相撲取りに学ぶ「筋肉の成長に最適な体脂肪率」の考え方とは?
筋トレの世界には、「筋肉の成長に最適な体脂肪率はどれぐらい?」って議論があるんですよ。というのも、昔から「体脂肪が多い人は筋肉が増えにくいのでは?」って考え方がありまして、
- 体脂肪が多いと筋肉のインスリン感受性が下がるので、栄養の筋肉への供給を妨げられる。
- 過剰な体脂肪が炎症を増加させ、筋肉の成長が妨げられる。
- 体脂肪のせいでテストステロンレベルが下がり、筋肉の成長が妨げられる。
みたいな考え方があるんですよ。これらのメカニズムにより、体脂肪がある人は、筋肉を増やしたくても上手くいかなくなっちゃうと言われてるんですな。なので、ちゃんと筋肉を増やしたければ、まずは体脂肪をガッツリ削ったあとで増量にはげんだほうがいいんじゃないかと考えられるわけです。
そこで、新たなデータ(R)は、筑波大学などの先生方が「本当に体脂肪は筋肉の成長に関係があるのか?」ってところを深掘りしてくれていて勉強になりました。
この研究は記述的なもので、方法はとてもシンプル。 地元の相撲クラブから13~17歳の男子力士12人を集めて、6ヶ月間のトレーニングの前後に測定をしたんですよ。
参加者には、みんないつもどおり相撲の稽古に励んでもらったうえで、カロリーの消費量と体脂肪率を7日間にわたって測定。6ヵ月後の変化を調べて、みんなにどんな違いが出たのかを調べたんだそうな。
でもって、その結果から、大事なポイントだけを抜き出しますと、
- みんなの実験開始時の体脂肪率は33%だった。
- みんなの1日の総カロリー消費量は平均4,194 ± 734 kcal/日。6か月間での総エネルギー蓄積の純バランスは+1,132 ± 42,737 kcal、1日のエネルギー余剰は平均+5.6 ± 213 kcal/日。
- みんなの相撲のトレーニング時間は1日平均155 ± 10分。トレーニングをしていない時の中強度から高強度の身体活動は1日57 ± 14分。睡眠は1日499 ± 46分、軽い身体活動は1日214 ± 44分。
- だいたいみんな脂肪が増加せずに筋肉(≒除脂肪体重)が2.1 kg増加(p = 0.049)。
- 脂肪量と体脂肪率には有意な変化がなかった(平均脂肪量は0.1 kgの減少)。
みたいになります。要するに、みんな1日あたり約6kclという極少なカロリーしか余らせていないにも関わらず、ちゃんと筋肉が増えたし、体脂肪率がかなり高くても普通に筋肉は発達したわけです。そう考えると、体脂肪は筋肉の肥大とは関係がなく、筋肉を増やすために無理にカロリー制限をする必要もないのかもですな。
もちろん、これは小規模な研究なので、まだハッキリしたことは言いづらいんですが、大学のフットボール選手を対象とした過去の研究(R,R)と照らし合わせても今回の結果は整合性があったりします。具体的には、体脂肪率が20%台の選手の体組成は、それよりも体脂肪率がはるかに低い選手よりも、良い感じで筋が発達したみたいなんですよ。簡単に言えば、体脂肪率が高い人ってのは、体脂肪が低い人と同じか、それ以上のペースで筋肉が成長する傾向があるんですな。また、体脂肪が高い人たちは、筋肉の増加スピードが下がることなく、大きく脂肪が減る可能性も高く、これは身体再構成として知られております(まぁ当たり前の話なんですが)。
ちょっと話が込み入ってきたので、ここまでの話をまとめたうえで、この研究を現実に活かす方法を見てみましょう。
- 「筋肉を増やすためにって、まずは体脂肪を減らすべき!」って考え方は、いまいち研究によって裏付けられていないっぽい。というか、最初に体脂肪率が高い人は、痩せている人と同じくらい筋肉を増やし、カロリーをそんなに摂取していない(あるいは不足している)状態でも、筋肉を増やすことはできる。
- 体脂肪を高めに保ちたいときは別として、体脂肪がすでに多い人は、1週間に体重の0.5%までの減量を目指し、ゆっくりと体重を減らしつつ、その過程で筋肉をつけることを目指すのがよい。
- 筋肉質な肉体を目指したいが、脂肪量を増やしすぎて健康が悪化するのも避けたい時は、だいたい男性で体脂肪率が12%から20%、女性で体脂肪率が20%から30%ぐらいが最適な体脂肪率じゃないかと思われる(R)。
まぁここらへんはあまり研究例がないので断言が難しいんだけど、一部の調査(R)だと、男性で25.8%、女性で37.1%の体脂肪率を超えると、体脂肪率が低い人に比べて心臓や血管まわりの病気にかかるリスクが2〜4倍も高くなるみたいなんで、ここらへんを超えないように注意しとけば大丈夫かも。
とはいえ、この体脂肪率を超えると、さすがに見た目はプヨってしまうので、やはり男性なら12~15%、女性なら20~25%ぐらいの体脂肪率を目指すのがよさげ。
ということで、いろいろ書いてきましたが、いまの段階で体脂肪率が高めの方は、「まずはガッツリ脂肪を落とさないと……」などと悩まずに、1週間に体重の0.5%までの減量を心がけて食事の量を調整しつつ、上述の最適な体脂肪率を目指すのが良いのではないでしょうか。どうぞよしなに。