腰痛研究のプロ「背筋を伸ばすのが良いってのは軍隊で生まれた考えで、腰痛とは関係ないから気にするな!」
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「バックアップ」って本をチビチビ読んでおります。著者のリアム・マニックスさんは有名な科学ジャーナリストで、本書は「腰痛の最先端科学」をまとめたものになっております。
で、このブログを長くお読みの方であれば、私が腰痛について以下のようなことを書いてきたのをご存じかもしれません。
- 姿勢が悪いから腰痛になる、肩がこる、頭痛になるという主張は、まったく支持されていない。
世の中では、「背筋を伸ばせば腰痛が治る!」「背骨が曲がってるから腰が痛む!」みたいな主張がよくなされるものの、そこらへんはデータで支持されないから、いかに姿勢を正したり、背骨をまっすぐにしたところでねぇ……という話です。
そこらへんは過去の腰痛エントリをお読みいただければと思いますが、本書もその点を深掘りしてくれていて、「腰痛と姿勢は関係ない!」ってポイントを、過去の歴史からも掘り起こしてくれていて勉強になりました。個人的にためになったところをまとめると、以下のようになります。
- 「姿勢が悪いから腰痛が起きる」という説を葬り去ったのは、カーティン大学のピーター・オサリバン博士。博士が物申すまでは、理学療法学校の授業でも「姿勢こそが健康で強い背中を作る鍵!」「腰痛持ちの人は、背中の筋肉が弱く、背骨が傷つきやすい!」と教えられてきた。
- オサリバン博士が腰痛に興味を持ったのは、自身がスキーの転倒事故で慢性的な背中の痛みに襲われたから。最初は、古い教えに従って背筋を伸ばして過ごしたが、どうにも治らないため、直立姿勢をやめて自然な猫背に変えてリラックスしたところ、少しずつ痛みが消えた。
- そこで博士は、姿勢の悪さで腰痛が起きるという証拠を正式に探すことを決意。すると、過去の研究をいくら探しても、姿勢と腰痛の関係を示すデータは何も見つからなかった。
そこで、博士のチームは独自の研究を始め、まずは座っているときの姿勢を調査し、それを腰痛の発生率と比較した。その結果、座る姿勢と腰痛との間には、なんの関連性も見いだせなかった。
オサリバン博士いわく、「腰痛の原因は姿勢だという『正当な証拠』はない。もちろん、背骨の健康は全身の健康につながっているが、それが腰痛の原因だと考えると、運動、食事、睡眠の重要性が覆い隠されてしまう。良い姿勢にこだわるよりも、まずはそれらの基本的なライフスタイルを問題にすべきだ。姿勢をターゲットにした治療はうまくいっていないのだから、別のポイントを見なければならない」とのこと。
- その後は、別のチームも調査に加わり、オーストラリアのティーンエイジャー1,108人を対象にした研究でも、座っている姿勢を写真で分析したところ、やはり頭痛や首の痛みの発生率と姿勢の間に関連性は認められなかった。
もっとも、成人では、前かがみの姿勢と首の痛みとの関連性を示す証拠もなくはないが、因果関係がどちらにあるかは判定できなかった。痛みがあるから前かがみの姿勢を維持するのか、それとも姿勢が悪いから痛みが起きるのかは謎。
- 腰痛についても話は同じで、何十もの研究があるにもかかわらず、エビデンスをいくらレビューしても、姿勢と腰痛の関連性を示す強力なエビデンスは現れていない。仕事で悪い姿勢を取らざるを得ないような人でも、それが腰痛のリスクを高めるという証拠は出ていない。
ただし、公平を期すために言っておくと、慢性的な背中の痛みを持つ人は、背中の筋肉が弱いという証拠がある。とはいえ、この筋肉を強化するための特別なトレーニングをしても、誰の腰痛も改善しなかったため、やはり背中の筋肉は関係ないと考えられる。
これらの研究により、オサリバン博士の考えは、現在では痛み研究の科学者たちから広く支持されるようになった。
- そもそも、背骨は自然にS字のように湾曲しており、力学的にはまっすぐになるように設計されていない。すべての椎骨をきれいに重ねると、下の部分に大きな圧力がかかってしまい、逆に良くない結果が起きるのは確実と言える。
さらに、背骨の正確なS字カーブは人それぞれで、遺伝によって大きく異なる。それにもかかわらず、背筋を均一に伸ばそうとするのは無理がある。
- 歴史家のサンダー・ギルマン博士の研究によれば、「背筋はできるだけ伸ばすべき」という考え方は軍隊に由来する。背筋をピンと伸ばしてあごを引く軍隊のポーズは、もともとはマスケット銃に弾を込める際の理想的なポーズとして考案されたもので、決して自然なものではない。しかし、時が経つにつれ、この姿勢が理想だとされるようになり、兵士以外の者も真似をするようになった。その発想が、やがて腰痛の発生と結び付けられるようになった。
- もちろん、背筋を伸ばすことが体に悪いという証拠もないため、その方が快適だと感じたり、見栄えが良いと思うのであれば、そうすればいい。しかし、少なくとも現時点での証拠では、健康であれば姿勢はそれほど重要でないのは間違いない。理想的な姿勢やバイオメカニクスについて話す専門家は多いが、それはすべて適当な話をしているだけの可能性が高い。
- おそらく、もっとも腰に悪いのは、ひたすら同じような姿勢でじっとしていることだ。いくつかの研究では、「1日のうちにほとんど同じ姿勢で座っている人」は、「1日のうちに何度も姿勢を変える人」よりも腰痛が発生しやすいことがわかった。理想的な姿勢というものは存在しないが、人間の身体は、定期的に異なる姿勢を取りつつ、異なる筋肉に負担をかけているときに最も良い状態になると思われる。