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今週の小ネタ:魚の脂で頭は良くなる?休憩したのに元気が出ないのはなぜ?人はなぜ夢を見るのか?


ひとつのエントリにするほどでもないけど、なんとなく興味深い論文を紹介するコーナーです。

  

 

 

魚の脂で頭は良くなる?

魚の脂にふくまれるオメガ3脂肪酸には、頭を良くする効果はあるのか?って問題を調べたメタ分析(R)が出ておりました。もともと「魚を食べると頭が良くなるのでは?」みたいな話はありましたが、ここで具体的に調べたのは、

 

  • オメガ3脂肪酸でBDNF(脳由来神経栄養因子)は増えるの?

 

ってポイントです。BDNFってのは脳の新しい神経を作ったり、古い神経を修復する働きを持った物質で、これが増えれば増えるほど頭の働きが良くなるんですよ。もうちょい詳しい話は「頭を良くする物質「BDNF」の量を増やすための運動ガイドライン」をご覧いただくか、さらに詳しいところは「脳を鍛えるには運動しかない!」などをお手にとっていただければと。

 

で、この研究では、糖尿病、うつ病、統合失調症、PTSDなどのリスクのある成人をふくむ587名(平均22~71歳)を対象にしたもので、全部で12件のランダム化比較試験をメタ分析してくれてます。研究が行われたのは主にイランですが、日本で行われた実験データも入ってたりします。

 

実験の期間は4週間から26週間で、オメガ3脂肪酸の摂取量は、フィッシュオイルか亜麻仁油から1日あたり230~3,750mgを飲んだとのこと。その分析結果がどうだったのかと言いますと、

 

  • プラセボと比較して、オメガ3脂肪酸は血清BDNFを増加させた。

 

  • サブグループ解析によると、オメガ3のサプリの効果は、以下の条件で確認されやすいっぽい。

    • サプリを飲む期間が10週間未満。

    • メンタルの問題が確認されていない、20~30歳の成人。

    • 1日2,000mgを超える用量を使用した場合。

 

ということで、昔から言われてきたとおり、魚の脂には頭を良くする可能性があるらしい。

 

まぁここで難しいのは、このメタ分析で観察されたBDNFの増加量は平均0.73pg/mLなので、このレベルの増加が現実的に意味があるのかがよく分からないところですね。参考までに他の例を挙げておくと、運動はBDNFレベルを平均1.6-3.2pg/mL増加させると考えられてまして、これに比べるとやっぱり少ない感じはしますね。

 

加えて、市販のフィッシュオイルサプリは酸化の問題があるので、そう簡単に「オメガ3を飲もうぜ!」とは言いづらいところです。やっぱ魚をむしゃむしゃ食うしかないっすね。

 

 

 

休憩したのに元気が出ないのはなぜ?

「休憩したのにまったく元気が出ない!」って問題について調べたデータ(R)が出ておりました。仕事が終わってヘトヘトで家に帰り、テレビやゲームをしたものの、なんだか逆に疲れたまま眠りについてしまうような現象ですね。

 

なんでこういうことが起きるのかってことで、マインツ大学などのチームは、スイスとドイツで暮らす約500人を招集。みんなに前日の仕事量、疲労感、テレビゲームやテレビをどれだけ見たか、などを質問したところ、以下のような傾向が見られたらしいんですな。

 

  • テレビやゲームを見るのは時間の無駄だと判断している人は、メディアから回復やリラックスを得られない。

 

  • しかし、仕事の疲れで脳がヘトヘトになっている人ほど、娯楽メディアに対して罪悪感を持ちやすかった。

 

ってことで、テレビやゲームに罪悪感を持つ人ほど、そこからメリットを得られないのだ!という、実に当たり前の結論であります。とはいえ、ここには示唆的なポイントも提示されてまして、

 

