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今週の小ネタ:プロバイオティクスで睡眠と気分はよくなるのか?断食×運動でメンタルは良くなるのか?サルコペニア対策は「運動+栄養」の二刀流で

 


ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。

 

 

プロバイオティクスで睡眠と気分はよくなるのか?

「腸と脳はつながっている!」って話は常識になりまして、それに伴って「プロバイオティクス(腸内細菌サプリ)でメンタルが改善するかも」って話も出てきてるわけです。プロバイオティクスで腸内を整えれば、それで気分もよくなるのでは?みたいな考え方ですな。

 

最近のランダム化比較試験(RCT)(R)も、この問題を掘り下げたものでして、睡眠に問題を抱える男女99名を集めて12週間の実験を進めております。具体的には、参加者の半分にプロバイオティクス(Lactobacillus rhamnosus100億CFU、Bifidobacterium longum、50億CFU)を1日1カプセルずつ飲んでもらい、プラセボグループと比べたんだそうな。

 

で、結果がどうだったかと言いますと、プロバイオティクスを使ったグループは、

 

  • 睡眠効率がアップした(ベッドに入ってから実際に眠れている時間の割合が改善した)

  • 不安・抑うつスコアが改善した

  • 腸内細菌が増えた

    • ラクトバチルス:1.8% → 3.5%

    • ビフィドバクテリウム:2.1% → 4.8%

  • 短鎖脂肪酸(SCFA)の産生が増加した(腸内を守ってくれるバリア物質)

 

みたいになります。つまり、プロバイオティクスでメンタルが改善するって仮説に、一応の裏づけが取れたわけですね。

 

ただし、ここで「やったー!やっぱり乳酸菌最強!」と手放しで喜ぶのは早計でして、この試験ってのは事前登録がないせいで、研究者が「どのアウトカムを見るか」を後出しで決めた可能性があるし、データを見るとプラセボ群の腸内環境データが抜けているせいで、「実験の差がプロバイオティクスのおかげかどうか」を断定できないしで、いまいち信頼に欠ける研究であるところは押さえておいてくださいませ。結果は面白いけど「バイアスが大きめ」で、そこまで強いエビデンスではないんで。

 

とはいえ、個人的には、ここまでの流れを見ていると「プロバイオティクスが睡眠や気分に効く可能性はあるかなー」と考えてまして、過信せずにメンタルの補助的に使うぐらいならアリではないかと思ってるわけです。気になる方はぜひどうぞー。

 

 

 

断食×運動でメンタルは良くなるのか?

さて、世に人気が高い健康法のひとつに「16:8断食+運動」ってのがあります。1日のうちに8時間だけ好きに食事をして、残りの16時間の空腹期間に運動を行う……みたいな考え方ですな。個人的には、まあ運動のタイミングはどっちでもいいんじゃない?と思ってるんですけど、一部には「空腹時に走ると集中力が上がる!」とか「断食しながら筋トレすると幸福感が高まる!」なんて話もありまして、メンタル面での効果のほどが気になる方もおりましょう。

 

ってことで、近ごろちょうどいい実験(R)が出てたので、内容をチェックしておきましょう。これは36名の男女を対象にした8週間の試験で、全体を3つのグループに分けてます。

 

 

  1. → 16:8の断食スケジュールを守り、空腹のまま運動。
  2. 断食+糖質スナックグループ → 同じく16:8断食だが、運動前に軽い炭水化物を補給。
  3. 自由に食べるグループ → 食事制限なしで運動のみ。

 

 

この時、運動は全員同じにそろえてまして、60分の有酸素運動を週3回って条件で比べたんだそうな。つまり「食べ方以外はガチで同条件」なわけですね。

 

で、気になる結果は、こんな感じになりました。

 

  • メンタル面(生活の質、食行動、気分)に差はまったくなし

  • ボディイメージ(自分の体の見え方・感じ方)は全グループで改善

 

ってことで、この結果を見る限りは、断食をしてもしなくても、運動さえ続けておけば「体の見え方は良くなるし、メンタルは悪化しない」というシンプルな結論になりそうっすね。まあ、この試験の参加者は元々メンタル状態が良かったので、「ストレスが強い人や気分が落ち込んでいる人なら、また違う結果になるかもしれませんが。

 

ということで、この実験では「断食×運動でメンタル改善!」って可能性は否定されましたが、個人的には逆に断食と運動を組み合わせても精神的にマイナスはないんだなーなので、「脂肪燃焼を狙って空腹で運動したい」みたいな方は安心してトライしていただければと。

 

 

 

サルコペニア対策は「運動+栄養」の二刀流で

「サルコペニア」ってのは、「加齢で筋肉が減って、体の機能が落ちてしまう状態」のこと。こいつを放置すると転倒リスクが上がるし、寝たきりの原因にもなったりする、まことに厄介なやつであります。

 

じゃあ「サルコペニアをどう防げばいいの?」という話になるわけですが、新しいメタ分析(R)が良い感じだったのでポイントを見てみましょう。まず研究をざっくりまとめると、

 

  • 対象:サルコペニアの高齢者2,491名

  • 研究数:15件のRCTを統合

  • 介入

    • 運動→主に週3〜5回の筋トレをする

    • 栄養→タンパク質:体重1.0〜1.5g/kg/日、ビタミンD 100〜800IU/日、またはマルチビタミンサプリを飲む

  • 比較:日常生活のみのグループをした人と、効果を比べる(運動や栄養介入なし)

  • 期間:6週間〜3年

 

って感じで、非常によろしい内容になってるんじゃないかと思うわけです。でもって、その分析の結果を見てみると、

 

  • 握力:+1.4kg

  • 筋肉量:+0.18kg/m²

  • 歩行速度:+0.1m/秒

  • 椅子立ち上がり速度:−1.7秒

 

みたいになってまして、いずれもコントロール群より有意に改善が見られております。つまり、「運動+栄養」は、サルコペニア高齢者の身体機能を底上げできる、って結論ですね。一般的なサルコペニア診断基準(EWGSOP2)と同じ結論ですな。

 

まあこれだと当たり前の結論すぎるので、データの中から、もうちょい実践に使えそうなポイントを探ってみると、こんな感じになるでしょう。

 

  • 週3回以上の筋トレはマスト:軽い負荷でもOKなんで、とにかく継続が命っぽい。

  • タンパク質は1.0〜1.5g/kgを目安に:体重60kgなら60〜90gが最低ライン。プロテインを使って、どうにかするのが吉。

  • ビタミンDの補給:強い骨を守るためには必須。日光に当たらないならサプリも検討する。

 

この3本柱を抑えておけば、年齢を重ねても「歩ける・立てる・転ばない体」を守れる可能性が高いってことですね。めっちゃ普通の結論に落ち着きましたが、筋肉を守ることは「寿命を延ばすこと」につながるので、とにかくやっとくしかないですな。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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