今週の小ネタ:クソ仕事問題、問題解決志向の罠、夜のアロマで記憶力が激増
ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。
「俺の仕事はクソだ!」と思う人が多い職業とは?
「俺の仕事は社会の役に立たない!」「俺の仕事は無意味だ!」と思う人が多い仕事はどれだ?ってのを調べたデータ(R)が出ておりました。
この研究は、日本でも話題になった「ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論」にインスパイアされたもので、著者のデヴィッド・グレーバー 先生いわく、
特にヨーロッパと北米では、膨大な数の人々が、本当はやる必要がないと内心思っている仕事を一生かけてやっている。この状況から来る道徳的、精神的ダメージは甚大だ。
それは、私たちの魂に刻まれたキズだと言えるが、それについて語る人はほとんどいない。
とのこと。世の中には自分でも無駄だと思っている仕事についている人が多く、これが多くの人の幸福度を下げまくってるんじゃなかろうか?って問題定義であります。
いかにもバズりそうな議論ですけど、グレーバー先生が引き合いに出す証拠は「個人の体験談」がめっちゃ多く、実際にどれだけの人が本当に「クソ仕事問題」に悩んでいるかは謎だったんですよ。そこで、この研究チームいわく、
デイヴィッド・グレーバーの「ブルシットジョブ理論」では、客観的に見て役に立たない仕事もあり、それは特定の職業に多く見られると主張する。
グレーバーの記事は瞬く間に人気を博し、数週間のうちに十数カ国語に翻訳され、世界中のさまざまな新聞に転載された。
しかし、彼が提示した当初の証拠は主に定性的なものであり、問題の大きさを評価することは難しかった。
とのこと。そこで、この研究では、定量的にクソ仕事問題を調べることにしたわけですね。
具体的に何をしたのかと言いますと、
- 21種類の仕事で働く約2,000人のアメリカ人を対象に、「地域や社会に良い影響を与えているという実感はあります?」「役に立つ仕事をしているという実感はあります?」と尋ねる
というシンプルな内容になってます。でもって、その結果がどうだったかと言いますと、
- ほぼ5人に1人(19%)が、「自分の仕事が役立ってる実感はまったくない!」と答えた。
- 全体として、公共部門や非営利部門よりも、民間部門の労働者のほうが「自分の仕事が社会的に役に立っていない」と考える人が多かった。
- 無意味だと思う人が多い仕事のトップは、金融、営業、管理部門だった。このようなタイプの仕事に就いた労働者は、他の労働者に比べて「私の仕事はクソ仕事だ」と思う人が2倍以上いた。
- 一方、自分の仕事が社会的に役立っていると考える人が多いのは、教育、訓練、医療、福祉、建設、エンジニアリングに従事している人たちだった。
って感じだったそうです。当然ながら、「私の仕事はクソ仕事だ」と思ってる人ほど幸福度がめちゃ低いという結果も出てまして、グレーバー先生の主張も、ある程度まで指示されたと言えるんじゃないでしょうか。あくまでアメリカの調査ながら、日本でも当てはまりそうな結果じゃないかなぁ。
問題解決にばかり意識を向けるとモチベーションが下がっちゃうから気をつけようぜ
「自分を変えたいなら、欠点に目を向けなきゃダメだよー」みたいなことをよく言うわけです。まぁ自分の良いところばっか考えていたら、ただのドリーマーになるでしょうから、悪いところを治すのも意識しないとヤバそうですもんね。
しかし、新しい研究では、「とりあえず現実の自分や今抱えている問題は置いといて、未来の理想の自分について考えよう!」って結論になってておもしろかったです(R)。
これは、コーチングに関する2つのアプローチを比べたもので、
- 約50人の学生を集める。
- そのうち半分には、「人生において、いまやっていることがすべてが理想的にうまくいったとしたら、10年後には何をしているだろうか?を考えてください」と伝える。
