今週半ばの小ネタ:アスリートに学ぶ「最適な昼寝」、日常の運動では”自転車が最強”説、自然のなかで遊んだ子供は免疫システムが改善?
ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。
アスリートに学ぶ「最適な昼寝」のガイドライン
「アスリートに昼寝はどこまで役立つか?」を調べたメタ分析(R)が出ておりました。
これはセントラルクイーンズランド大学などの研究で、昼寝に関する先行研究から37件をまとめた系統的レビューになってます。研究の参加者は合計3,489人で、アスリートと昼寝の関係をチェックした感じですね。
言うまでもなく、アスリートにとって十分な睡眠は重要なファクターでして、普段の過酷なトレーニングのせいで睡眠不足や睡眠障害に悩まされる人も少なくなかったりします。なので、「最適な昼寝」について考えるためには、アスリートを対象にするのが適切なんですよ。
分析の対象になったアスリートが参加する競技は、トラック競技、フィールド競技、ランニング、サッカー、ラグビー、水泳、柔道、射撃、ボート、空手など。どの実験でも「昼寝によってアスリートのパフォーマンスは向上するか?」を調べていて、私たち一般人にも参考になる内容になっております。
で、分析の結果なにがわかったかというと、こんな感じです。
- 9件(24.7%)の研究が、昼寝によって運動のパフォーマンスが上がると報告している
- ある研究では、サッカー、ラグビー、ハンドボールのアスリートに、昼寝なし、40分の昼寝、90分の昼寝という条件を指示したところ、昼寝をしたグループのほうが、等尺性収縮力などが優れていた。また、運動のパフォーマンスは、40分の昼寝より90分の昼寝のほうが優れていた
- 昼寝の運動パフォーマンス改善メリットは、十分に休息しているアスリートよりも、睡眠が制限されているアスリートの方が大きかった。短い昼寝(20分)でもパフォーマンスは上がるが、長い昼寝(90分)のほうがメリットが大きい可能性がある
- 5件(13.5%)の研究が昼寝の脳パフォーマンスへの影響を評価しており、そのうち4件がプラスの影響を報告ししていた。研究の一部では、昼寝により空手選手のリアクション、足の反応時間などが改善されたと報告されている
- 5件の研究のうち4件の研究では、昼寝により主観的な疲労感が減る現象を報告している。さらに2件の研究では、昼寝後に筋肉痛が減る傾向も示唆している
というわけで、全体的に見れば、ほんの20分の昼寝でも身体パフォーマンスは改善するし、なんなら脳の働きや疲労感も改善するみたいですね。まぁ前の晩にちゃんと眠れている場合は無理して昼寝する必要はないと思いますが、「あまりよく眠れなかったなー」みたいな感覚があるときは、20分ぐらいの昼寝を試すと良いかもしれません。
研究チームいわく、
昼寝はアスリートにおいて一般的な習慣である。昼寝はアスリートの夜間の睡眠を補う機会となっており、パフォーマンスに有益だと考えられる。今回のレビューからは、アスリートは13時~16時の間に20~90分の昼寝をするのが最適だと思われる。
ってことで、いまいち疲労感が取れない日は、このアドバイスに従って昼寝してみるのもおすすめです。
日常の運動では”自転車が最強”説
「日常的に取り入れる運動としては”自転車”が最強なのでは?」と主張するデータが出まして(R)、ちょっと面白かったのでご紹介します。
これはカリフォルニア大学サンフランシスコ校などの研究で、EPICと呼ばれる長期研究で集められた、7,349人の成人(糖尿病患者)に関するデータを分析したもの。このデータは、西ヨーロッパの10カ国の人々に関するデータを集めていて、1回目は1992年から2000年にかけて、2回目は最初の調査から5年後に実施されております。
具体的に何を調べたのかと言いますと、
- 1回目の調査では、週に何分ぐらい自転車に乗っているかを尋ねる
- 2回目の調査では、まだ自転車を続けているか、自転車をやめてしまったかを調べる
