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今週の小ネタ:若者のメンタルがヤバいのでは?人間の行動はどこまで習慣が決める?文化が植えつける"美の呪い”の話

 


ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。

 

 

 

若者のメンタルがヤバいのでは?という研究

私がオッサンなので、「中高年の幸福」に関するデータはよくチェックしてるわけです。新しい研究(R)もその一つで、一般的に言われる「人は年をとるほど幸せになる」という説を調べたものです。

 

これは俗に「幸福のU字カーブ」と呼ばれてまして、人間の幸福ってのは、

 

  1. 若いうちはそこそこ幸せ
  2. 中年期に一度落ち込み
  3. 老年期になるとまた持ち直す

 

というパターンに従うんだって考え方であります。このようなパターンは、600件以上の研究により世界中で確認されてきたもので、“ほぼ常識”のような知見になってるんですな。

 

が、今回の研究は「そのカーブ、もう存在しないかも……」って可能性を示してまして、ちょっと面白いんですよ。

 

この研究はアメリカ、イギリス、そしてその他44カ国から合計1,700万人以上のデータを使って、年齢とメンタルヘルスの関係を分析したもの。まずは結論から言いますと、だいたいこんな感じになります。

 

  1. 人間の幸福度は年齢とともに上がっていく一方だった
  2. 中年期に不幸になるって事実は確認されなかった
  3. その代わり、若者のメンタルが急降下していた

 

つまり、全体として「年をとると幸福になる」ってのは間違ってないんだけど、その背景には“若い世代の絶望的な落ち込み”があるのではないか、と。なんか心配な話になってきましたね。

 

では、実際のデータをもうちょい詳しく見てみましょう。

 

  • アメリカでは、「過去1ヶ月、毎日メンタルが不調だった」と答えた人の割合は、1993年には3.7%、2023年には6.7%に上昇。25歳未満では2.9% → 8%と、約3倍に悪化した。

 

  • イギリスでは、「絶望状態」とされた若い男性の割合が2.3% → 6.4%に上昇。若い女性はさらに深刻で、4.4% → 12.7%へと3倍近く上昇した。また、不安スコアも25歳未満で大幅に上昇している。

 

  • 世界44カ国のデータでは、25歳未満の48%が「メンタルリスクあり」と判定されており、年齢が上がるにつれて、メンタル状態はほぼ直線的に改善する。

 

ということで、どうも世界規模で若者の心がやられているっぽいんですよね。

 

というと「コロナの影響では?」と思う人もいるでしょうが、研究チームは「コロナは既存の傾向を“加速させた”にすぎない」と述べていて、元々2008年あたりから、若者のメンタルが悪化している事実を指摘しておられます。

 

ここらへんの原因はまだ謎なんだけど、原因として考えられているのは、

 

  • 不安定な労働市場
  • 学業や就職競争のプレッシャー
  • メンタルヘルスサービスの慢性的な資金不足
  • 生活費の上昇、将来不安
  • 差別や社会的不公平

 

などなんだそうな。特にSNSによる比較・炎上・見られる意識の強化は、若年層の脳にとって過酷な環境すぎるのでは?とも言われてたりしますね。うーん、恐ろしい。

 

で、この研究の恐ろしいところは、「若い世代が不幸になった」だけでなく「もはや年を取っても、幸福になるとは限らない」という可能性を示唆している点だったりします。なぜなら、この幸福度の“上昇カーブ”は、「若者の落ち込みが激しすぎるから相対的にマシに見える」という相対的な現象なので、必ずしも中年や高齢者の生活が改善しているわけじゃないんですよ。うーん。

 

なんだか暗い話になりましたけど、とりあえず若い世代の皆さまに置かれましては、

 

  • SNSの使い方を見直す
  • 安心できる対人関係を確保する
  • メンタルケアに対する恥をなくす

 

といったあたりの重要性がさらに増すんでしょうな。どうぞよしなに。

 

 

 

人間の行動はどこまで習慣が決めるのか?

人生は良い習慣で決まる!などとよく言いますが、実際のところ、私たちは普段の行動をどれぐらい習慣に任せているのか?を調べた研究(R)がおもしろかったんで、メモっておきましょう。

 

この研究は、イギリスとオーストラリアの105人を対象に、「日常の行動はどれくらい自動的に行われているのか?」を調べたもの。どんな調査をしたのかと言いますと、

 

  • 1日6回、参加者のスマホに「いま何してる?」という通知を送る

  • その都度、行動の内容、どれくらい意図的だったか、自動的に感じたか、目標に沿った行動かどうかを回答してもらう

 

みたいになります。いわゆる「リアルタイム観察法」を使ったデザインでして、なかなかしっかりした内容になってるんじゃないかと。

 

で、分析の結果がどうなったかというと、ざっくり以下のようになります。

 

  • 66%の行動は「習慣的に始まっていた」

  • 88%は「自動的に実行されていた」
  • 75%の行動は「目標に合致していた」

  • でも16%は「習慣でやってたけど、目標には反してた」

 

というわけで、ほとんどの行動が「なんとなく」や「つい」って感じで始まり、なおかつ「あまり意識しないうちに終わっていた」ってことですな。

 

