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甘いものを食べるとドーパミンがドバドバ出て依存症になる!って説はどこまで正しいのか問題

  

「甘いものをドーパミンが出すぎて依存症みたいになる!」って話は、誰しも一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。いわゆる“食べ物=合法ドラッグ説”で、「ドーパミン中毒」のような本でも取り上げられてましたね。一部には「砂糖はコカインより依存性が高い!」なんて主張もありまして、健康本で引用されたりするケースもよくありますな。

 

確かに、夜中にコンビニでプリンやポテチを買い込む人などを見ると、なんとなく「中毒」っぽくも思えちゃうわけですが、実際のところはどんなもんかってことで、良い感じの実験(R)が行われておりました。

 

 

 

最新研究の結論:「ドーパミン洪水は確認できず」

これは50人の成人を対象にした非ランダム化対照試験でして、まずは実験の中身をチェックしてみると、こんな感じです。

 

  • 被験者:BMI20〜45の成人(健康に大きな問題はない人だけをチョイス)

  • 食事のコントロール:入院して5日間、炭水化物50%、脂質35%、タンパク質15%の標準食を食べてもらう

  • テスト食品:226mLのミルクセーキ(420kcal、脂肪60%、糖質33%、タンパク質7%)

  • 測定方法:空腹時に脳スキャンをして、その後ミルクセーキを飲んでもらってから再スキャンする

 

過去にも似たような研究はあったんだけど、昔のはサンプルサイズが7人や11人程度だったので、今回はわりとがんばってて良いですねー。

 

で、結果がどうだったかと言いますと、ざっくりこんな感じになります。

 

  • 線条体のドーパミン結合能には有意な変化がなかった!

 

つまり、「甘いものを飲んでもドーパミンの量が大爆発!」って現象は起きず、これは体脂肪率やBMIとも関係がなかったってことですね。まあ「空腹が強い人ほどドーパミン反応が出やすく、ミルクセーキを“美味しい”と感じやすかった」という関連は観察されたみたいですけど、これは「そりゃそうだろうな」という感じじゃないでしょうか。

 

 

 

じゃあ「甘いものはドラッグ並みの依存性」説はウソ?

こうなると、「甘いものはドラッグ並の依存性が!」って説は怪しくなってくるわけですが、そもそもこの考え方は薬物研究が出どころになっております。どういうことかと言いますと、

 

  • コカインやアンフェタミンを摂取するとドーパミンが急上昇し、使えば使うほどもっと欲しくなる

  • 食事でもドーパミンが増える現象が確認されている

 

という事実がありまして、これら2つを組み合わせて「砂糖や脂肪も同じ仕組みで依存症を起こすに違いない!」というロジックが生まれたわけです。

 

ただし、今回の結果をみる限り、

 

  • 食べ物でのドーパミン反応はそもそも小さい

  • 「依存性がある」とまで言っちゃうのは無理がある

 

という結論になるしかない感じなんですよねー。というか、よく「ドーパミンは快楽物質」みたいに言われますけど、これはかなり雑な理解でして、実際にはドーパミンってのは「学習と予測の更新」の機能がメインですからね。簡単に言うと、

 

  • 予想外のご褒美 → ドーパミンが強く出る

  • 予定通りのご褒美 → ほとんど反応しない

 

みたいな感じっすね。なので、今回の実験では、参加者に「決められたタイミングでミルクセーキを飲んでねー」と伝えているので、脳からすれば「予想通りのご褒美」すぎてドーパミンが跳ねないのは当然かもですな。

 

逆に言えば、同じミルクセーキでも、

 

  • 仲のいい友達とカフェで飲む

  • ご褒美として突然出された

  • 「ずっと我慢してきたあとにやっと解禁」

 

みたいなシチュエーションなら、ドーパミンは大きく動くかもしれません。要するに、ドーパミンの働きってのは、環境に依存するところがめっちゃ多いのではないかと。

 

さらに過去の文献を総合すると、ドーパミン系に効いているのはむしろ日常習慣の積み重ねだと思われるわけです。こちらも簡単にまとめておくと、

 

  • 睡眠不足 → 受容体のダウンレギュレーション

  • 慢性ストレス → 報酬系の柔軟性低下

  • 運動習慣 → ドーパミンの受容体増加と感度アップ

 

みたいになっております。つまり「ドーパミンが出やすい体質かどうか」は、一回の食事ではなく、普段の生活リズムで決まっている可能性が高いんじゃないか、と。要するに、食事による快楽の反応ってのは「個人の嗜好」「環境」「期待感」に大きく左右されるものなので、「誰でも必ず依存する食べ物」なんて存在しない、というのが現実に近いでしょうな。

 

 

 

まとめ

というわけで、今回の知見を日常に落とすと、だいたい次の3点に整理できるでしょう。

 

  1. 「ドーパミン依存になる」説は誇張 → 「甘いものを食べたら脳が壊れる」的な煽りに振り回されなくてOK。

  2. 本当のリスクは“習慣化” → 毎日のジャンクフード習慣が報酬系をゆがめ、食欲コントロールを難しくするほうが危険。

 

ということで、結局は王道の生活習慣改善が大事ってことになりそうな気がしております。いずれにせよ「食の依存症」の正体はドーパミン単体というよりは、複数の快楽システムの相互作用だと思われますんで、生活の土台(睡眠・運動・ストレス管理)を守りつつ、たまのスイーツは安心して楽しめばよろしいのではないかと。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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