【質問】ピルを使うと気分が落ち込みます……
こんなご質問をいただきました。
ピルを使うと気分が落ち込みます。聞いてみると、ホルモン性の避妊薬で気分が落ち込む人がまわりにも結構います。これは体質の問題ですか?対策などあるのでしょうか?
ということで、経口避妊薬でメンタルが落ち込んでしまう現象は本当に存在するのか?存在するのなら、回避する方法はないのか?ってお尋ねであります。
で、まずはこの疑問に対するシンプルなお答えを申し上げますと、
- ホルモン剤でうつ症状を示す人はいるが、めっちゃ少ない。
- ホルモン剤でメンタルが落ち込む人がいる原因は、よく分かっていない。
みたいになります。ホルモン剤とメンタルの関係は、それなりに証明されているんだけど、まだよくわからないところが多いよなーってところです。
近年で最も質が高い研究としては、 14歳以上の女性100万人以上を対象としたもの(R)がありまして、研究チームはデンマークの国民健康保険制度から得られたデータを使いって膨大なデータを分析。2000年から2013年の15歳から34歳の女性を対象に、ホルモン避妊薬の使用とその後のうつ病の発症を観察しております。過去に行われた研究のなかではトップクラスで大規模なんで、わりと信頼できるのではないか、と。
では、その結果を軽くまとめてみると、
- ホルモン剤の避妊薬によるうつ病のリスクは小さいが現実的である。
- すべてのホルモン避妊法はうつ病発症リスクの増加と相関しており、IUDを含むプロゲステロンのみの避妊法は、よりリスクが高かった。
- このリスクは15歳から19歳の10代のほうが高く、特にリング、パッチ、IUDのような、経口避妊薬以外の避妊法で高かった。
- ホルモン剤によるうつ病のリスクは確かにあるが、影響を受けた女性の数はかなり少ない点にも注意が必要。 ホルモン剤を使った女性100人中約2.2人がうつ病を発症したのに対し、使用しなかった女性の場合は100人中1.7人だった。
みたいになります。つまり、ホルモン剤によるメンタルの影響はおそらくあるんだけど、その影響に個人差があり、ほとんどの人にとっては問題が起きない可能性が高いだろうってことですね。
ただし、ここで難しいのが、「ホルモン剤による悪影響を受けやすいのはどんな人なのか?」は、まだ誰にも分かっていないところです。いまのところ言えることとしては、
- 卵巣ホルモンレベルの同期のコントロールは脳(特に視床下部)によって行われる。 これらは「卵巣ホルモン」と呼ばれているが、エストロゲンとプロゲステロンの受容体も脳全体に存在する。
- エストロゲンとプロゲステロンは生殖を左右するが、同時にそれとは関係のないニューロンや細胞プロセスにもいろんな影響を及ぼしている。たとえば、エストロゲンは、記憶の形成に関わっているし、脳のダメージから身を守る働きにも関与している。また、プロゲステロンは感情のコントロールに関係しているので、この働きも無視できない。
- これらのホルモンのレベルが変わることによって脳の働きが変わり、気分を悪くしちゃうんだろうなぁ……。
ぐらいの感じですね。エストロゲンとプロゲステロンはストレス反応にも関わるんで、これによってメンタルが低下する人がいるのは理解できるところです。
ただ、困ったことに、このようなホルモンの変化による脳の影響は、女性によっては良い方向にも働いたりするんですよ。事実、2011年の研究(R)でも、ホルモン避妊薬を使用する10人中9人以上にはうつ症状が起こらず、それどころか大半の人は気分が改善すると報告されてますね。ホルモン剤でストレス反応が変わることによって、多くの人はうつ病から守られるのに対し、少数の人はメンタル悪化のリスクが上がっちゃうらしいんですな。これは悩ましい。
この違いについては、いまのところ「遺伝的な原因」と「過去に激しいストレスにさらされた人」は、ホルモン剤によってうつ病が起きるリスクが高まるだろうなーぐらいのことが言われてますけど、やはり明確な理由はよくわからないんですよね。
そう考えると、ホルモン剤でメンタルが悪化してしまう方については、「専門家と相談していろいろと試行錯誤してみてください」としか言いようがない感じ。まぁ、悪影響が出やすい女性にとってはめっちゃめんどうなプロセスなので、今後の研究の進展に期待するしかないかなぁ………ってところです。どうぞよしなに。