「俺は専門家だ!」と感じてる人は意外と実際の知識が薄かったりするのはなぜか?問題
ダニング・クルーガー効果でおなじみのデビッド・ダニング博士が、またおもしろい実験(R)をしておりました。
軽くおさらいしとくと、ダニング・クルーガー効果ってのは「能力がない人ほど自分のパフォーマンスに自信を持ちがち」みたいな現象を示す言葉です。ダニング博士の説明によりますと、
能力がない者は、間違った結論や致命的なミスを起こしやすいだけではない。彼らの無能が、自己の無能に気づくチャンスも奪ってしまう。
という感じでして、要するに「能力がないと自分のパフォーマンスを正しく測る能力もないので、最終的に自信満々になりやすい」みたいな話です。なかなか身もふたもない結論ですね。
が、今回ダニング博士が行なった調査では、「専門家も同じぐらいヤバいのだ!」って結論になってておもしろいんですよ。
これは4つの実験で構成された論文で、たとえばひとつ目の調査は以下のようなデザインになってます。
- 参加者に「自分はどれぐらいファイナンスの知識があると思いますか?」と尋ねて、各自がどれぐらい自らを専門家だととらえているかを判断
- その後、全員に15個のファイナンス用語を見せて「どの言葉をちゃんと説明できますか?」と尋ねるが、実はそのうち3つには研究チームがねつ造したニセ単語がふくまれている
というわけで、果たして「自称専門家」がどれぐらいニセの単語を見分けられるかをチェックしたわけです。
ちなみに、ファイナンスの問題で使われたニセ用語は「プレ格付けストック」とか「固定レート控除」とか「年間クレジット」とかそんな感じ。いかにも現実にありそうな単語ですが、いずれも実在しておりません。
で、実験の結果は予想どおりで、
- 確かに、「自分にはファイナンスのリテラシーがある」と答えた人は、それ以外の人よりも知識が多い傾向があった
- ただし、「自分にはファイナンスのリテラシーがある」と答えた人の92%が、架空の単語を「知ってる知ってる!」と答えた
だったそうな。この傾向はほかのジャンルでも確認されていて、生物学や地理の分野などにおいても、自称エキスパートは実在しない単語を「知ってる!」と答えたそうな。つまり、自分のことをエキスパートだと思っている人は、自分の知識レベルを過大に見積もる傾向があるんだ、と。
と、ここで「それってダニング・クルーガー効果と矛盾してない?」と思われた方もおりましょう。ダニング・クルーガー効果だと「能力が高い人は逆に自分の能力を過小評価しがち」って結論だったんで、なんだか食い違いがあるような気がするわけです。
この問題について、研究チームはこう申しておられます。
このような「自信過剰」の問題は、自信をどの時点で計測するかに左右される。
スキルが低い人は、自分の作業が終わった時点で自信を計測すると「意外とよくできた」と答えやすい。
一方でスキルが高い人は、作業に手をつける前に自信を計測すると「自分ならできるはずだ」と答えやすい。
要するに、スキルがある人は事前の予測が苦手なんじゃないの?ってことですね。
ちなみに、このような現象が起きる理由としては、
- スキルが高い人は自信が強い
- しかし、新しいタスクを提示されたときに、いちいち「これは本当に知ってるか?知らないのか?」と考えるのは認知コストがかかる
- ならば、「自分はよく知ってる」という感情をベースに、「だいたい知ってるはずだ」と判断した方が脳のパワーを節約できる!
みたいな流れになってます。基本的に人間の脳は楽をしたがる器官なんで、専門家ほど「まぁ自分はエキスパートだから知ってるだろう」と考えちゃうバイアスに飲み込まれやすいってことですね。これは気をつけねば……。