セルフコントロール能力が枯渇した人ほど、ゲームやテレビなどの娯楽メディアを「本来すべきことの先延ばしでしかない」と否定的に評価するリスクが高い。その結果、セルフコントロールの能力が枯渇した人は、娯楽メディアによるメンタル回復の恩恵を受けない。

 

ってあたりは参考になりますね。仕事の疲れで「もう何もしたくない!」って気持ちになった人ほどメディアに罪悪感を覚えやすく、そのせいで、最も回復が必要な人ほどメリットを得られなくなっちゃうわけですな。

 

しかし、過去の研究では、「罪悪感さえなきゃテレビやゲームはストレス解消に最高だぜ!」って報告は非常に多く、LMUの研究(R)でも、チームはこんなことを言っておられます。

 

メディアコンテンツは、精神の回復に役立ち、より高いレベルの認知パフォーマンスや活力の増加などと関連している。仕事で疲れた後にメディアを視聴させたグループと、メディアを視聴させなかったグループを比較したところ、メディアを視聴した参加者の方が、あきらかに活力の回復と認知パフォーマンスが高かった。

 

本来は映画やゲームってのは、私たちの気分を改善し、長期的に生産性とメンタルヘルスを維持するのに役立ってくれるわけですな。つまり、私たちに必要なのは、「疲れ切ったときのテレビやゲームは良いことなのだ!」と自分に言い聞かせることだって話でして、ここは大事なポイントですなぁ。

 

 

 

人はなぜ夢を見るのか?

「人はなぜ夢を見るのか?」って疑問を調べた研究は昔からたくさんあるものの、まだハッキリしたことがわかっていないのが現状であります。「夢で日中の記憶を処理している!」「夢で現実を疑似体験させている!」など諸説あって、よくわからないんですよね。

 

で、新しいデータ(R)も夢の機能について調べたもので、

 

  • 狩猟採集民と先進国の人間の夢を比べたら何が分かるか?

 

ってあたりをチェックしてくれていて面白かったです。私たちが暮らす環境によって夢の内容は異なり、そこを調べれば夢の機能があきらかになるんじゃないかって発想ですね。

 

こちらはジュネーブ大学などによる研究で、タンザニアとコンゴ民主共和国で暮らす2つの狩猟採集民と、ヨーロッパや北米に住む人々の夢を比較したもの。人類学者が2ヶ月間にわたって狩猟採集民の見た夢を集め、これを西洋人グループの夢に関するデータと比べております。

 

それで何が分かったのかと言いますと、

 

  • 狩猟採集民のほうが、猛獣に襲われたり、川を流されたりと、生命が脅かされている危険な状況を夢に見やすかった。ただし、夢の最後には、誰かが助けてくれる可能性が示されて終わることが多かった。

 

  • 一方で西洋人が見る夢は、狩猟採集民ほど危険な夢を見るケースは少なかったが、最後に解決策が示されるケースは少なかった。

 

って感じだったそうです。狩猟採集民の悪夢は解決するが、先進国の悪夢は最後まで解決されないことが多いんだ、と。

 

で、このデータをもとに、研究チームは以下のようなことを考えております。

 

最近の理論によると、夢を見ている間、私たちはより脅威的な状況や社会的な状況をシミュレートし、現実の状況に適応した行動を促すメリットを得られるとされる。

 

そのため、社会的な結びつきが強い狩猟採集民の世界では、身近な脅威を人間関係でサポートする夢を見やすいのだろう。

 

とのこと。夢は現実世界をうまくやるためのシミュレーターとして機能するため、そのせいでみんな夢を見るんじゃないかって考え方であります。もちろん、この研究だと、夢=シミュレーター説を立証するのは無理なんだけど、まぁありそうな話ですよね。

 

では、なんで西洋人の夢には解決策が示されないのかってところが気になりますけど、これは「先進国の人たちが日常で出くわす問題は簡単に解決できないことが多いから、ただ悪夢だけを見させて、現実の脅威に耐えられるようにしている?」ってことなのかもしれませんなぁ。なんか切ないですが。


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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