私たちの「意志力」はなんで上がったり下がったりするの?問題
意志力「すり減る」「すり減らない」
ちょっと前に「実は意志力ってすり減らないかも?」みたいな話を書きました。意志力の問題についてはいろんな変遷がありまして、
- 大昔は「意志力」は個人の怠け癖の問題だと考えられていた
- ところが、「意志力は使うとすり減る」限りあるリソースなのだ!という説が爆誕
- 精神論で意志力はコントロールできないので、意志力という限られたリソースを適切にマネージメントするのが正しいのだ!という風潮が強くなる
- ところが、その後の追試で「意志力は使うとすり減る」説に疑問符が出る
- 意志力が「すり減る派」と「すり減らない派」でバトル勃発 ←イマココ
って感じです。この論争がどっちに向かうかはまだわかんないんですけど、個人的な印象では「すり減らない派」がちょっと有利かもなーぐらいの印象。
なんで意志力は変動するの?
ただし、いくら「意志力は減らないのだ!」と言われても賛成できない人は多いはず。1日の範囲で見ても、朝はモチベーションが高いけど昼過ぎからやる気がなくなるなーといった感覚は、誰もが抱いたことがあるんじゃないでしょうか。
ってところで新しく出た論文(1)は、意志力の変動が起きる理由について、別の視点を提供してくれてておもしろいです。
これは16人の男性を対象にした実験で、みんなに難しい作業(ギャンブリング課題)をやってもらいながら、全員の脳をfMRIでチェックしたんですな。検査の時間帯は、午前10時、午後2時、午後7時の3パターンだったそうな。
意志力は報酬への期待レベルに左右される
そこでどんな変化が確認されたかと言いますと、
- 全員、午後2時は脳の被殻の活動が低下していた
って感じです。被殻はおもに学習とかの処理に使うエリアなんだけど、同時に「報酬への期待」にも関わってたりします。
「報酬への期待」ってのは「何か良いものが手に入ったらいいなー」って予測のことで、報酬の内容は食事でも金でも名誉でも知識でも何でもOK。モチベーションの上がり下がりを左右する重要な要素なわけですね。
で、具体的な被殻の活動レベルは、グラフで見るとこんな感じです。
思いっきり午後2時から被殻の活動が低下してますねー。どういうことかと言うと、
- 午前中
- 1. 比較が激しく活動して「報酬の期待」が低下
- 2.「報酬が手に入らないかもしれない…」って気分が高まる
- 3.報酬を手に入れるために脳がモチベーションを引き出す
- 午後2時
- 1. 比較の活動が低下して「報酬の期待」が上昇
- 2.「普通に報酬が手に入りそうだな…」って気分が高まる
- 3.脳がモチベーションを引っ込める
みたいな流れです。
ヒトが意志力を保つには報酬のマネージメントが大事?
要するに、私たちのモチベーションは、「脳が予測する報酬レベル」に従って変動しているのではないか?って話ですね。たとえるなら、「今日は雨が降りそうだ」と思えば傘を持っていく(≒モチベーション上昇)でしょうし、「今日は一日中晴れだ」と思えば手ぶらででかける(≒モチベーション低下)でしょうし、ってのに近いかなと。
時間によって脳が報酬の予測を変える理由は不明ですけど、進化的な理由があるのかなーと思います。古代の環境だと午前中には食料がなかったので、報酬の予測レベルが下がってたほうが有利だったでしょうしね。よくわからんですが。
いずれにせよ、報酬の予測で意志力が変動するってのは、ちょっと前に紹介した「意志力のプロセスモデル」とも重なるとこではあります。これが正しければ、ヒトが意志力を保つには報酬のマネージメントが大事!ってことになりますな。小さな実験なのでまだ推測の段階ですけど、脳科学のほうからもおもしろい傍証が出てきましたねー。