- 残りの半分には、「いま悩んでいる困難について考えて、その問題がどうなっていくと思うか?を考えてください」と伝える。
- 上の指示を実践しているときの脳をスキャンする。
みたいになります。簡単に言えば、理想の自分と現実の自分の両方を思い浮かべながら脳をスキャンしたわけですな。
そこで何がわかったかと言いますと、
- 未来の自分について考えているときの脳は、想像力が広がり、モチベーションもアップする。
- 現実の問題について考えているときの脳は、広範で創造的な思考が妨げられる。
みたいな感じです。どうやら、人間の脳ってのは、現実の自分が抱えるトラブルに目を向けると、脳のネガティブスイッチがオンになり、変化に抵抗し始めるみたいなんですよ。その一方で、理想の自分について明確なビジョンを描くと、人は否定や変化への抵抗を避けやすくなるんじゃないか、と。
研究チームいわく、
他人を助けようとする人の多くは、助けることと問題を解決することを混同している。
しかし、本当に大事なのは、誰かが自分自身のために積極的にフィードバックを求めてくるように仕向けることだ。
企業、コーチ、マネジャーは、人々に変わってもらいたいと願っているのだから、自分たちが「直すべきだ」と考えていることについては、黙っていた方がよい。
相手の内なる成長意欲を信頼し、彼ら自身が成長のプロセスに参加させなければ、心理的抵抗の壁にぶつかる可能性が高い。
とのこと。つまり、問題解決にばかり意識を向けるとモチベーションが下がっちゃうから、とりあえずは未来の理想について考えることを奨励したほうがいいんだよーってことですね。
ただし、この実験は、「なんでもいいから理想の未来を思い描け!」って話ではないのでご注意ください。以前にも書いたとおり、根拠のないポジティブ思考は効果がないどころか害悪ですからね。
ここで大事なのは、「現実にひもづいた理想の未来を思い描く」ってところでして、いたずらにポジティブな未来について考えても、長期的にはモチベーションが下がることがわかってますんで。そこだけくれぐれも注意しつつ、正しくお使いくださいませ。
夜のアロマで記憶力が226%高まるかもよー
「寝てる間に天然オイルの香りを嗅ぐと、記憶力が226%アップする!(かも)」という研究(R)が出ておりました。あくまで高齢者に限定の研究なんですけど、ひと晩2時間ずつアロマオイルのなかで眠った人は、単語のリストを記憶する能力が劇的に向上したんだそうな。
これは60歳から85歳までの男女43人を対象にした研究で、そのうち半数に、ローズ、オレンジ、ユーカリ、レモン、ペパーミント、ローズマリー、ラベンダーの7種類のオイルを混ぜたディフューザーとカートリッジを配布。残りの半数には、プラセボグループとして、ごく少量のオイルしか入っていないカートリッジをわたしたらしい。
で、このオイルを、眠りについてから2時間ほど使うように指示したところ、7種類のオイルを使ったグループは、
- 記憶力がガッツリと改善した
- 学習と記憶に重要な脳の経路(左の海綿状筋膜)の完全性が高かった。
って変化が見られたそうな。研究チームいわく、
60歳を超えると、嗅覚と認知力は崖から落ち始める。嗅覚は私たちの記憶に直結しており、アロマに昔の記憶を呼び起こす力がある事実は、誰もが経験したことがあるだろう。
しかし、視力の変化に対しては眼鏡、聴覚障害に対しては補聴器を使うのに、嗅覚の喪失に対しては何の介入もなされていない。
とのこと。香りは脳をダイレクトに刺激するので、アロマで記憶が向上するかもしれないわけですね。アロマが認知やメンタルの改善をもたらす可能性は昔から言われてたんで、この結果もわりと納得な気がしますなぁ。
もちろん、若い人でも同じ効果を得られるとは思わんですけど、嗅覚のケアについても、ある程度は意識しとくといいんじゃないかと思った次第です。