といった感じです。その上で研究者たちは、最初のグループの中で誰が亡くなったかを調べ、みんなの自転車利用レベルと比べたんだそうな。もちろん、喫煙、自転車以外の運動、高血圧など、健康に関連する他の要因は調整されております。
その結果わかったのは、以下のような話でした。
- 1回目と2回目の調査時に自転車に乗っていなかった人は、定期的に自転車に乗っていた人に比べて、その後の11年間で死亡するリスクが高い
- 調査期間中にサイクリングを始めた人は、5年間にまったくサイクリングをしなかった人に比べて、死亡リスクが35%も低くなった
- 1週間のうち自転車に乗る時間が最も短い人(わずか1〜59分)でも、まったく自転車に乗らない人より死亡リスクが低下した
- 10分間の自転車運動でも、フィットネスマーカーが顕著に改善した
観察研究なのではっきりした因果関係はわからないものの、「死亡リスクが35%も低下」という数字はかなりの違いでして、その他のエクササイズよりも試す価値がありそうに思うわけです。たった10分でも健康レベルが改善するというんだから、自転車乗りの私としてもうれしい結果ですね。
ちなみに、研究チームはこんなコメントをしています。
この研究では、すべてのレベルと期間で、サイクリングに健康上のメリットがあることが示されているので、糖尿病を患っている人にも、そうでない人にも、好きなだけ自転車を漕ぐことをお勧めする。
日常生活に自転車を取り入れることで、すべての人が大きな健康効果を得られるんじゃないかってことですね。確かに、自転車ってのは短時間で適度な負荷の運動を行いやすい器具なので、こういった結果が出るのもおかしくはないでしょうな。
自然のなかで遊んだ子供は免疫システムが改善?
フィンランドで行われた研究(R)で、「自然のなかで遊んだ子供は免疫システムや腸内環境が改善するかも!」って説が出ておりました。
研究チームは、フィンランドの2つの都市にある10のデイケアセンターに通う75人の子供たちを対象に調査を実施。そのうち半分の施設は自然志向で、もう半分は都市部の標準的な施設だったそうな。
自然派のデイケアってのは、砂利敷きの庭園があったり、敷地内に森林があったり、家庭菜園の設備があったり、自由に泥遊びができるエリアなどが設置されていたとのことで、いかにも体に良さそうな気がしますね。
調査期間は28日で、研究チームは子供たちの血液検査を毎日行ったところ、以下のような結果が出たんですよ。
- 自然で遊ぶ子供は免疫システムが活発に働いていた。
- 自然で遊ぶ子供は、より多様なマイクロバイオームが形成されていた(つまり腸内環境が健全な傾向が見られた)
- さらには、自然で遊ぶ子供は体内の炎症が抑えられていた
というわけで、自然で遊ぶ子供ほど免疫が健全で、万病の元である体内の炎症が少ない傾向があったんだそうな。もちろん、自然で遊ぶことの長期的な健康効果はまだわからないんですけど、この研究結果は、自然のなかで遊ぶだけで簡単に免疫系を改善できるんじゃないの?と思わせるには十分なわけです。
このような結果が出た理由について、研究チームは「生物多様性仮説」ってのを提唱しておられます。生物多様性仮説っては、「自然とふれあうことでヒトのマイクロバイオームが豊かになり、免疫系のバランスが整い、最終的にはアレルギーや炎症性疾患に強くなるんじゃないの?」って考え方ですね。
つまり、「最高の体調」でも強調したとおり、現代の環境では特定の薬(抗生物質など)などの影響で人間と共存してきた有益な微生物が減っており、この現状を「自然とのふれあい」が取り戻してくれるんじゃないかと推測されてるわけですな。泥遊びをすれば土壌にまぎれこんでいるバクテリアと接触できますし、森の中には大気中にも有益な細菌が漂っているのは有名な話ですしね。
「生物多様性仮説」がどこまで正しいかについてはまだ議論があるんですけども、森のなかで土遊びをすることで、腸内や皮膚のマイクロバイオームが改善し、免疫システムをコントロールする経路が刺激できる可能性は高いと言えるでしょう。時間を見つけては泥遊びにいそしむのもいいかもですなー。