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現代人は昔よりも男性ホルモンが下がっている!はどこまで本当なのか?

 


ここ数年、「男性のテストステロンが激減中!」みたいなニュースをよく見かけるわけです。


どんな話かと言いますと、年齢が同じでも、昔の男性のほうが今より高いテストステロン値を持っていて、現代の若い男性は過去に比べて明らかに“男らしさのホルモン”が足りなくなってきている……みたいな感じでして、これらのレポートをもとに「昔の25歳は今より男らしかった」とか「現代の男は去勢されたも同然だ!」なんて極端な意見も見かけたりするんですよ。


たしかに、テストステロン(男性ホルモン)は、筋力、性欲、気力などに関わる重要ホルモンなんで、こういう話を聞くとちょっと不安になりますなぁ。

 

では、この考え方はどこまで正しいのかってことで、最新の研究(R)では「テストステロンの低下は事実か?」って問題にナイスな知見を述べてくれてて良い感じでした。

 

 

 

テストステロンの低下って測定法が変わっただけじゃないの?説

この研究は、2001年〜2016年の米国の健康成人男性を対象に、テストステロン値の変化を追ったもの。要するに、昔と今のデータを直接比較して、本当に“若者のホルモンが下がっている”のかどうかを確認したわけですね。

 

その結果、研究チームは以下のような傾向を報告しております。

 

  • 2001〜2004年の中央値:約495 ng/dL(古い測定法)
  • 2011〜2016年の中央値:約420 ng/dL(新しい測定法)

 

一見すると「うわー、めっちゃ下がってるじゃん」と思うんですが、ここで注目すべきは測定方法の変更であります。実はテストステロンの測定ってのは、2000年代前半までは免疫測定法(イムノアッセイ)って手法を使ってたんですが、この方法は精度があまり高くなく、実際の値より高めに出てしまう傾向があったんですよ。なので、その後は、より正確とされる質量分析法(LC-MS/MS)ってのが使われるようになりまして、そのせいで測定値が一気に下がってしまったというわけです。過去の基準で今の数値を見たら、そりゃ低く見えますわな。

 

が、だからといって「すべて測定法のせいなのか?」というと、そこまで単純でもないのが難しいところではあります。というのも、他の長期研究(R)を見ると、同じ検査方法でもじわじわとテストステロン値が下がっている傾向は確認されてるんですよね。簡単に申し上げますと、

 

  • 2006年の21歳男性の平均:568 ng/dL
  • 2019年の21歳男性の平均:512 ng/dL

 

って感じでして、だいたい10年で10%ぐらいの下がりっぷりなんですな。そう考えると、測定法の違いによってテストステロンの減少が大きく見えがちではあるものの、ライフスタイルや環境要因の影響も無視できない感じなんでしょうなぁ。

 

 

 

じゃあ何がテストステロンを下げてるのか?

となると、テストステロン低下の原因が気になっちゃうところですけども、これまでの研究をふまえてテストステロンの低下の原因をざっくりまとめなおしておくと以下の3つになります。

 

1.測定法の変化:「免疫測定法 → 質量分析法」への変更で、測定値が下がった。同じ「300 ng/dL」という基準値でも、使っている装置が違えば“意味合い”も違うので、結果として、「正常なのに低テストステロンと診断される人」が増えてしまっている可能性がある。

 

2. ライフスタイルの変化運動不足、睡眠不足、慢性的ストレス、マイクロ栄養素の不足(ビタミンD、亜鉛、マグネシウムなど)、肥満や内臓脂肪の増加など、これらが複合的に影響して、現代人のテストステロンはちょっとずつ下がっている可能性が高い。

 

3. 環境ホルモン(内分泌かく乱物質)プラスチック、防炎加工、化粧品、農薬、水道水などに含まれるフタル酸エステル、ビスフェノールA、PFASなどが、ホルモンバランスを崩している可能性もある。ただし「どの物質がどのぐらいの影響を与えているか?」はまだまったく確定していない。

 

いずれもなかなか大変な問題ですけども、正直、これらの要素を完全にクリアするのは非現実的でしょう。水道水をすべてRO水に変えて、調理器具も全て鉄か陶器にして、無添加無農薬の食材だけにする……とかやっていたら、それだけで人生が終わっちゃいそうですし。

 

なので、テストステロンの低下問題をふせぐために「高コスパな対策」だけを考えてみると、こんな感じになるでしょう。

 

 1. ライフスタイルの見直し(最優先)

  • 週に2〜3回の筋トレ(特に脚の大筋群)
  • 有酸素運動(週150分程度)
  • 7〜9時間の良質な睡眠
  • ストレス管理(瞑想やジャーナリングなど)
  • ミクロ栄養素を意識(特に亜鉛・マグネシウム・ビタミンD)

 

これだけでも、テストステロン値は自然と回復する可能性が高いですし、仮にホルモンに変化がなかったとしても健康全般にはプラスしかないんで、ぜひやっときましょう。

 

 2. 環境ホルモンを“ほどほど”に避ける

  • プラスチック容器は温めない(BPAの溶出を防ぐ)
  • ステンレスやガラスの水筒を使う
  • フタル酸フリーやパラベンフリーの化粧品を選ぶ
  • 水道水が気になるなら、活性炭フィルターなどを検討
  • 加工食品やジャンクフードを減らす

 

ってことで、ここまで読んで「結局、俺のテストステロン大丈夫なんかい?」と思った方もいるかもですが、そこはそんな気にしなくても良いでしょう。たとえば、平均値が500 ng/dLから400 ng/dLに下がったところで、ほとんどの人は症状として何も感じないのが実際のところなんで。

 

実際、「低テストステロン症」と診断されるには、数値だけでなく、

 

  • 性欲の著しい減退
  • 筋力低下
  • 慢性疲労
  • 抑うつ傾向

 

などの複数の症状が併発していることが前提なんですね。つまり、数字だけ見て一喜一憂する必要はないかなーとか思っております。とりあえず、テストステロンの減少については、昔ながらの「よく寝て、動いて、ちゃんと食べる」って昔ながらの生活をやっとけば、そこまで心配しなくていいんで。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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