このブログを検索




6,902人のデータが示す、子どものレジリエンスを育てるベストな方法とは?

 
 

ここ最近、「レジリエンス」という言葉をよく耳にするようになりました。簡単に言うと、レジリエンスとは「ストレスや困難から立ち直る力」のこと。たとえば、いじめや失敗、挫折などの逆境に出会ったときに、それをうまく乗り越えていける精神的な回復力のことを指しております。

 

メンタルがやられがちな時代ですから、「落ち込みからの回復力」ってのは、大人にとっても子どもにとっても重要なスキルなのは間違いないでしょう。

 

ただ、「じゃあ、どうすればレジリエンスって高まるの?」という点については、まだまだ議論の余地がありまして、とくに子どもやティーンに対しては「マインドフルネスが良いらしい」「心理教育が効くらしい」みたいな話が飛び交っていて、正直どれが本命なのかわかりにくいのが現状だったりします。まあ、子ども向けのメンタルトレーニングって玉石混交ですからね。

 

そんな状況の中、近ごろわりと大規模なメタ分析(R)が出まして、子どもとティーン向けに行われた30のRCT(ランダム化比較試験)を分析して、「どうやればレジリエンスが最も育ちやすいのか?」って問題に、なかなかクリアな答えを出してくれております。

 

このメタ分析で合計6,902人の子どもと若者を対象にした先行研究をまとめて、以下の3タイプのレジリエンス向上プログラムの効果を比べてます。

 

  • スポーツ系プログラム:武道やチームスポーツなどの「構造化された身体活動」をベースにしたもの。心身の統合や社会性の強化を狙う内容が多い。

  • マインドフルネス系プログラム:瞑想、呼吸法、注意トレーニングなど、内面への気づきを高める内容。

  • レジリエンス系プログラム:自尊心やコーピング(ストレス対処法)、楽観性などを高める心理教育系のアプローチ。

 

それぞれの効果を、なにもしなかったグループ(あるいは別の軽いプログラムをやったグループ)と比較してみたところ、結果はこうなりました。

 

  • スポーツ系= 中程度の効果

  • マインドフルネス系= 小さい効果

  • レジリエンス系= 小さい効果

 

ということで、意外と言うべきかレジリエンス系のトレーニングは効果が小さく、実はスポーツが最もレジリエンスの成長に効くという結論であります。結局、ストレス対策より瞑想よりも運動がベストなのか!って感じですが、個人的にはわりと納得のいく結果でもあったりしました。

 

というのも、ちょっと考えてみると、スポーツにはレジリエンスを高める要素がいろいろ含まれているんですよ。具体的には、

 

  • 身体的ストレスへの耐性強化 → 身体的ストレスに慣れた人は、メンタルのストレスにも強くなることがわかっている

  • 社会的つながりとチームワーク → 「人とのつながり」は、レジリエンスの土台になる

  • 失敗と成功の反復体験 → 練習→失敗→成功→また失敗……というループを繰り返す中で、自然と折れない心が育まれる

  • ルールや自己抑制の訓練 → 衝動をコントロールする力(いわゆる「自己制御」)はレジリエンスと深く関わっている

 

みたいな感じっすね。言ってみれば、スポーツってのは、「身体を使った行動療法+社会性トレーニング+失敗体験のリハビリ」みたいな要素をひとつにまとめたようなものなんで、そりゃ効くだろうって話でもあるんですね。そう考えると、レジリエンスを高めたいなら、とりあえず激しいスポーツを行ってみるのも良いのではないかと。

 

とはいえ、今回の研究にはちょっとした注意点もありますんで、そこは念頭に置いておきましょう。簡単にまとめておくと、

 

  • バイアスのリスクが高い研究が多め → 30本中、4本だけが「低リスク」で、6本は「高リスク」、残り20本は「やや怪しい」クオリティだったとのこと。

  • 長期的な効果は不明 → 3〜24週間のプログラムが対象で、フォローアップデータが少ない。

 

なので、「レジリエンスを鍛えたいならスポーツがベストだ!」と断言しちゃうのは早計ではありますが、日常生活の中で自然に取り入れやすくて、かつコストも低い介入としては、かなり魅力的な選択肢ではないでしょうか。

 

個人的にこの研究を読んで、「もっとやってみたいなぁ」と思ったのが、武道や格闘技系のスポーツっすね。最近では、子ども向けの柔道や空手、ブラジリアン柔術なんかも人気でして、ルールを守る練習、自分の力をコントロールする訓練、人との距離感を学ぶ場として、かなり優秀な環境なんじゃないかと。もちろん、すべての子どもに向いているわけではないですが、「メンタルの土台作り」としては、なかなか優秀な手段になりそうかなー、と。

 

ってことで、話をまとめておきますと、

 

  • 子ども・ティーン向けのレジリエンス向上法を比較した結果、スポーツ系プログラムが最も効果的だった

  • マインドフルネスや心理教育系プログラムも一定の効果はあるが、インパクトは小さめ

  • エビデンスの質にバラつきがあるため、過信は禁物

  • とはいえ、コスパと実用性の観点ではスポーツは有力な選択肢

 

ということで、「子どもにレジリエンスを育てたいけど、どうしたらいいのかわからない……」と悩んでいる方は、まずは週に1〜2回のスポーツ習慣から始めてみるのもアリなんじゃないでしょうか。ちなみに、おそらくこの知見は大人にもある程度まで当てはまると思いますんで、すでに成人した方でも、レジリエンスの訓練にスポーツを取り入れてみるのは良いことではないかと。


スポンサーリンク

スポンサーリンク

ホーム item

search

ABOUT

自分の写真
1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

INSTAGRAM