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「SF」が心に与えるスゴいメリット:「畏敬」の力で人はやさしくなる

 
 

小説ってメリットあるよなー」みたいな話はよくしてるんだけど、新しい研究(R)は「SFがいかに素晴らしいか?」ってのを深堀りしてて、長らくのSF好きとしては非常に良い感じでした。


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この研究チームは、前提として「SFってジャンルには、他のジャンルと違った心理的な働きがあるのでは?」って仮説から調査をスタートしております。というのも、SFってのは、他のジャンルと比べて「畏敬(awe)」の感情を引き起こすことが多いもんで、これが独自の作用をもたらすんじゃないかと考えられるんですよ。

 

「畏敬」もこのブログではおなじみの感情ですけど、あらためておさらいしとくと「これはスゴすぎて言葉にならん……!」みたいな体験をしたときに起きる強い感動のことです。心理学的には「自己を超えた何かとつながってる感じ」をもたらす感情とされてまして、なんだか「自我が小さくなった」ような感覚をもたらすのがポイントっすね。「三体」みたいに壮大すぎる話を読んだ時などに起きるやつですな。

 

研究では、まずは中国の男女1,060人に対して、以下のような実験を行ってます。

 

  1. SF、恋愛、コメディ、ドキュメンタリーなど12ジャンルから1つをランダムに割り当てて、そのジャンルの映画を見てもらう。
  2. 映画を見て、どんな感情が湧いたかを回答してもらう。

 

そのうえで、分析の結果どうなったかと言いますと、「SFジャンルがもっとも“畏敬”を引き出しやすい!」って感じだったそうな。他のジャンルでは「希望」や「感謝」なども高まったんだけど、SFはとにかく「畏敬」の引き出しパワーがすごいってことですな。まあ、そりゃそうでしょうな。

 

でもって、チームはさらに別の実験もやってまして、次も約1,000人の参加者を集めて、

 

  1. 「SFの短編小説を読む」「現実的な物語を読む」「何も読まない」のいずれかに割り当てる。
  2. その後、どんな感情が起きたか、「人類全体とのつながり」をどれだけ感じたかを評価してもらう。

 

みたいな実験をやってます。たとえば、「隕石衝突から人類を救う話(SF)」と「山火事から避難する話(現実)」みたいな話を読んだ後に、どんな違いが出たのかを調べたわけですな。

 

で、こちらの結果がどうだったかと言いますと、

 

  • SF小説を読んだグループは、他よりも有意に「畏敬」を感じ、人類全体への共感スコアもアップした!

 

って感じだったらしい。なんでも、SFによって引き起こされた「畏敬」の感情が、人類への共感を高める“媒介変数”になってるそうで、こりゃおもしろいですな。要するに、SFを読み続けると人類愛にあふれた良い人間になれるんじゃないか?ってことですな。

 

ちなみに、研究チームはさらに「SFを読み続けたらどうなるか?」ってのも調べてまして、2か月にわたる追跡調査も行ってたりします。具体的には、中国の大学生543人を対象に、「SFをどれくらい読んだ?」「日常的に畏敬を感じた?」「人類への共感は高まった?」ってのを記録してもらったんだそうな。

 

こちらの結果は、SFの長期的な効果を示してまして、SFに継続的に触れている人ほど日常的に「畏敬」を感じる頻度が増え、それに伴って“人類への共感”も高まってたらしい。しかも、データを見てると、もともと「人類全体への共感」が高い人は、その後さらにSFを読む傾向も強くなるって傾向があるそうで、つまり「畏敬⇄共感」のフィードバックループが生まれている可能性があるわけっすね。

 

SFが「人類愛」を刺激する理由はよくわからんですが、この手のフィクションってのは、

 

  • 宇宙規模の問題(地球外生命体、惑星移住など)
  • 人類全体で協力しないと解決できない危機(AIの暴走、パンデミック、環境崩壊)
  • 国家や人種の枠を超えた「人間そのもの」への問いかけ

 

みたいなテーマが扱われる事が多いので、自然と“マクロな視点”が育つのかもしれんですな。SFの世界に触れると、「自分は人類という巨大システムの一部だ!」みたいな気分になり、それが「人類との一体感」に変わるわけですね。

 

個人的に、この研究の知見は割と実用的だと思ってまして、「ネガティブな気分から抜け出したい」ときにちょっとSF作品を読んでみるのは、意外と良いメンタルトレーニングになるのかもしれんですな。どの作品に「畏敬」を覚えるかは人それぞれでしょうが、最後に私のおすすめも並べときますんで、畏敬ってみたい方は参考にしてくださいませ。

 

  • メッセージ:異星人とのコミュニケーションに「時間認知」の定義を組み合わせてて、だいぶびっくりした。原作である「あなたの人生の物語」も激しくよい。
  • アフター・ヤン:AIロボットを題材に家族と記憶の意味をめぐる物語。だいぶ静かな畏敬が味わえる
  • 三体:文明の興亡、異星知性、四次元空間まで、どんどんリミットが解除されてく快感がある。
  • ブラインドサイト:異星知性と遭遇した宇宙探査チームが、「意識とは何か?」という根本的な謎に直面する話。内容は超ハード。
  • レッド・マーズ:火星への移住をめっちゃリアルに描いた話。地球のすごさを逆に思い知らされてナイス。
  • グレッグ・イーガン全般:イーガン作品全般が畏敬の塊なんで、「わけわからん!」と思ってもがんばって読んでみると、「自我」や「意識」の定義が壊されるのでおすすめ。

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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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