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あなたが思っている以上に、自分の意志力は自分でコントロールできるぞ!という研究


 

このブログをよく読む方であれば、ここ数年で「意志力とは筋肉のようなものだ!」って説が怪しくなってきたことはご存じでしょう。くわしくは「意志力って実は使ってもすり減らないんですってよ」をご覧いただければと思いますが、

 

  1. かつては、「意志力は使えば使うほど筋肉のように疲労する」と考えられていた。たとえば、ダイエットのように自制心が必要なタスクに取り組むと、意志力が疲れてしまい、その後のタスクのパフォーマンスが低下すると思われる。

  2. ところが、近年の追試では確認されないケースが多く、「意志力とは筋肉のようなものだ!」って説の妥当性が、ちょっと怪しくなってきた。

 

みたいな話です。専門的には「自我消耗」と呼ばれる現象で、かつては意志力は有限だと考えられてきたのが、実際には本人の気持ちしだいじゃないの?って考え方が主流になってきたんですよ。

 

もちろん、自我消耗が完全に否定されたわけじゃないんだけど、過去の研究をひっくるめて、私は以下のように考えております。

 

  • 自我消耗という現象は存在するが、それはおそらく一部の条件下だけに限られるのだと思われる。具体的には、私たちが特定のタスクを「これは大変だ」と "みなす "と、そのあとで意志力が弱くなる現象が知られている。

 

  • つまり、意志力を発揮できるかどうかについては、「主観的な努力の感覚」の方が重要なのだと考えられる。 つまり、まわりの人が「大変そうだな…」と思うようなタスクでも、自分が「これはなんてことないぜ!」と思ってれば、どれだけ作業をこなしても意志力は下がらない。

 

自我消耗があるとしても、それは特定の条件がそろったときだけなんじゃないかって話ですね。この考え方がどこまで正しいかはまだわからないながら、上記の話をふまえて、「人生に対する視点を変えるだけで、もっと意志力はコントロールできるんじゃない?」と個人的には思ってたりします。

 

といったところで、カナダのウォータールー大学などグループが、おもしろい研究(R)をしておりました。この研究が何を調べたのかと言いますと、

 

  • みんなが持ってる「意志力の物語」が、セルフコントロール能力を発揮する際に、どのような役割を果たしているのか?

 

みたいになります。「意志力の物語」ってのは、私たちが“セルフコントロール能力”に対して、無意識のうちに抱いているとらえ方のことで、過去の研究によると、私たちはみんな意志力について独自の理論を持っているらしいんですよ。たとえば、

 

  • 「意志力は限界がない!」
  • 「意志力は生まれつきのものであり、変えられない」
  • 「意志力は環境や状況に影響される!」
  • 「意志力は他者と比較してどれだけ優れているかで決まる!」

 

といった感じです。自分の気づかぬうちに、誰もがこのような独自の考え方を持ち、その物語によって意志力のレベルが変わってくるんじゃないかと考えられるんですよ。

 

この問題を調べるために、研究では3つの実験を行ってまして、

 

  1. 実験1.最初の研究では、参加者の半分に「意志力を簡単に発揮できた時のこと」を振り返ってもらい、もう一方のグループには、「意志力を発揮するのに超努力した体験」を報告するように指示。 その後、みんなに「どんな意志力の物語を持っているか?」を尋ねる。


  2. 実験2.2つ目の研究では、参加者にセルフコントロール能力を使うようなタスクをやってもらったあと、みんなに「どんな意志力の物語を持っているか?」を尋ねる。


  3. 実験3.最後の研究では、参加者に毎日なんらかの努力を要する作業を行うように指示。それから2週間後、参加者たちが「どれだけ努力したか?」と「どのような意志力の物語を持っているか?」を測定する。

 

こんな感じで調査を進めたところ、3つの実験すべてにおいて、「自分がどれだけ努力したか?」という主観的な感覚と、「セルフコントロール能力は限られた資源である」という一般的な理論との間に関連性があることがわかったそうな。 もっと簡単に言い換えると、

 

  • 「このタスクは大変そうだよなぁ……」と思えば思うほど、「意志力は時間の経過とともに低下する!」って物語が強くなり、その後で実際に誘惑に負けてしまう可能性が高くなる。

 

みたいな話です。つまり、この調査によれば、私たちの意志力が枯渇するのは、私たちがそう認識している場合に限られるわけですな。 そう考えると、「自我消耗」って概念はいまいち説明としての価値が低いのかもしれませんな。

 

また、このデータを現実を活かすためには、

 

  • 意志力を発揮するためには、特定のタスクをより簡単だと“みなせる”方法を考えよう!

 

ってことが言えるんじゃないでしょうか。そのためにできそうなことをざっくり考えると、

 

  • 楽しい要素を見つける: 例えば、運動が苦手な場合は好きな音楽を聴きながら行うことで、楽しさを感じることができる。
  • 意味や価値を再確認する: タスクがもたらす長期的な利益や達成感を意識することで、モチベーションを維持しやすくする。

  • 小さな目標に分ける: 大きなタスクを小さなステップに分解し、達成感をこまめに感じられるようにする。
  • ポジティブな物語の形成: 「意志力は鍛えられる」「意志力は無限にある」といった新たな物語へ意識的に目を向ける。

 

などが代表的じゃないでしょうか。どれを使うかは自分の好みなんで、取り組みやすいものを使ってみてくださいませ。どうぞよしなに。

 

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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