現代における大問題「すぐに手軽な答えを求める態度」を鍛える方法とは?
こないだ「認知的完結欲求」について書いたんですよ。これは、ひとことで言うと、
- 問題に対して確固たる答を求め、曖昧さを嫌う欲求
みたいな定義になります。近ごろは「ネットのせいでみんな手ごろな答えを求めすぎている!」みたいな話をよく聞きますが、ここらへんに関わる問題っすね。
世の中の問題は大半が明確な答えなんてないんで、答えを保留する姿勢がないとストレスが溜まっちゃうのは当たり前の話。にもかかわらず「答えはどこだ!」と探し続ければ、フラストレーションに取り憑かれ続け、思考の柔軟性もなくなり、複数の仮説も持てなくなっちゃうでしょうしね。
という前置きをふまえた上で、トロント大学から「小説を読むと認知的完結欲求が下がる」というデータ(R)が出てたので、チェックしておきましょう。
これは100人の学生を対象にしたテストで、だいたいこんな実験になってます。
- 認知的完結欲求テストでみんなが「どれぐらい答えがない状態に苦痛を感じるか?」を調べる
- 参加者にエッセイか短編小説のどちらかを読んでもらう
- みなに読んだテキストの内容を尋ね、さらに認知的完結欲求の変化も調べる
ここで採用されたテキストは20世紀初頭の作品がメインで、すべて6000語ぐらいのものを選んだとのこと。いちおう、ここで使われた作品もリストアップしときましょう。
エッセイ
- アンリ・ベルクソン「笑い」
- ジョン・バローズ「科学と文学」
- ハヴロック・エリス「女性を美しくするものとは?」
- ジークムント・フロイト「夢と夢解釈」
- ジョン・ガルスワーシー「スペインの城」
- スティーヴン・ジェイ グールド「ノンモラル・ネイチャー」
- ジョージ・バーナード・ショー「キリング・フォー・スポート」
- ラビンドラナート・タゴール「東と西」
短編小説
- ポール・ボウルズ「遠い木霊」
- キャサリン・ブラッシュ「ナイトクラブ」
- フランク・オコナー 「僕のオイディプス・コンプレックス」
- ジーン・スタッフォード「カントリー・ラブ・ストーリー」
- ジーン・スタッフォード「動物園で」
- ウォーレス・ステグナー「ビヨンド・ア・グラスマウンテン」
- ウォールター・ヴァン・ティルバーグ・クラーク「風と雪」
- グレンウェー ウェスコット「禁酒法」
うーん、ベルクソン、グールド、フロイドを除いて読んだことがない(笑)
さて、実験の結果がどうだったかというと、こんなふうになりました。
- エッセイを読んだ参加者(M1⁄43.97、SD1⁄4.44)と比べて、ショートストーリーを読んだ参加者は、認知的完結欲求のスコアが有意に低くなった(M 1⁄4 3.79、SD 1⁄4 .37)
- 小説によって認知的完結欲求が減ったのは、おもに「秩序に対する選好」と「曖昧さに対する不快」が減ったからだと思われる
ということで、小説を読むと規則や秩序へのこだわりが薄れ、さらには曖昧な状況にも耐えやすくなり、そのおかげで手軽な答えを求める気持ちが鎮まるらしい。おもしろいですね〜。
確かに、純文学は「なんで雪山に凍りついた豹がいるの?」みたいな違和感をガンガンに送ってくるから手軽な答えを求めてたらとても最後まで読めないし、シガーみたいな殺人鬼の行動を追体験しなきゃいけないので、自然と不快さに耐えるメンタリティも養えるでしょうから。そのぶんだけ思慮深い思考が育っても不思議じゃないですな。
いずれにせよ、「すぐに答えを求めずに耐えるスキル」って現代ではとにかく重要なので、日ごろから鍛えておきたいもんだなーと思った次第です。個人的にも、今回のテストで名前が出たボウルズやタゴールは代表作を読んだだけなんで、もうちょい読んでみたいすねぇ……。