世界中の数十万人を調べてわかった「人間の幸福度」を決める3つの価値観とは?みたいな話
世間にはいろんな心理研究があるわけですが、その多くは欧米の先進国で行われてたりします。それが必ずしも問題だとは言えないものの、やっぱ「アジアじゃどうなの?」とか「裕福さも関係あるのでは?」みたいな問題は常につきまとうわけです。
ってことで新しい研究(R)では、世界の5つの地域の人々を対象に、「人間は何に幸せを覚えるのか?」を調査してくれててタメになりました。これはベルリンのDIW研究所などの調査で、1999年から2014年にかけて世界中の数十万人を対象に行われた「世界価値観調査」を使ったものでして、以下の地域に焦点を当てております。
- アメリカ、イギリス、オーストラリア、スペインなどの西洋諸国
- ラテンアメリカ
- 香港、日本、韓国、シンガポール、台湾などのアジア諸国
- ロシア、東欧などの元共産主義国
- 中国、ベトナムなどの共産主義国
それぞれの地域の人々には、人生における価値観や優先順位について尋ねまして、具体的にはこんな感じになります。
- 伝統的な家族観:家族を大切にすること、近くに住んでいる人を助けたり、世話をしたりすること
- 友情と余暇の価値:友情とレジャーの価値:友情とレジャーの重要性
- 物質的な価値観:金持ちになること、成功すること、功績を認められることが重要であると考える
- 政治的価値観:政治の重要性
- 社会的価値:社会のために何かをしたり、環境に配慮したりすることが大切だと考える
- 宗教的価値観:宗教や神の重要性
でもって、これらの価値観への評価と、自分の人生に対する満足度を比べたところ、以下のような結果が出たんだそうな。
- 5つの地域すべてにおいて、「家族」「友情・余暇」「向社会性」(「世の中のためになりたい!」って価値)を高く評価する人ほど、人生に対する満足度が高い傾向があった
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共産主義国では、政治的価値観が強い人ほど生活に満足している傾向がある(共産主義国には「善良な市民は政治的に活動するものだ」とされているため)。一方、旧共産圏のロシアや東欧では、政治に深い関心を持つ人々の幸福度が低かった(これは共産主義が崩壊したせいで「政治への幻滅」が起こったのが原因だと考えられる)
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欧米、中南米、アジア圏では、宗教を重視する人ほど幸福度が高い傾向にあった。しかし、共産圏や旧共産圏では、宗教を重視する人ほど人生に対する満足度が低かった。これは、共産主義政府が宗教を敵視する傾向があり、脱共産主義国の人々はその影響を長期的に受けているためではないかと思われる
- 物欲は人間を不幸にすると考えられてきたが、東欧では人生の満足度アップと相関していた。一方で、欧米やアジアの国では物質主義者ほど満足度が下がる傾向があった。ラテンアメリカや共産主義国では、物質主義者かどうかは人生の満足度には関係ない可能性があった
ってことで、おそらく「家族」「友情・余暇」「向社会性」は文化にかかわらず人生の満足度と関係があるんだけど、残りの価値については文化の影響を受けるかもしれないんだ、と。文化圏によってそれぞれの価値観の影響が違う理由は定かではないものの、研究チームの推測によれば、
- 個人の価値観がその国の社会や政府の規範と一致していないと、人々はより幸せになりづらいのではないか?
- ある価値観は、私たちに社会への帰属意識を与える手段になっており、そのせいで社会と価値がズレると幸福度が損なわれるのではないか?
って感じになっております。人間は社会とのかかわりの中で自分の立ち位置を定め、それによって幸福感を得る生き物なので、そこらへんが食い違ってると生きづらさにつながるのだろう……って考え方ですね。まぁそれはそうでしょうな。
ちなみに、地域ごとの差についておもしろかったのが、
- 東欧諸国では「どの価値も重要ではない」と答える人が多く、これが東欧の幸福度の低下に関連しているっぽい
- ラテンアメリカは家族や宗教を重視する文化が根強く、そのおかげでGDPが低くても幸福度が高いっぽい
ってあたりですね。国が豊かでも幸福度が低い事例はたくさんありますが、そこらへんは国全体の価値観がかかわってるのかもですなー。