

 

で、これがどんな研究だったかと言いますと、

 

  • 横断研究(n=27,549):1本目は、2万7千人以上の2型糖尿病患者を対象とした大規模な横断研究。ここでは、魚油を摂っている人のほうがわずかに睡眠の質が高いって結果なんだけど、その差はわずか0.044ポイントぐらい(4点満点中)。ぶっちゃけ誤差レベルの差なので、調整項目を変えたら消えるかもなーって印象はある。

 

  • ランダム化比較試験(n=344、期間14カ月):2本目のRCTでは、344人の2型糖尿病患者を対象に、「低用量魚油(1.5g)」「高用量魚油(3g)」「プラセボ(オリーブオイル)」の3グループに分けて比較している。その結果、魚油グループのほうが、プラセボよりも睡眠の質スコアが0.2ポイントほど高かったそうなんで、横断研究よりはマシだけど、やっぱり臨床的に意味があるかは微妙なライン。

 

ってことで、どうにも判断が難しい感じになってますね。なんでこんなフワッとした結果なのかと言いますと、

 

  • 睡眠の測定法が標準のやり方を使ってない(「ピッツバーグ睡眠質問票」を改変した独自スケールを使ってる)。なので、臨床的な有意差がどれくらいか不明。

 

  • 年齢・性別・喫煙歴などの交絡因子を統計的に調整しているものの、事前登録で明示されていない調整も含まれており、統計マジックの可能性も合ったりする。

 

みたいなとこがデカいっすね。ちなみに、過去の研究と照らし合わせてみても、フィッシュオイルと睡眠の関係については効果が出たり出なかったりなんで、やはりなんとも言い難かったりします。

 

とはいえ、完全に効果がないとも言えないのがムズいとこで、フィッシュオイルには、

 

  • 片頭痛の緩和
  • 変形性関節症の炎症軽減

 

といった効果が報告されており、それによって間接的に「寝やすくなった」と感じるケースはありそうですしね。つまり、フィッシュオイルってのは、「慢性的な不調を抱えている人にとっては、結果的に睡眠が改善することもある」ぐらいに考えるのが良いのかもしれませんねぇ。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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