筋トレのテンポは筋肥大に効くのか?──最新メタ分析が出した「拍子抜けする答え」だった件
筋トレの世界には、「スクワットはゆっくり下ろせ!」「ベンチは3秒かけて下ろして、1秒で爆発的に上げろ!」みたいなアドバイスがよく出回るわけです。いわゆる「テンポ(挙上速度)」問題ってやつで、昔から一部のマニアが異常に熱い議論を繰り広げてきたテーマなんですよ。
特に「エキセントリック局面(下ろす動作)をゆっくりやれ」というアドバイスは、なんとなく説得力がありまして、「本当に筋肥大したいなら、最低でも3秒は下ろせ」というのが半ば常識のように語られた時代もありました。というか、私もいまいち態度を決めかねているので、「まあやってもいいけど、めんどいから自分で続けるのは難しいなー」ぐらいの印象だったんですよね。
では、このテンポの問題はどう考えれば良いのかってことで、ここらへんをがっつり調べたメタ分析(R)が出てたんで、中身をチェックしておきましょう。
そもそもなぜ「ゆっくり下ろせ」と言われてきたのか?
話を整理しておくと、テンポ問題の中心にあるのは「エキセントリックはコンセントリックよりも筋肉を大きくする効果があるのでは?」という仮説であります。ざっくり説明すると、
エキセントリック(重りを下ろす動作)は、筋繊維に強い張力を与える。
そのため、筋繊維が損傷しやすく、回復時に太くなる=筋肥大が促進されるのでは?
という考え方ですね。個人的にも「なるほどなー」と思った仮説で、古い研究やナラティブレビュー(R)でも「ゆっくり下ろすと効くかも」と示唆されてたりしましたからね。特に2000年代〜2010年代前半くらいまでは、この「遅めエキセントリック信仰」が強く、筋トレ雑誌やジムでも「2秒で上げて3秒で下ろす」が“科学的フォーム”として紹介されていたことを覚えております。
ただ、2023年に出たレビュー(R)では少し冷静な整理がされてまして、だいたい以下のような内容がまとめられていたんですよ。
「1レップあたりのテンポは2〜8秒くらいなら筋肥大に十分」
「エキセントリックやコンセントリックを意図的に延ばしたからといって、筋肥大が増えるかどうかは不明」
つまり、テンポを極端に操作しなくても筋肉は育つし、むしろ「テンポ以外の要素(負荷・ボリューム・努力度)の方がよっぽど大事」なんじゃないの?という話だったんですよねー。この時点では、多くの研究に「エキセントリックとコンセントリックを分けて分析していない」って問題がありまして、これがはっきりした結論を出すのを難しくしてたんですな。たとえば「1レップ6秒(3秒で下ろして3秒で上げる)」と「1レップ2秒(1秒で下ろして1秒で上げる)」を比較する、みたいな感じでして、これだと「下ろすのを遅くしたから効いたのか」「上げるのを遅くしたから効いたのか」が不明瞭なままだったんですよ。
14本のRCTをガッツリ検証して何がわかったか
ってことで、前置きが長くなりましたが、今回の最新のメタ分析では、エキセントリックとコンセントリックを独立して分析してくれたのがナイスなポイントです。データの内訳を簡単にまとめとくと、
対象:14本の研究、計約280名
期間:平均8.5週間
頻度:週2回以上のトレーニング
測定:筋肥大を超音波などで直接測定
- テンポの分類:
- 速い動作:
- コンセントリック(上げ):0.25〜1秒
- エキセントリック(下ろし):0.25〜2秒
- 遅い動作:
- コンセントリック:2〜4.5秒
- エキセントリック:1.66〜4.5秒
みたいな感じ。「遅い筋トレ」といっても、いわゆるスーパースロー(10秒以上とか)まではいかず、現実的な範囲っすね。
さて、気になる結果がどうだったかと言いますと、
速いテンポでも遅いテンポでも、筋肥大はほぼ同じ
上半身・下半身で差はナシ
だったそうです。基本的に、テンポは筋トレの成果に影響しないのではないか、と。強いて言えば、「限界まで追い込まないときは、速いエキセントリックがわずかに有利かもなー」「限界まで追い込むと、遅いエキセントリックがわずかに有利かもなー」という感じですけど、これは誤差レベルって感じで大きな差じゃないからなーってところです。ガチトレーニーでもない限り、「テンポは気にしなくていい」ってことになるかもですね。
実践でどう考えればいい?
ということで、この結果をふまえると、私のようなゆるトレーニーが取るべきスタンスはシンプルなものになりましょう。
- テンポに正解はない:「3秒下ろさなきゃ効果がない」とか「速く上げなきゃ意味がない」とか、あんま考えても意味はなさそう。
- 種目ごとにフィーリングでテンポを選ぶのもあり:たとえば、個人的な感覚で言うと、ルーマニアンデッドリフトはゆっくり下ろした方が筋肉のストレッチ感が得やすいし、ベンチプレスやスクワットはある程度スピードをつけた方が「爆発的に挙げてる感」が出て楽しいので、こんな感じで自分の好みで決めてもいいんじゃないかと。
- 大事なのはやっぱりボリューム:結局のところ、筋肥大を決める最大の要素は、適切な負荷(十分に重い重量)と適切なボリューム(十分なセット数)なので、テンポはその“味付け”ぐらいの立ち位置で考えるのが良さそうっすね。
こうして見ると、「テンポについては好きにやりなはれ!」としか言いようがない感じでして、「速く上げすぎた!今日のトレ無駄になったかも…」などと不安になる必要はまったく不要だと申せましょう。あくまで大事なのは「ボリューム」と「どれだけ続けるか」であって、テンポはスパイスぐらいにお考えください。