この研究のポイントは、「人間の行動の大半が習慣だった」って事実を明確にしたことに加えて、人生の邪魔する習慣も16%ぐらい発生しているってのを教えてくれる所でしょうな。つまり、「冷蔵庫を開けるたびにチョコを手に取っちゃう」とか「仕事中に無意識でSNSをチェックしちゃう」みたいな、「環境と結びついた習慣」が自動で作動するような状態は、人生のそこそこの割合を占めているんじゃないか、と。

 

ってことで研究チームは、こんなふうに結論づけています。

 

ほぼすべての行動は習慣によって支えられる。だから、どんな行動も習慣化の対象にできる。

 

誰にも悪い習慣はあるんだけど、それはすべて良い行動で変えられるから、あきらめずにやってこうぜーってことですね。

 

で、当然ながら、そのために最も重要なのは「自動化された悪癖」に気づくことなんで、「自分の悪癖を起こすトリガーはなにか?」を同定するのがめっちゃ大事ってことになりましょう。たとえば、「夜にNetflixをつけると、ついスナック菓子を食べてしまう」みたいなことですね。

 

いずれにせよ、このデータを見る限り、人間の行動の3分の2は「習慣」によって始まっているっぽいんで、この自動操縦をいかに使うかが大事っすねぇ。

 

 

 

 

文化が植えつける"美の呪い”の話

多様性の時代と言いつつも、なかなか変わらないのが美の基準であります。なんだかんだで「痩せてて色白」をよしとする文化は根強いですからね。

 

で、そこで新たに出た研究(R)は、「UKに暮らす南アジア系の女性たちの身体イメージ」をテーマにしていて興味深い感じでした。いわゆる摂食障害やボディイメージの研究は他にもたくさんあるんだけど、大半は白人の若い女性を対象にしてるもんで、このような研究は貴重っすね。

 

この調査では、イギリスに住む18〜29歳の南アジア系の女性15名を対象に、摂食障害の経験がある人と、外見に対するプレッシャーを感じている人たちを中心にインタビューを実施。その際に、

 

  • 肌の色や体型へのこだわり(いわゆるカラリズム
  • 家族やコミュニティの期待
  • 食文化や宗教的な価値観
  • 精神的なサポートへのアクセス

 

などがどう影響しているかを、深掘りしたんだそうな。さらに、これに加えて当事者の南アジア系女性たちが研究設計やインタビューに参加しまして、いわゆる“共創型リサーチ”になっております。これによって、従来の「外から観察する」研究では見えなかったリアルな声が浮き彫りになるわけです。

 

で、研究チームが導き出したのは、以下の4つのテーマであります。

 

  1. 社会・構造レベルの圧力:まずは「白くて細い方が美しい」という欧米的な美の基準が、現代人に色濃く影響しているという点。「赤ちゃんが生まれたら最初に聞かれるのが“この子、色黒?”だった」「南アジア系セレブが美白クリームのCMに出てるのを見て育った」など、“肌の色が薄い=価値が高い”という価値観が、家庭やメディアを通じて刷り込まれていく構造があらゆる場面で登場してたとのこと。


  2. 文化的な力とのせめぎ合い:次は、南アジア文化の中での“女性としての役割”に関する圧力。この文化圏では、「色白で細ければ細いほど結婚相手として価値がある」とされ、「“これ食べて”と言われた後に“太ったね”って言われる」などの問題を経験するケースが多いらしい。さらには、学業のプレッシャーが“完璧主義”とセットになり、摂食行動にも影響するといった興味深い指摘もあった。


  3. 家族・身体・アイデンティティの交差点:ここでは、家庭内での会話や身体的特徴が自己イメージに与える影響が語られております。たとえば、「母親が“あなた太ったね”って言うと、それが真実になる」「目標体重が“母の結婚式のときの体重”だった」「PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)で毛深くなって周囲から嫌がられた」など、このあたりは文化的な理想像と個人のギャップがストレスになっている感じっすね。


  4. 恥と沈黙のサイクル:最後のテーマは、「話せないことが問題を深刻化させる」という構造で、「家族の評判を守らないといけない」「“うちの国ではもっと苦労してた”って言われて、悩みを話せなくなる」みたいな指摘が多く、こうした「問題をオープンに話してはいけない」って価値観のせいで、精神的なサポートにアクセスできず、問題が地下化するという話も出ておりました。これは日本でもありがちな話ですね。

 

ということで、この研究を見て思うのは、「なぜ私たちは自分の体を好きになれないのか?」という問いに対して、“個人の問題”では済まされない背景が山ほどあるってとこでしょう。習慣的に家族から呪いをかけられたり、目に見えない“文化的な基準”に縛られたり、身体的な変化に対する偏見につぶされたりと、こうした外的要因が何層にも重なって、「美の呪い」みたいなものを形作っているわけっすね。これは先進国ならどこにでもある問題でしょうな。

 

ということで、安易に答えが出ない話ではありますが、「見えにくい文化的圧力を可視化するぞ!」ってスタンスを常に頭のどっかに入れておくと、もっとケアの幅が広がってよいカモっすね。

 

 

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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