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現代人の心身って騒音でむしばまれてるんじゃないか説のまとめ

 


例によって調べ物をしていたら、「騒音がいかに心身を壊すか?」に関する知見がたまったので、ポイントくざっくりまとめておくことにします。

 

ノイズが体に悪いことは過去にもブログで書いていて、「騒音がデカい場所に住むと、5デシベルごとにウエストサイズが0.21センチ増える」なんて話を取り上げたことがありました。この問題については十分なデータの裏付けがありまして、騒音がダメージを与えるのは耳だけではなく、心臓や血管を傷つけ、内分泌系を乱し、思考や学習のレベルも下げることがわかってるんですよ。

 

個人的に重要だと思ったものを並べておくと、以下のようになります。

 

 

 

騒音が多いと早死にする

  • WHOの試算によると、2018年に、EUでは交通の騒音が原因で160万年の健康寿命が失われたと考えられる。この悪影響を避けるためには、交通系の騒音にさらされるレベルを1日の加重平均で53dB(約5メートル先から聞こえる焚き火の音ぐらい)以下にし、夜間は特に45dB(約30メートル先を走る車の音ぐらい)以下に制限するのが望ましい。

 

  • 欧州環境庁の報告(R)によると、環境ノイズに長期間さらされることにより、ヨーロッパでは毎年約12,000人が早死にし、48,000人が心疾患かかると推定している。

 

  • アメリカ合衆国環境保護庁(R)によれば、1億人のアメリカ人が1日平均55dB以上の騒音にさらされている。55dBってのは、家庭での静かな会話と、レストランやオフィスでの会話の中間のレベルで、それ以上の音量に24時間平均でさらされた場合、病気の発症率が高くなる。

 

  • ヨハネス・グーテンベルク大学の研究(R)では、50歳以上の250万人を調べたところ、道路の騒音に触れまくっている人は、心筋梗塞、狭心症、心不全なの3つすべての発症率が増加した。360万人のデンマーク人を対象とした報告でも、道路の騒音が1日平均10デシベル増えると、脳卒中のリスクが3~4%増加することが示された。

 

 

 

騒音が多いと睡眠も死ぬ

  • デンマークがん協会研究センターの研究(R)では、交通系の騒音にさらされている人は、ノイズが10デシベル増えるごとに糖尿病リスクが8%増加すると報告した。さらに8年後、35歳以上のデンマーク人356万人、233,912人の糖尿病患者を調べたところ、デンマークにおける糖尿病の8.5パーセントは道路の騒音が原因であり、1.4パーセントは鉄道の騒音が原因だと試算された。

    この研究によると、騒音にさらされてしまうと、夜間に頻繁に目が覚めてしまい、そのストレスによってグルココルチコイドってホルモンの分泌量が増加し、インスリン分泌とインスリン感受性がダメージを受ける。これによって糖尿病のリスクが激増するのだと思われる。

 

  • ちなみに、多くの人は「ちょっとうるさいぐらいなら熟睡できる」と思っているが、ペンシルバニア大学のマシアス・バスナーらが行った睡眠調査(R)によれば、ノイズがある状態で眠った人の多くは「一晩中一度も目覚めるずに眠ることができた」と発言したが、実際の計測データでは、被験者は夜間に何度も目を覚ましていた。

 

 

 

騒音による学習能力の低下

  • ニューヨーク市立大学の研究(R)では、地下鉄の高架から約1.6メートルの場所にある学校の小学生161人を調査。すると、教室の騒がしい側にいた生徒は、静かな側にいた生徒に比べて、学習スピードが3~4ヵ月ぐらい遅れていた。

 

  • ミュンヘン国際空港が移転したタイミングで近所の学校を調べた研究(R)によると、空港が閉鎖された後、学生たしの長期記憶と読解力が向上した。逆に、空港が移転してきたエリアの学校では、その後で子供たちのストレスホルモンのレベルが上昇し、成績の低下が見られた

 

  • ロンドン大学が行った試験でも、ヨーロッパの空港の近くに住む子供たちを調べたところ、日常でさらされる騒音レベルが上がるにつれて、子どもたちの読解力が低下するという直線的な関係が見られた。この有害な影響は、中学校まで続いた。

 

 

 

騒音がここまで体に悪い理由

  • ここまで騒音が人間の体に悪いのは、進化論的に考えれば当然だと言える。原始の世界において、ノイズとは、猛獣の群れが近くに迫ってきたことを知らせるサインとして働いていたはずなので、人類はノイズを危険の発生源として認識するようプログラムされてきたと考えられるからである(R)。

 

  • また、進化論的な観点から見ると、睡眠は「体を動かすことができない危険な状態」であり、一段と周囲の環境に注意を払わなければならない時間だった考えられる。そのため、ヒトの身体は、睡眠中でもノイズをモニタリングするようになっている。

 

 

ということで、いろいろ書いてきましたが、騒音にさらされるレベルを1日の加重平均で53dB以下にするってのは、都内の繁華街で働いているような方だと、ちょっと難しいかもしれませんな(日本の繁華街は平均で70dBぐらい)。この問題をどうにかする方法はあんまなくて、たいていの専門家の意見を総合すると、

 

  • Apple WatchとかiPhoneで騒音をモニタリングしておき、ノイズが特定のレベルに達すると警告を発するように設定しておけ!

 

  • つねに耳栓かヘッドホンを持ち歩き、警告が鳴ったらすぐに騒音を遮断せよ!

 

ぐらいの対策しか取りようがない感じ。私としては、Apple Watchのノイズレベル測定は普通に使っていて、今は「PQ 睡眠用シリコン耳栓」か「Loop Quiet」などを常備しております(飛行機や電車ではQuietComfort Earbuds IIを使ったりしている)。ここらへんを小まめに心がけて、日々こつこつやるしかないんでしょうなぁ。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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