「やり抜く力 GRIT(グリット)」が高い人ほど、実は中年になって能力が下がる?問題
グリットについてあらためて考えてみる
あいかわらず「やり抜く力 GRIT(グリット)」が売れてるそうで、パッとしない本ばっか書いてる私としてはうらやましいわけです(笑)
軽くおさらいすると、グリットってのは「障害があっても頑張ってやり抜く能力」のこと。学生や軍人を対象にしたリサーチで、グリットが高い人ほど人生に成功する確率が高いよ!って結果が出たんですね。自分のグリットが気になる方は、「「グリット」の高さを判断する12の質問」などでチェックしていただければ幸いです。
現時点でのグリットへの批判ポイント
ってことで、グリットは一躍ブームになりまして、いまでは海外の学校や軍隊なんかでもアイデアが採用されてたりします。海外だと、かつてのIQや共感力みたいな扱いになってる印象っすね。
もっとも何事にも賛否はあるもので、グリットもそれなりの批判にさらされてたりします。いまんとこメジャーなものとしては、
- グリットってなんだかんだで遺伝がメインじゃない?
- そもそもビッグファイブの方が「成功を予測する能力は高い」んじゃない?
みたいな感じ。生みの親であるダックワース博士も、「まだグリットは新しい概念だから実用には不向きかも」と言ってたりしますしね。
そんな状況下、またもグリットのダークサイドを示す論文(1) が出ておりました。結論から言っちゃうと、「グリットが高い人は記憶力も健康も悪化する!」というビックリな研究であります。
グリットが高いと記憶力が悪化し健康リスクも
これは3,126人の男女を対象にした研究で、実験のスタート時は全員が20代。彼らの性格をテストしたうえで25年にわたって追跡調査を行い、「グリットが高い人にどんな違いが起きるのか?」をチェックしたんですな。
ただし、この研究ではグリットって言葉は使ってなくて、「努力対処」って単語を使ってます。ざっくりした定義は「成功をジャマするような困難やストレスを減らそうと頑張る特性」って感じでして、大筋ではグリットと同じであります。
さて、25年におよぶ調査でどんな結果が出たかというと、
- 若いころに攻撃的な性格の人は、50代になって記憶力が下がり、心疾患リスクが上がっていた(これは納得)
- 若いころにグリットが高い人も、50代になって記憶力が下がり、心疾患リスクが上がっていた(えええー!)
だったんですな。20代の頃に「目標に向かって頑張り抜く」態度を示した人ほど、中年期に血圧が高く、頭の回転が遅く、問題の解決力が下がり、計画能力が低かったんだそうな。なんだか散々ですね。
特に、この傾向は「生まれが恵まれない人」ほど強く、育ちが貧乏だった人や、なんらかの障害を持った人ほど、グリットのせいで悪影響が大きくなる確率が高かったそうな。うーん、これは辛い。
頑張りすぎが悪影響になることが
なんでこういう結果が出たかはよくわからんのですが、可能性としてありそうなのが2004年に出た研究(2)であります。これは「困難に負けずに頑張る人はどんな人生を送るの?」って問題について調べた研究で、こんな結論が出てたりします。
努力で困難を対処するアプローチは、とても重要なものだ。特に仕事の場面や素早い行動が求められるような状況では、急性のストレス要因に立ち向かうための努力が必要となる。
しかし、ジョン・ヘンリズム(努力で困難に立ち向かう態度)の使い過ぎは、特に経済的に恵まれていない人たちに対しては良くない影響をもたらす。なぜなら、彼らの努力に対するバッファとなる社会的なリソースがないからだ。
もちろん、短期的なトラブルに立ち向かうためにはグリットが必要なんだけど、長く使いすぎると悪影響が出てきちゃうんじゃないか、と。ありそうな話ですねぇ。
さらには、
「幸福と成功には粘り強さが大事」という事実は、一般的にも科学的な文献でもよく受け入れられている。しかし、もし目の前のゴールが不要なものだったら、そのゴールをあきらめるほうが適応的な状況もある。
とのこと。つまり、グリットが高い人ってのは、本当なら止めちゃったほうがいいゴールにも追加で努力を注ぎ込むんで、その分だけ解決が遅れて、不要なストレスを抱えちゃうケースも多いってことですね。頑張りすぎて病んじゃうパターンですな。
とりあえずいろんな武器を持っておくしかない
この問題を解決するのは難しいんですけど、シンプルに言っちゃえば「いろんな武器を持っておくべし!」って方法しかない感じではあります。なにせ人生の成功や幸福に欠かせないスキルはいろいろでして、
など多岐にわたってますからねぇ。あと、 グリットってのは一点に意識が集中していくタイプの思考法なんで、一方で脳を解放させる「拡散思考」的な技法も覚えておくとカウンターになっていいんじゃないかなー、などと思います。
いずれにせよ、ひとつの方法論だけにこだわるのは幸福にも健康にも良くありませんので、いろんなツールを備えておくように意識しとくといいのではないかと。