今週半ばの小ネタ:外国語の学習は脳トレになる? 臭い脇汗にも良いところがある? オメガ6脂肪酸でうつになる?
ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。
外国語の学習は脳トレになるんですか?のメタ分析
「語学学習って脳トレになるのでは?」って説が昔からあったりします。新たな言語を学ぶのは脳への負荷が高いので、そのおかげで脳が鍛えられる可能性が高いんですな。
そこで、新たに出たメタ分析(R)では、「バイリンガルは脳の実行機能にメリットがあるのか?」ってのを調べてくれてておもしろかったです。実行機能は、脳がなんらかの決断をするときに使う能力で、私たちが日常をうまくやっていくのに欠かせない働きであります。もうちょいくわしくは「スタンディングデスクを24週間使うと頭がグンと良くなるらしいぞ」などをどうぞ。
このメタ分析は、健康な参加者を対象とした170の研究をまとめたもので、その細かい研究デザインを飛ばして結論だけピックアップすると、以下のようになります。
- バイリンガルの人は、モノリンガルの人と比べて脳の反応時間が速く、干渉を防ぐ能力(邪魔な情報を無視する能力)も大きく、情報処理の正確さも大きい傾向があった
- バイリンガルの優位性はすべての脳力で見られるわけではないが、ほぼすべての結果がバイリンガルのすごさを示していた。
- バイリンガルの優位性は、30歳以上の人のほうがより多く観察された(特に情報処理のスピード)。
ということで、やはり外国語の学習には脳機能を上げる働きがあるっぽいですね。ただし、この研究では、「過去のバイリンガル研究にはバイアスがあるよー」とも報告しているので、そのあたりはご注意ください。簡単に言えば、「バイリンガルの優位性」は過大評価されている可能性も大きいってことでして、あまり過度な期待を持たずに語学学習に望むのがよさそう。
脇汗の臭さにも良いところがある説
脇の臭いにお悩みの方も多いでしょうが、近ごろ「脇の悪臭は悪いことばかりじゃないんだよー」って研究(R)が出ておりました。その結論をまず一言で言ってしまうと、
- 臭い汗は健康に役立っている
みたいになります。汗が臭いのは誰でも嫌なもんですが、実は私たちの健康に重要な役割を果たしているのではないか、と。
これがどういう話かと言いますと、まず「そもそもなぜ汗は臭くなるのか?」の前提から見てみると、以下のようになります。
- 脇の下や生殖器の周りに出る汗は、単なる塩水ではなく、油脂やタンパク質など、さまざまな化合物を含んでいる
- 皮膚の表面に出てきた汗を細菌が食べ、その際に新しい分子化合物を吐き出す
- この分子化合物が臭い!
もともと人間の汗が無臭であることは、ご存じの方も多いでしょう。本来、汗には臭いの分子が入ってないんだけど、ここに含まれる成分を細菌がエサにすることで、あの刺激臭が生まれるわけっすね。
ちなみに、人間の皮膚には200種類近い細菌が生息しているんですが、その種類は、人によってかなり違ったりします。これが人それぞれの体臭を生んでるわけですな。
ただし、この悪臭は悪いことばかりではなくて、
- 細菌が生んだ分子化合物には、一種の抗生物質のような物質も含まれる
-
汗の水分が蒸発すると抗生物質の濃度が高まり、皮膚に小さな膜が張られる
- この物質が、悪いバクテリアを退治してくれる!
みたいな働きもしてくれたりします。要するに、悪臭の原因になる物質には抗菌作用があり、そのおかげで湿疹などの炎症性疾患の対策に役立つわけです。
というと、「脇の下を洗ったらメリットがなくなるのでは?」という感想を持つ人もいそうですが、これらのバクテリアは洗剤や抗生物質が届かない肌の毛穴の奥に住んでまして、いくら脇の下を洗ったとしても、その後で10分もすれば、また肌の表面に住み着きはじめるんだそうな。
事実、この文献のチームも、S. homininsっていう皮膚の細菌を使ったクリームを開発してまして、湿疹の治療薬として使う試験も行ってるらしい。こうして見ると、プロバイオティクス入りのクリームは、やはり今後のトレンドになりそうですねぇ。
オメガ6脂肪酸とオメガ3脂肪酸の比率が高いと、うつ病になりやすい?
「オメガ6脂肪酸ってよくないよねー」ってのは、このブログでもよく書いている話。オメガ6は体内の炎症につながるので、摂取量が多かったら体調を崩すのは間違いないんですよ。
でもって、最近のメタ分析(R)では、「オメガ6脂肪酸が多い人はメンタルも悪化するの?」って問題をあつかってて良い感じでした。そもそも、体内の炎症はうつ病と関係があるので、オメガ6がメンタルに悪い可能性は十分にあるんですよね。
このメタ分析は、「オメガ6脂肪酸とオメガ3脂肪酸の比率」と「うつ病」との関連について検討したもので、参加者の数は全部で66,317人(そのうちうつ病の患者さんは4,173人)。12の前向きコホート研究を対象にしていて、このうち6つの研究では脂肪酸の食事摂取量を評価し、6つの研究では脂肪酸の血中濃度を評価しております。
研究の期間は7年〜18年ぐらいで、証拠の質の評価では、8つの研究が「高い」、4つの研究が「中程度」の質と判定されてました。全体的にはなかなか良い調査ではないでしょうか。
では、結論を見てみましょうー。
- 食品から摂取するオメガ3脂肪酸の量よりもオメガ6脂肪酸の摂取量が多い人は、うつ病のオッズが32%高くなっていた
- ただし、血中のオメガ6脂肪酸とオメガ3脂肪酸の比率が高い人が、うつ病の発症率が高いわけでもなかった。ここらへんについては、結果がバラバラすぎてよくわからない
- 妊婦を対象とした研究のみを見ると、オメガ6脂肪酸とオメガ3脂肪酸の比率が高いほど、うつ病(すなわち、産前産後うつ病)のオッズが53%高かった
ってことでして、研究チームの予想どおり、オメガ6が多い人ほど、メンタルをやられちゃう可能性は高いみたいっすね。32%ってのはそこそこの数字ですなぁ。
ちなみに、近年では「オメガ3脂肪酸はうつ病に有益だよー」と示唆する研究が増えてますんで、やっぱり魚の摂取量を増やすのは超大事。その効果のメカニズムはよく分かっていないんですけど、おそらくEPAの代謝によってエイコサノイドという抗炎症物質が作られて、メンタルを改善するのかなーと言われております。