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今週半ばの小ネタ:天職についている人は高収入、運動で良いアイデアが出る、マルチタスクでも良いアイデアが出る


ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。 

  

 

 

 

天職についている人は収入が多いんじゃないか

科学的な適職」では「好きなことを仕事にせずに、いろいろやっていくうちになんとなく天職を見つけようぜ!」みたいな話をしております。「うおー!好きなことを天職にするで!」ではなくて、少しずついろんなことにリソースを投入しつつ、ジワジワと天職を見つけていくのがいいんすよね。

 

 

でもって、新たに香港大学から出た論文(R)では、

 

  • 天職についている人は収入が多い!

 

みたいな結論を出してておもしろかったです。「自分の仕事は天職だ!」と考えている人ほど、仕事や人生の満足度が高いってのは昔からいろんな研究で言われてきたことなんだけど、「天職についてる人は収入が多いの?」って問題を調べたのが本研究の新味であります。

 

 

この研究でなにをして、どんな結論を出したのかと言いますと、

 

  1. 「ウィスコンシン縦断研究」(WLS)という長期の調査データを分析。「自分の仕事は天職です!」と答えた人と年収を調べたところ、全体的に、天職についてる人ほど収入が多い傾向があった。


  2. 研究チームが、「自分の仕事は天職だ!」と言ってる人の動画、「自分の仕事は義務だ!」と言ってる人の動画、自分の仕事について何も言ってない人の動画という3つの映像を作成。その動画を実験の参加者を見せて、「それぞれの人にどれぐらいの賃金やボーナスを上げたいですか?」と尋ねたところ、たいていの人は「天職だ!」と言ってる人に高い給料をあげたいと思う傾向があった。

 

って感じだったそうです。観察研究だと天職についてる人ほど給料が高い傾向が見られ、その原因は、「自分は天職についている!」と言ってる人を見ると、みんな高い給料を上げたくなるからではないか、と。なんでも、仕事を天職だと考えている人を見ると、たいていの人は「この人は仕事のパフォーマンスが高いだろう」と判断するらしいんですな。

 

 

研究チームいわく、

 

自分の仕事を天職だとおもうかどうかは、キャリアの成功と明らかに相関している。これは、天職についた人の仕事のパフォーマンスが高いからではなく、周囲の人間は「この人物は能力が高いだろう」と認識されるからだ。

 

とのこと。実際のところ、天職についてるからといってパフォーマンスが高いとは限らないんですけど、まわりが勝手にそう思い込んでくれるわけっすね。

 

 

まー、ここらへんはあくまでバイアスなんですけど、周囲から都合の良い勘違いを引き出せるって意味でも「天職」のパワーは偉大っすね。ちなみに、私の場合は、「もう人生も半分以上が過ぎちゃったし、いまの仕事を天職と思わんとやってられんな……」ってぐらいの感覚でやってます。

 

 

 

運動は創造性アップのメリットもあるんじゃないか説

脳に良い変化をもたらす運動の効果」で有名なウェンディ・スズキ先生が、QUARTZでも運動のメリットを語ってくれてておもしろかったです(R)。運動の効果についてはこのブログでもさんざんやってまして、この記事でもおなじみの話が並んでおります。たとえば、

 

  • 運動は、不安や抑うつによって失われがちなセロトニン、ノルアドレナリン、ドーパミン、エンドルフィンなどの主要な神経伝達物質のレベルを即座に上昇させるため、ストレスの感情に対抗する強力な方法といえる。運動をすると、すぐに気分が高揚し、ネガティブな感情を打ち消すことができる。

 

  • スズキ博士自身の実験により、運動が注意の転換と集中の能力を向上させることも実証されている。どんな運動でも、血流が良くなったた直後に集中力が高まるため、大きなプレゼンや会議などの前にワークアウトを行い、脳の機能を最大限に高めておくのがが望ましい。

 

  • ネズミを使った研究によれば、運動量を増やすと海馬の脳細胞の新生と生存が促進され、記憶力が向上する。運動すると、海馬のBDNFレベルが急上昇し、新しい海馬の細胞の成長を促すと考えられる。

 

といったあたりですね。あらためて見ても、やっぱ運動しないとなーって気分にさせられますねぇ。

 

 

さらに、目新しい論点として、個人的に面白かったのは、

 

  • 運動によって創造性が上がるかもよ!

 

ってパートですね。というのも、最近の研究では、脳の海馬ってエリアが「新しい状況を想像する能力」にかかわっていることがわかってきており、そのため運動によって海馬の細胞を増やしていけば、イマジネーションの力も上る可能性があるんだそうな。

 

 

もっとも、この考え方はまたヒトでは検証されておらず、あくまでも仮説の段階ではあります。が、スズキ博士いわく、

 

運動によって、学生は学校でより想像力を発揮し、大人は仕事でより創造力を発揮できるようになるかもしれません。

 

と言ってまして、いよいよ運動は万能薬だな!って気持ちになった次第です。

 

 

 

マルチタスクには“良いアイデアが出る”ってメリットがある

マルチタスクはダメだ!みたいなのはいまさら言うまでもない話。マルチタスクは仕事の効率や質を低下させるし、ストレスを激増させるしで、どうにも良いことが見当たらない状況なんですよね。

 

 

ただ、新しいテスト(R)は、「マルチタスクには“良いアイデアが出る”ってメリットがあるよー」って結論が出てておもしろかったです。

 

 

これはフロリダ国際大学などのテストで、複数の実験で「マルチタスクとアイデア」の関係をチェックしております。具体例をいくつか挙げると、

 

  • 学生たちに電話会議に参加してもらい、そのうち半分の学生には電話会議に参加しながらメールに返信してもらい(マルチタスク)、他の学生には2つの作業をひとつずつやってもらう(シングルタスク)。その後、創造性テスト(レンガのような身近なものの新しい使い方を見つける、みたいなやつ)を行う。

 

  • アメリカの料理番組『チョップド』の放送データ44回分を分析し、番組に参加したシェフが作った料理の創造性を評価してもらう。この番組は、その場で与えられた食材を使って3コースの料理をアドリブで作るという内容で、その際に、メインの料理をつくるのに必要な動作を数えて、マルチタスク度を数値化した。

 

って感じで、既存データの分析とラボ実験を組み合わせて、マルチタスクと創造性に関係があるのかを調べたわけですね。

 

 

でもって、その結果はどちらも同じでして、

 

  • マルチタスクで作業をした学生は、シングルタスクの学生よりも斬新なアイデアを思いつくことができた。
  • 前菜でのマルチタスク度が高かったシェフは、メインの料理がより創造的になり、メインでのマルチタスク度が高いシェフ、デザートがより創造的になった。

 

だったそうです。事前にマルチタスクの作業をしておくと、その後で行う作業で良いアイデアを思いつきやすくなるみたいっすね。

 

 

なんでこんなことが起きるのかと言いますと、

 

  1. マルチタスクは脳のパワーを使うので、一時的に認知的なエネルギー高まる
  2. 高まった認知のエネルギーが次のタスクに波及し、認知的な柔軟性がアップする

 

とのことで、「仕事のスケジュールを自由に決められる人や、創造性の重要性が高い人などは、マルチタスクの次に生じるメリットがデメリットを上回るかもしれない」と言っておられます。そう考えると、良いアイデアが必要な作業をする際は、その前にマルチタスクでこなせる作業(事務作業を組み合わせるとか)をやっとくのもいいのかもですな。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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