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筋トレ歴と筋肉増加量の関係:科学的にどれだけ成長が期待できるのか?問題

 

筋トレさえやれば筋肉がつく!」とは誰もが思うことですが、最近のとある大規模研究(R)は、「ある程度まで筋トレ歴がある人は、どれぐらい筋肉が増えるの?」って問題に関して参考になる内容になっておりました。

 


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この研究、本来は「筋肉を伸ばした状態の筋トレ」について調べたものなんですが、個人的に注目したポイントは、以下のようになります。

 

  • 被験者はトレーニング歴のある人間のみ297名
  • 全体の半分に関節をフルに使った筋トレを12週間指示している

 

筋トレの研究をよく読む方ならおわかりのとおり、かなりリッチなデザインになってまして、「しっかり筋トレやってきた人たちは、どれぐらい筋肉がつくのか?」って問題についてナイスな知見を提供してくれてるんですよ。私も長らく「もっとガッツリとトレーニーの筋肥大を調べてほしいなぁ」と思ってたんで、これは良いですね。

 

で、その結果を見てみますと、

 

  • どっちのグループも、ほとんど筋肉が増えてない!

 

って感じだったんですよ。正確には微増してるんですが、上腕や大腿の肥大効果は効果量で0.1以下ってことで、研究的には「誤差レベル」ですね。

 

もちろん、「トレーニング歴が長い人は筋肉が増えにくい」とは昔から言われてきた話で、最初の1〜2年ぐらいが効果のピークで、そのあとは対数関数的に量が鈍化していくってのも有名でしょう。その意味で予想どおりの結果ではあるんですが、正直もうちょい増えてもいいのでは?とか思っちゃいますな。

 

ということで、今回の結果に関連して、もうちょい筋トレによる平均的な効果をチェックしときましょう。たとえば、2020年のメタ分析(R)によると、18〜25歳の男性951人で約2.5ヶ月の筋トレを行った場合は、

 

  • 平均の筋肉増加量は1.53kgぐらい

 

としております。というと悪くなさそうなんだけど、ここには個人差が大きくて、

 

  • 下位10%の人は、0.44kg以下しか増えない
  • 中央値ぐらいの人は、1.5kg前後ぐらい増える
  • 上位10%の人は、3kg以上は筋肉が増える
  • 超レアケースの人は、6kg近くの増加が見込める

 

みたいになってます。ここまで数字がバラけてると、これといった判断はしづらいですなぁ。うーん。

 

このメタ分析で大事なのは、何をやっても筋肉が増えにくい人が一定数いるってところでしょう。ベンチもスクワットも食事も完璧にやってるのに、「0.5kgも増えない」という人が5〜10%は存在するってのは、「自分がそうだったらどうしよう……」みたいな気持ちになりますね。逆に、同じメニューでも3kg以上ガンガン増える“ハイレスポンダー”もいるので、筋肉の増え方ってのは才能の問題が大きいのかもですな。

 

もちろん、トレーニング歴が長くなればこの数字はもっと渋くなるはずで、5年もトレーニングを続けていれば、筋肉の増加量は年1kg未満の世界へ突入するはずであります。ここらへんも一応まとめておくと、トレーニング年数によって筋トレの効果がどう変わるかと言いますと、

 

  • 筋トレ1年目:爆伸びゾーン(年間4〜10kgぐらい筋肉が増えるかもしれない)
  • 筋トレ2年目以降:伸び率が40%ずつ減衰していく
  • 5年目以降:筋肉の増加量は年1kg未満に

 

ぐらいに考えておけば良いのではないでしょうか。つまり、自分が今「どの成長カーブにいて、どこまで来てるのか?」を知っておかないと、2kg増えて喜ぶべきなのか、0.5kgで落ち込むべきなのかが判断がつかなくなっちゃうんで、そこはお気をつけいただければと。

 

ちなみに、ここまで読んできた方ならお気づきでしょうが、筋トレの研究では「誰も筋肉が増えていない!」って結果がよく得られるんですが、これは研究の設計に原因があることも多かったりします。筋トレ研究ってのは、以下の問題があることが多いんですよ。

 

  • プログラムが画一的
  • 期間が短い(ほとんどが12週以内)
  • 個別調整がない
  • モチベ管理もしてない

 

って感じなんで、「再現性は高いけど、実際のトレーニングとは状況が異なる」デザインになってることが多いんですな。これに対して、実際の筋トレの現場だと、

 

  • 徐々にボリュームを増やす
  • 食事を微調整する
  • 睡眠やストレスも見る
  • モチベ低下時には介入する

 

みたいに、実験のデザインとは真逆のアプローチを取りますからね。そのせいで、研究の限界=現実の限界なのかがよくわからなかったりするんですよねー。

 

そんなわけで、以上をふまえて実践的な知見をまとめておくと、

 

  • 筋肥大はトレーニングがかなり進むほど“鈍化”するけど、決してゼロにはならないので、筋トレ歴が長いトレーニーほど希望を捨ててはいけない。というか、私も30代と今(50代目前)では筋肉のつき方がかなり違いますが、いまだに「あれ?背中がちょっと広がった?」みたいに感じる瞬間はありますからね。

 

  • 筋肉が増えにくい人でも、筋トレをすればするほど筋肉が増えるのは変わらないので、こちらも希望を捨ててはいけない。

 

  • なので、自分の成長曲線を理解して、「これぐらい筋肉が増えるかな?」という現実的な期待を持っておくのがよい。そのためには、「ちゃんと計測を続けて過去の自分と比べること」が大事。

 

みたいになるでしょう。ここらへんを押さえておけば、たとえ0.5kgしか増えなかったとしても、「あ、自分的にはこれって大成功なんだな」と前向きに捉えられるはずですんで。どうぞよしなにー。

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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