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【質問】「自分の夢を100個書き出しましょう」ってアドバイスって役に立ちます?


 

こんなご質問をいただきました。

 

よく「自分の夢を100個書き出しましょう」みたいなアドバイスがあります。なんかうさんくさいのですが、あれは何か役立つとか、効果が確かめられてるとかありますか?

 

ということで、自己啓発書でよく見かける「自分の夢を100個書き出そう!」ってアドバイスには、なんらかの効能が認められているのか?という疑問であります。俗に言う「夢リスト」みたいなヤツですね。

 

で、この問題につきましては、まず結論から言っちゃうと「夢リストを調べた研究はないからわからん」みたいになります。100個も目標を書き出すエクササイズを試した実験って、おそらく存在しないんですよ。

 

ただ、それで終わってもつまらないので、現時点のデータで言えることを、いくつかのポイントごとにまとめてみようかと思います。

 

 

ポイント1.目標を書き出すのは良いのか悪いのか?

その昔、「かの有名な「イェール大学の目標設定実験」がデマだった件」みたいな話を書きました。要するに、「『目標を紙に書き出すと成功する!』って研究は存在しなかったんだよなー」みたいな内容で、私も当時はガッカリしたもんです。

 

が、実は2015年にドミニカン大学のゲイル・マシューズ先生が、267人を対象に実験(R)をしてくれまして、これによると、

 

  • 具体的な行動計画とともに目標を書き、それを週ごとの進捗報告とともに、サポートしてくれる友人に報告した。

 

ってエクササイズを行ったグループは、何も目標を書かなかったグループや、目標を書いたけど行動計画を立てなかったグループより有意に多くの成果を上げたんだそうな。

 

同じように、スポーツ選手を対象にした試験(R)では、3つのグループのうち1つにだけ目標設定をするように介入したところ、しっかりとした行動計画を書き出したグループは、より身体のパフォーマンスが高まり、自己効力感が高く、他よりも真面目にトレーニングに取り組む傾向が会ったそうな。

 

まー、いずれもめっちゃ精度が高い研究って和歌じゃないものの、似たような報告は多いので、少なくとも「目標を書き出すと幸福感と達成率は上がるだろう」と言えそうであります(100個書き出す意味があるかは謎ですが)。

 

 

ポイント2.良い目標の書き出し方と、悪い書き出し方はあるのか?

ある研究(R)では、目標設定は最高血圧を上昇させ、簡単に行動させるようにうながしてくれるとのこと。ただし、どんな目標でも良いってわけではなくて、やりたいことを紙に書き出す際は、以下の要点を守る必要があります。

 

  • 目標は「達成できるだろう」と感じられねばならない:リストアップする目標は、できるだけ実行が可能でないと、行動と達成への熱意は上がらないのでご注意ください。不可能な目標や挑戦的すぎる目標、あるいは自分の能力に疑問を抱かせるような目標を立てると、最高血圧は低下し、すぐに行動に移せるようなモチベーションは上がらないので。

    これは、脳の内側前頭前皮質(MPFC)の働きによるものと言われていて、このエリアが活性化しないと、目標を達成するために今何をすべきかを考えることもできないんですよ。そのため、目標が遠すぎたり、未来志向すぎたりすると、MPFCの活性化が著しく低下して、やる気がなくなっちゃうんですな。

    その意味では、「10年後に結婚!」みたいな時間的に遠すぎる目標や、「3日で体脂肪を一桁台に!」みたいに現実的な目標だと、いくら書き出したところであんま意味はないんじゃないでしょうか。

 

  • 目標は具体的な行動計画とセットにするほうがよい:その昔「パフォーマンスアップにはプロセス目標が最強説」なんて話を書いたように、その目標を達成するために行う具体的なアクションをセットにしないと、いまいち効果は上がりにくいっぽいんですよ。

    似たような指摘は脳科学の研究(R)からも出てまして、目標を設定する際には、具体的に行動している様子をイメージできていないと、網様体賦活系(RAS)が安定して刺激され、目標達成のモチベーションが上がるらしい。RASってのは脳の基底部にある細胞の集まりで、目標設定を制御する上で重要な役割を果たしております。

 

 

  • ただし、自己を掘り下げるためであれば、どんなものを書いても良いとは思う:ここまでの注意点は、あくまで「本気で夢を達成したいとき」に適用されるものなんで、たとえば「自分をもっと理解したい」「自分の本当の欲求を知りたい」「なにかインスピレーションを得たい」といった目的で行うのであれば、なにを書いても問題はないはず。

    七大陸を旅する、尊敬する有名人に会う、本を書くなど、大きくて野心的なものでも良いし、見知らぬ人を助けるとか、クラシックのコンサートを聴くとか、植物を育てるとか、小さなものでも良いし、どんなものでも自己を理解するための一助になるんじゃないでしょうか。

 

 

というわけで、いろいろ書いてきましたが、以上の話をふまえますと、

 

  • 夢リストを作る際は、まずは「自分がやりたいことの達成率を高めたいのか?」、それとも「自己分析の手段として使いたいのか?」をハッキリさせる。

 

  • 「やりたいことの達成率を高めたい」なら、できるだけ実行の可能性があり、ゴールに向かうための明確なアクションを想像できるものだけをリスト化する。

 

  • 「自己分析に使いたい」なら、なにを好きに書いても良し。訪れたい10の国、探検したい10の場所、経験したい10の活動、学びたい10のスキル、読みたい10の本、参加したい10のイベント、楽しみたい10の喜び、経済的な10の目標、人間関係の10の目標、キャリアの10のマイルストーンなど、どんなものでもいいから書き出す。

 

って感じの運用になるんじゃないでしょうか。ご参考までに。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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