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炭水化物制限は本当に健康にいいのか?──174試験・1万人超のメタ解析から見えた真実

 

「糖質制限って、結局いいの?悪いの?」って議論はいまだに続いているわけです。糖質を減らすと体重がスルスル落ちたって体験談がネットにあふれる一方で、「脳に糖が必要!糖質制限は危険!」という声も根強いですからね。個人的には「糖質制限は他のダイエット法と比べて良くも悪くもないから、好きすればいいのでは?あんま過激な糖質制限は危ないからお勧めしないけど」ぐらいの立ち位置なんですが、結局どう考えればいいのか?とお悩みの方もおりましょう。

 

 

ってことで、新たに行われたメタ分析(R)では、174本のランダム化比較試験、合計11,481人、27か国という超ビッグデータをまとめた上で、「糖質制限は体に良いのか悪いのか?」って問題を掘り下げてくれております。これまでの証拠を総動員して「糖質制限の総合評価」を下した、現時点では最も精度の高いナイスな論文と言えるでしょうね。

 

 

結論:糖質制限は「良いとこ」と「悪いとこ」がある

では、徹底分析の結果なにがわかったのか?さっそく結果を見ていきましょう。

 

糖質制限をした人たちに起きた変化をざっくりまとめると、こんな感じになります。

 

  • 糖質制限のおかげで改善したもの

    • 中性脂肪(トリグリセリド):減少

    • 血圧(収縮期・拡張期):低下

    • CRPやTNF-αなど炎症マーカー:減少

    • HDLコレステロール:上昇

  • 糖質制限のせいで悪化したもの

    • LDLコレステロール:上昇

    • 総コレステロール:上昇

    • 除脂肪量(筋肉量):減りやすい

 

ってことで、糖質制限をやると「心血管リスクを下げる要素」と「上げる要素」が同時に動く、という複雑な結果になってるんですよね。特に注目すべきは、体重や体脂肪はしっかり減るのに、筋肉も一緒に減りやすいって点でして、たとえ減量に成功しても健康レベルを保つのは意外と難しいんだろうなー、って印象ですね。

 

 

糖質の制限レベルでリスクとリターンは変わる

ただし、糖質制限なら何でも似たような結果になるって話ではなくて、「どれだけ糖質を減らすか?」によって違いが出てるのも面白いところです。研究チームは糖質制限を3つのタイプに分けて解析してまして、

 

  1. ケトジェニック(ケト):糖質を摂取エネルギーの10%以下(20〜50g/日)にした場合には、

    • 体重減少は最大。

    • ただしLDLと総コレステロールの上昇も大きい。

  2. ロー・カーボ:糖質を摂取エネルギーの10〜26%にした場合は、

    • 減量効果はそこそこ。

    • 血圧や脂質改善も見られる。

  3. ミドル・カーボ:糖質を摂取エネルギーの26〜45%にした場合は、

    • 効果はマイルド。

    • 筋肉の減少が少なく、心血管リスクの改善とバランスが取れている。

 

みたいな結果になっております。「とにかく体重を落としたい」ならケトやローが良さそうだけど、「健康リスクを最小化しつつ痩せたい」ならミドルぐらいに押さえておくのがいいんだろうなーってところっすね。極端な糖質制限ほど体重は落ちるんだけど、リスクも同時に高まっちゃうってのが難しいところです(私は健康リスクを上げてまで体重を減らす意味はないと思いますが)。

 

さらに、データをよく見てみると、糖質制限の効果が強く出やすい人もいるようでして、

 

  • 女性

  • 肥満または2型糖尿病の人

 

という2グループは、血圧や炎症マーカーの改善が顕著だったそうな。逆に、すでに健康体でBMIが正常な人では、あまり大きな変化は見られなかったってことなので、すでに元気な人が無理に糖質制限してもあまり得るものはなく、むしろリスク(LDL上昇や筋肉減少)が目立ってしまうかも、ってことになりましょう。ここは注意しときたいですねー。

 

 

糖質制限をやりたいと思ったらどうすべきか?

そんなわけで、研究チームの結論を踏まえつつ「糖質制限をやりたいと思ったらどうすべきか?」をまとめると、こんな感じになるでしょう。

 

  1. ガッツリ痩せたいなら

    • ケトやローで短期集中もアリ。

    • ただし血液検査でLDLや総コレステロールを必ずチェック。

  2. 長期的に健康を維持したいなら

    • ミドル・カーボ(炭水化物をエネルギーの26〜45%)がおすすめ。

    • 筋肉減少も抑えやすく、バランスが良い。

  3. どのスタイルでも必須なのはタンパク質確保

    • 筋肉減少を防ぐには、体重1kgあたり1.6〜2.2gのタンパク質を確保したい。

 

ここらへんを意識すれば、糖質制限のデメリットを避けつつ、メリットを享受できるんじゃないでしょうか。

 

まあこのメタ分析には弱点もあって、「糖質の質(食物繊維 vs 精製糖質)」の分析は行っていないあたりは、ちょっと残念なところではあります。なので、同じ200gの炭水化物でも、「全粒オートミール+野菜」なのか「白パン+砂糖」なのかで健康効果はまるで違うんじゃないかなーと思うわけです。食物繊維の摂取量が多いほど心血管リスクは下がりますからねぇ。これも合わせて考えてみると、糖質制限を考えるときは量より質を優先するのが基本戦略になりましょう。

 

話をまとめると、今回のメタ分析から見えたのは、

 

  • 極端にやれば痩せるがリスクもある

  • 中程度ならバランスが良い

  • 質の高い炭水化物を残すのが最重要

 

ってことになりましょう。要は、糖質制限をやりたいのであれば目的に応じて調整してくださいってことでして、そりゃあ「結婚式までに10kg落としたい!」という人と、「あと30年健康に生きたい」という人とでは取るべきアプローチが違うのは当然ですからねぇ。どうぞよしなにー。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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