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マインドセット、(ほぼ)墜つ


才能の地図」には、「『◯◯で人生の成功が決まる!』って話は全部まちがいよー」って話を書いてます。

 

 

というのも、自己啓発の世界では、定期的に「成功は◯◯が9割!」とか「人生を左右する究極の能力が見つかった!」といった話が定期的に出てくるんだけど、大半は(というか全ては)、時間がたつと「意外と効果が低いよね……」みたいな状態に落ち着いちゃって、しばらくしたらまた「今度こそ人生の成功を左右する能力が!」みたいな説が新たに出てくる現象がくり返されてるんですよね。ここらへん、くわしくは「才能の地図」をお読みいただければと思いますが、きずな出版さんの特設サイトでも途中まで無料で読めるキャンペーンをやってますんで、合わせてご利用ください。

 

 

 

 

で、「才能の地図」のなかで、「華々しく登場してきたけど、いまは立場が怪しくなってる説」のひとつとして取り上げたのが、ご存じ「マインドセット」です。スタンフォード大学のキャロル・ドウェック先生が2006年ごろに提唱した説で、

 

  • 自分の能力はトレーニングで改善できる!と思っている人ほど、本当に成長する!

 

という考え方です。ドウェック先生は、マインドセットの考え方は、減量、ビジネスの成功、中東の平和など、さまざまなことに役立つと主張しまして、「マインドセット『やればできる!』の研究」が売れたおかげで、日本でも有名な説ですよね。 

 

 

才能の地図」では、このマインドセットについて、「どうも近年の研究ではだいぶ効果が怪しくなってきたんですよねー」ってポイントを説明してます。かつては、マインドセットといえば「人生の成功に欠かせない!」とか言われたもんですが、どうも個人の能力を左右するほどのもんじゃない可能性のほうが大きくなってきたんですよ(個人的には、政府レベルで教育の方向性を決めるときなどには、まだ役に立つ考え方じゃないかと思ってますが)。

 

 

でもって、また新しいデータ(R)は、再びマインドセットに不利な結論が出てまして、「うーん、またか……」って気分になりました。

 

 

これはケース・ウェスタン大学などの研究で、過去に行われたマインドセットの研究から63件を集め、約98,000人のデータをメタ分析したものです。マインドセットの効果を検証したメタ分析としては、かなりレベルは高めと言ってよいでしょう。

 

 

その分析の結果なにがわかったかと言いますと、以下のようになります。

 

 

  • メタ分析の結果、マインドセットには、ごくわずかなプラスの効果が認められたが、多くの研究では "操作チェック "が欠けており、そのせいでわずかな改善が引き起こされた可能性がある(つまり、研究の不備を正せば、マインドセットの効果はほぼゼロなのかもいせれない)。

 

  • これまでのマインドセット研究は、マインドセットのビジネスに関わる人によって行われたものが多く、そのせいで結果がゆがめられている可能性もある。事実、金銭的な利害関係のある研究者が行った研究では、金のモチベーションがない人に比べて2.5倍以上の頻度でプラスの効果が報告されている。つまり、マインドセットで金儲けをしている人たちが、不利なデータの公表を控えていた可能性がある。

 

  • 全体の10%の研究では、本来は「無効(効果なし)」って結果が出ているのに、あたかも結果が有意であるかのように記述するという捻じ曲げが行われていた。

 

 

ってことで、マインドセットにはかなりつらい結論になってます。マインドセットの研究はだいぶ歪んでいるし、その効果があるとしてもほんのちょっとかもよ?ってことですね。

 

 

研究チームいわく、

 

成長マインドセットがモチベーションや行動に意味のある変化をもたらすという議論は支持されない。

 

とのこと。うーん、つらい。

 

 

もっとも、こういうことを言うと、「マインドセットなんて無駄!完全に否定された!」みたいなノリになりやすく、他人に対して「まだそんな時代遅れの説を信じてるのか!ギャハハ!」とか言ったりしがちなんでけど、そのような態度のままだと、また次の自己啓発界のブームに流されて終わっちゃうのでご注意ください。マインドセットはまだ完全に否定されたわけではなく、過去のデータでは、

 

  • すでに成績が良い人には効かないけど、いま成績が悪い人には、マインドセットは十分に意味があるのでは?

  • 特定の能力を伸ばす効果は低いかもだが、マインドセットの介入によって、能力の低下を防ぐ働きはあるのでは?

 

って結果も出てますからね。ここからは、マインドセットがうまく機能しそうな条件を掘り下げていくフェーズに進んでいくはずであります。

 

 

ちなみに、この研究チームは、こんなことを言っておられます。

 

今後の研究では、特定の介入の結果を誇張しすぎないようにするべきだ。「魔法のような」効果をうたう主張があったら、基本的には近づかないほうがよい。

 

これは「才能の地図」にも書いた話で、だいたい人生の成功に必要な能力なんてコロコロ変わるし、才能がある人の能力なんてチリツモの側面が大きいですからね。「◯◯でうまくいく!」的な話は、とりあえず割引いて接するほうがよいんでしょうな。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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