このブログを検索




筋力より先に失われる爆発力──老化に抗う“パワートレーニング”のすすめ

 

「昔は坂ダッシュが得意だったのに、いまは若者に置いていかれる」みたいな感覚を持つ人は少なくないはず。特に私のように50代を目前に控えますと、普段の筋トレやランニングではそこそこ若者にも食らいつけるのに、ひとたび「瞬発系の動き」になると全然ついていけないなんてことが普通に起きるんですよね。

 

でもって、新しい研究(R)では、これは単なる気のせいではなく、人間の身体が老化とともに必ず直面する生理的な変化だよーって結果になってて嫌になっちゃいました。この研究によれば、人間は「筋力」よりも「筋パワー」を早く、そして急激に失っていくというんですな。

 

 

パワーはなぜ大事か?

まず基本から申し上げますと、筋力と筋パワーは似て非なる概念だったりします。ざっくり言いますと、

 

  • 筋力:筋肉が発揮できる力の大きさ

  • 筋パワー:筋力 × 速度(どれだけ速く力を出せるか)

 

って感じですね。たとえば、100kgのバーベルをゆっくり持ち上げるのは筋力の勝負ですけど、一方で、椅子から立ち上がる、階段を駆け上がる、ジャンプして障害物を超えるみたいな動作は一瞬で力を爆発的に出す必要があるので「筋パワー」の勝負になります。

 

ここで大事なのは、日常生活を支えるのはむしろ筋パワーだってところでして、

 

  • 階段を上がれるか

  • 椅子からスッと立ち上がれるか

  • 転倒したときに反応できるか

 

これらは全部パワーに依存する動きなんですよ。つまり、パワーの低下ってのは、生活の自由度の低下に直結するわけです。

 

 

筋パワーは筋力より早く落ちる

で、この研究がどんなもんだったかと言いますと、

 

  • 平均23歳の若者

  • 平均70歳の高齢者

  • 平均86歳の超高齢者

 

を対象に、太ももの筋肉(大腿四頭筋)がどれくらい爆発的な力を出せるかを調べたものです。すると、その結果はシンプルで、やはり年齢とともに筋パワーはガクッと落ちていきまして、そのスピードは筋力の低下よりも格段に速かったんだそうな。

 

平均すると、こんな数字が出ております。

 

  • 筋量・筋力:40歳以降、年0.5〜1%減少

  • 筋パワー:年2〜4%減少

 

要するに、筋パワーってのは、筋力の4倍のスピードで落ちていくわけですね。こわっ!

 

 

 

脳でも神経でもなく「筋肉そのもの」が原因

さて、この研究が面白いのは、ここからさらに「筋パワー低下の原因」も細かく探ってくれたとこです。具体的には、筋パワーが落ちるのは、「脳から筋肉への信号が弱まっているのか?」「神経伝達がスムーズに行かなくなっているのか?」「それとも筋肉そのものの問題か?」みたいな問題ですね。

 

その検証結果がどうだったかと言いますと、おもしろいもんで「脳や神経の信号」については、高齢者になってもそれほど落ちてはいなかったんだそうな。問題は筋肉そのものが爆発的に収縮できなくなっていることでして、その理由として考えられるのは、

 

  • 筋肉の中に脂肪や線維が入り込み効率が悪化

  • 腱の弾力が失われ、力を瞬間的に伝えにくくなる

  • 筋線維の化学的性質の変化

  • 速筋線維の消失

 

って感じっすね。特に最後の「速筋線維の減少」が最も有力な候補だと言えましょう。瞬間的に大きな力を出すために必要な速筋線維は年齢とともに真っ先に失われていくため、結果として「爆発力」が削られてしまうわけですね。嫌だなぁ。

 

 

「歩くだけ」では守れない

ここでさらに辛いのが、ただ運動量を増やしても筋パワーは守れないってところです。研究では被験者の活動量を加速度計で測定してるんだけど、歩数と筋パワーの相関はたった3%だったらしいんすよ。つまり、

 

  • 毎日1万歩歩く

  • 定期的にジョギングする

 

ってアクティビティは健康には良いものの、爆発力の維持にはほとんど効果がないわけです。つまり、筋パワーを守るには爆発的に動くしかないってことでして、そのためには以下のトレーニングをするのがベストな感じっすね。

 

 

① プライオメトリクス(跳躍系トレーニング)

  • ボックスジャンプ

  • スキップやバウンディング

  • 坂ダッシュ

「跳ぶ」「弾む」といった動きで速筋を直接刺激するタイプの運動。短時間でも強烈な効果がある。

 

② 軽い重量を速く動かす

  • 1RMの60%以下

  • 「できるだけ速く動作する」ことを意識

スクワットやベンチプレスでも、軽めの重量を素早く挙げることでパワー系刺激になる。

 

③ 重い重量で速筋を総動員

  • 1RMの80%以上

  • 6回以下の低回数セット

重さに頼らざるを得ない状況を作り、強制的に速筋を呼び覚ます作戦。

 

④ 坂ダッシュ・短距離ダッシュ

シンプルながら最強の方法じゃないかと思われる。坂道を全力で駆け上がると、速筋をフル活用せざるを得ないんで。

 

いずれも割と疲れるタイプの運動ではありますが、筋パワーを鍛える意義ってのは単なる筋トレ効果や競技パフォーマンスを超えていて、

 

  • 階段を自分の足で上がれる

  • 椅子から立ち上がるのに介助がいらない

  • 趣味のスポーツを楽しみ続けられる

  • 転んだときに自力で立ち上がれる

 

みたいな能力に直結しますからね。これらはすべて「爆発力」が残っているかどうかで決まりますんで。要するに、パワーを維持することは機能的な肉体の維持に欠かせないんですな。

 

なので、ここからさらに爆発力アップのメニューを組むとするならば、

 

  1. ウォームアップ(軽いジョグ+動的ストレッチ)

  2. 坂ダッシュ 6本(20〜30m、全力の70〜80%程度)

  3. ボックスジャンプ 3セット(8〜10回)

  4. 軽重量スクワット 3セット(できるだけ速く挙げる)

  5. クールダウン(ストレッチ)

 

みたいになりましょうか。これだけで十分に速筋への刺激になりますんで、気になる方はお試しください。老化は止められませんが、そのスピードを遅らせることはできますんで、個人的にも坂道ダッシュはもっと取り入れようかと。


スポンサーリンク

スポンサーリンク

ホーム item

search

ABOUT

自分の写真
1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

INSTAGRAM