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今週末の小ネタ:マルチタスクの悲しみ、都市の緑地化で長生き、アハ体験と快楽

Summary


ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。   

    

 

 

マルチタスク、それは悲しい

マルチタスクはヤバい!ってのはよく知られた話。仕事をしつつSNSにレスしたり、企画書を書きつつ同僚としゃべったりすると、一気に脳の機能が下がっちゃうんですよね(だいたい生産性が40%ぐらい下がる)。

 

 

で、さらに新しい調査(R)では、

 

  • マルチタスクをすると悲しみと恐怖に襲われるぞ!

 

って結論になってておもしろかったです。実験では26人の男女に「エッセイを描いてくださいねー」と指示していて、その際に全体を2つのグループに分けてます。

 

  1. エッセイを書き始めてから10分後に、5分をかけて8通のメールにまとめて返事をする。残りの時間はひたすらエッセイに集中
  2. エッセイを書き始めてから4分おきに8通のメールが届くので、これにいちいち返事を返さねばならない。残りの時間はひたすらエッセイに集中

 

要するに、「大きなジャマが1回だけ入った場合」と「細かいジャマが何度も入る場合」にわけて、人間がどんな反応を示すのかを見たわけっすね。

 

 

でもって、作業中の参加者をカメラで解析したら、こんな結果になりました。

 

  • 仕事のジャマが少なかった人は、つねにフラットな感情をキープできていた
  • 何度もジャマが入ってマルチタスク状態になった人は、悲しみと恐怖の感情が表に現れた

 

なんでも、マルチタスクでメールに返信を行った人たちは、ひんぱんに悲しそな表情を浮かべたんだそうな。

 

 

チームいわく、

 

マルチタスクは精神に負荷を与え、ストレスを増やし、それが悲しみを引き起こすように見える。

 

と同時に恐怖の感情が起きるのは不思議だが、おそらく次の混乱を予期するのが原因だろう。

 

とのこと。作業のジャマによって悲しい気分になり、「またジャマが入るのでは…」って予感のせいで恐怖が生まれるのだって話ですね。私も仕事のジャマが入ってイライラした体験はありますけど、悲しみの感情も生まれてたかもしれないっのてのは考えたことがなかったなぁ。

 

 

さらにチームはこんなことも言ってます。

 

人はマルチタスクでストレスを感じるだけでなく、不快な感情を顔に表すことがあり、それがオフィスの文化全体に悪影響を及ぼす可能性がある。

 

人間は周囲のネガティブな感情に影響を受けやすい生き物なので、会社内でのマルチタスクが増えるほど、全体にいやーな空気が広まっていく可能性があるわけっすな。これはいかにもありそう。

 

 

 

都市に緑地が増えれば早死には減るぞ!みたいな話

「自然が健康にいい!」って話は「最高の体調」にさんざん書いた話で、緑が多い地域で暮らす人ほど健康と幸福度が高い傾向があったりします。

 

 

新しいデータ(R)も「自然と健康」の関係を調べたもので、研究のメインテーマは、

 

  • フィラデルフィアにおける30%の土地に木を植えたらどれぐらいのメリットがあるのか?

 

というものです。フィラデルフィアは土地の緑地化プロジェクトを進めていて、全体の3割を自然で埋め尽くす予定なんだそうな。

 

 

というわけでチームは、過去にWHOなどが行ったメタ分析を使って、「どれぐらい自然を増やしたら、どれぐらい早期の死亡率は下がるのか?」をあらためてチェック。都市に緑地を増加した場合に、どれぐらい総死亡率は下がるのかを推定したんだそうな。

 

 

すると、結果はなかなかのもんでして、

 

  • 緑地を30%増やすと、市全体で毎年400人以上の早死にを防ぐことができる(市の年間死亡数の3%に相当)
  • これにより年間約40億ドルの経済効果が見込める
  • 緑地が5%および10%増加すると、それぞれ年間死亡率が271と376ずつ減少する可能性がある
  • 貧困に苦しむ人ほど緑地による恩恵を受けやすい

 

だったらしい。もちろんこれはフィラデルフィアの話なんだけど、チームはこんな風に言っておられます。

 

すべての都市にはそれぞれの特徴があるが、この研究は、世界のすべての都市に重要な事例を提供している。樹木の数を増やし、都市環境を緑化することで、多くの命を救うことができるのだ。

 

さらに、緑地は生物多様性を増加させ、気候変動の影響を軽減する働きもあるため、都市をより持続可能で住みやすいものにする。

 

まさに良いことづくめな結果でして、これは日本でも検討して欲しいとこですなぁ。

 

 

 

アハ体験で快楽が得られる人と得られない人

アハ体験の楽しさは誰もが知るところでしょう。ナゾトキが解けた瞬間の喜びや、小難しい問題の解決策が見つかったときの喜びは、すごいものがありますからね。

 

 

ってことで、近ごろ「アハ体験はどれぐらいの快楽なのか?」っのを調べた研究(R)が出ておりました。ドレクセル大学などのチームによる実験でして、どんな内容だったかと言うと、

 

  1. 参加者にアナグラムのパズルを解いてもらう
  2. パズルの答えを思いついて「アハ体験」を得られたらボタンを押す
  3. 「アハ体験」が起きた時の脳をEEGで計測する

 

みたいになってます。果たして、アハ体験時の脳にはどんな違いがあるのか?と。

 

 

で、答えはこんな感じでした。

 

  • アハ体験が起きた脳は、おいしい物を食べた時や恋愛体験と似たような変化を見せていた
  • アハ体験で得られる快楽は、個人の「報酬感受性」と対応していた

 

「報酬感受性」ってのは「『ごほうびを失うのが怖い!』よりも『ごほうびをゲットするぞ!』って方向にモチベーションがわくかどうか?」を示すパーソナリティ特性のこと。この特性レベルが高い人ほど、アハ体験で快楽を得やすいんだそうな。

 

 

要するに、一部の人にとって「アハ体験」は薬物や食事に似たような快楽だってことで、チームはこうコメントしておられます。

 

今回の結果は、多くの人々がパズルや殺人ミステリーに親しんだり、発明や研究をしたりといった活動に従事する理由を説明しているかもしれない。

 

これは個人的にも納得できる話で、私もアハ体験のために本を書いてるとこがありますからね。アハ体験が起きるまでは執筆なんてひたすらツラいだけなんで、快楽が得られなきゃやってられないだろうなぁ‥。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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