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女性も“男性ホルモン”が足りないの? テストステロン補充は本当に必要か?問題

 
 

ここ最近、SNS界隈を中心に「女性もテストステロンが大事!」とか「女性は更年期で男性ホルモンが激減するから補充したほうがいい!」みたいな話が広まっております。一部には「ホルモン補充で若返る!」「筋肉がつく!」「気分もアガる!」みたいな主張もあったりしまして、女性でも「テストステロンを増やさねば!」と思っている方も少なからずいるかもしれません。

 

とはいえ、更年期の女性がテストステロンを補充したいほうがいいのか?にいては、どこまで妥当性があるのか? そもそも女性において「テストステロンが低い」ってどういう意味なのか? みたいなポイントは、まだ意外としっかり語られてないところであります。数値の定義も測定方法もあいまいなので、判断が難しいんですよね。

 

といったところで、新たに出たレビュー論文(R)は、「女性のテストステロンは本当に減るのか?」「更年期が影響しているのか?」といった点について、わりと網羅的に調べてくれてますんで、そこらへんの内容をチェックしておきましょう。

 

 

女性のテストステロンはどこで作られるのか?

まず前提として、女性の体内ではテストステロンは主に以下の3か所で作られております。

 

  • 卵巣
  • 副腎
  • 前駆体ホルモン(アンドロステンジオンやDHEA)からの変換

 

この中でも、アンドロステンジオンは、体内でテストステロンに変わる前駆物質であり、特に卵巣からの分泌が大きいと言われてるんですよ。つまり、卵巣の機能が落ちるとアンドロステンジオンが減り、結果としてテストステロンも減る可能性があるわけですね。

 

なので、女性もテストステロンは下がることはあるんですが、ここで大事なのが、実際には更年期そのものがテストステロンの急激な減少を引き起こすわけではない、ってところです。というのも、研究チームが行った研究では、40歳から69歳の女性1104名を対象に、血中のテストステロン、DHEA、アンドロステンジオンの濃度をチェックしたところ(測定には信頼性の高いLC-MS/MS法を使用)、以下のような結果が出たんだそうな。

 

  • テストステロンは年齢とともに緩やかに減少(40歳→59歳で約25%減)
  • ただし更年期そのものはテストステロンの低下に独立した影響を与えていない
  • DHEAとアンドロステンジオンは年齢とともに減少するが、アンドロステンジオンだけは更年期で有意に下がる
  • なぜか60歳を超えると、テストステロン値がわずかに上昇する(※理由は不明)

 

つまり、年を取ればテストステロンは自然に少しずつ減っていくものの、更年期がそれに拍車をかけるわけではないってことでして、こいつは従来の「更年期=ホルモン全滅説」に対する良い反証になってるんじゃないかと。

 

 

テストステロン補充療法は女性にも有効なのか?

ここで皆さんが気になるのは、「で、テストステロンが下がったら何が困るの?」というところでしょう。実はこれについては、意外とシンプルな答えが出ていまして、

 

  • 現時点でテストステロン療法が効果的とされるのは、「性的欲求の低下」のみに限られる。

 

みたいな感じになります。なんでも、これが世界中の専門学会が一致して出しているコンセンサスなんだそうで、たとえば筋力の低下や気分の落ち込み、肌荒れ、脳のモヤモヤといった症状に対して、テストステロン療法の有効性を示す十分なエビデンスは今のところ存在しないんだそうな。

 

というか、むしろ女性に対して高用量のテストステロンを使うと、以下のような副作用も報告されてるんで注意であります。

 

  • にきび
  • 多毛(特に顔)
  • 声の低下
  • 性器の肥大
  • 月経異常

 

これらの副作用リスクを考えると、現時点でテストステロン補充療法ってのは「性的欲求の低下が明確にある」かつ「他の治療法が効かない」というごく限られたケースにのみ、慎重に使用すべきってことなんでしょうな。

 

ちなみに、最近は「ホルモン値を測ってから最適な治療を」みたいなアドバイスを見聞きすることもありますが、これにも注意が必要でして、それというのも、

 

  • テストステロンは1日の中でもかなり変動する
  • 月経周期でも上下する
  • さらに、よく使われる免疫測定法(イムノアッセイ)は女性の低濃度テストステロンを正確に測れない
  • よって、測るならLC-MS/MS法がベターだが、コストも手間もかかる

 

といった問題があるからです。しかも、「この数値を下回ったら『低テストステロン症』と診断される」みたいな明確なカットオフもないんで、結局のところ、症状があるかどうかが治療の判断材料になりがちなんですよねぇ。

 

ってことで、このレビューの論点をまとめますと、

 

  • 女性のテストステロンは年齢とともに緩やかに低下するが、更年期が直接の原因ではない

  • テストステロン療法は、性的欲求の低下に対してのみ効果が確認されている

  • 他の症状(筋力、気分、肌など)に対しては根拠が乏しい

  • ホルモン検査の精度や解釈にも注意が必要

 

みたいになります。ということで、「テストステロンが下がってるからすぐ補充!」みたいな話には、慎重にアプローチしたほうがよさそうです。まあ、年を取ればホルモンが変わるのは自然なことであり、すべての変化を「治療すべき病気」と捉えるのは、むしろ問題を複雑にするだけかもしれませんな。

 

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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