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効果が再現できなかった心理学の有名な研究まとめ

Shock

 

2016年は、心理学の世界が激震した年でありました。というのも、いろいろと有名な学説に、追試で「再現性がない!」って結果が出ちゃったもんですから。

 

 

もともと心理学は厳密なデザインが難しい分野ではありますが、その他にも、

 

  • 一般ウケしやすい文献が積極的に発表されがち
  • パッとしないデータは公表されないケースが多め
  • 統計の数値を割りといじりやすい

 

みたいな問題もあって(1) 、なかなか一筋縄ではいかない感じ。

 

 

というわけで、ここでは「近年になって効果が怪しくなってきた心理学の説」についてまとめときます。といっても、皆さまにおかれましては、「なんだよ!ウソだったのかよ!」といった否定的な態度ではなく、「科学ってのはいろいろ失敗しながら進んでいくんだなー」という感慨とともに読んでいただければと思います。

 



 

意志力の消耗

意志力は使えば使うほどすり減っていくのだ!って説。「スタンフォードの自分を変える教室」でも取り上げられてた超メジャーなネタだったんで、これに物言いがついたときは驚きました。

 

 

しかし、本当に意志力がすり減らないなら、状況に応じてセルフコントロール能力を復活させられるかもしれないわけで、どっちかと言えば希望がある話かもしれませんが。

 

 

1万時間の法則

1万時間やれば誰でも天才になれるのだ!みたいな説。 マルコム・グラッドウェルの「天才! 」で有名になったネタですね。この問題については、以下のエントリを書いております。

 

 

 ざっくり言えば、やっぱり天才には才能が必要で、努力だけじゃ説明できない点が山ほどあるんだよーって反論が出てきたんですね。もちろん努力は大事ですが、とりあえずグラッドウェルが言う「1万時間は成功へのマジックナンバー」みたいなことじゃなさそう。

 

 

社会的プライミング

社会的プライミングってのは、ファストフードのロゴを見たら忍耐力がなくなったり、温かいココアを見たら優しい気持ちになるような現象のこと。人間は無意識のうちに環境から影響を受けてるよ!って説で、心理学の世界では「古典」として扱われてきた理論であります。

 

 

が、2012年にケンブリッジ大が追試(1)を行いまして、「再現できないよ!」って結果が出ちゃったんですな。ただし、この問題についてはオリジナル版の研究者が反論をしていて(2)、まだ決着がついてない状態ではありますが。

 

 

パワーポーズ

「パワーポーズ」は、自信がありそうな態度を取れば、本当に男性ホルモンが増えるという超有名な説。こちらは、すでに2つほどエントリを書いております。

 

 

ただし、ひとつ補足しておきたいのは、 この追試で否定されたのは、

 

  • パワーポーズで男性ホルモンがアップ!
  • パワーポーズでリスクを取りやすくなる!

 

って効果の2つのみであります。いっぽうで、過去には「背筋を伸ばすと自信がつく」って実験はいくつかありまして、「正しい姿勢のメリット」までが否定されたわけじゃないのでご注意ください。

 

 

 笑顔を作れば楽しい気分になる

強引に笑顔を作ると気分も良くなるよ!って説で、俗に「表情フィードバック仮説」と呼ばれる定番のネタであります。こちらについては、以下にエントリを書いております。

 

 

 この問題については、おそらく表情と気持ちはリンクしてるんだけど、無理やり笑顔を作って楽しくなれるほど人間は単純じゃないってぐらいに解釈しとけばよさげ。

 

 

小説を読むと人の心を読む能力が上がる

「純文学を読むとと他人の心を読む能力が鍛えられる!」って説で、当ブログでも2013年に取り上げていたりします

 

 

が、2016年にペンシルバニア大学が行った追試では同じ現象が確認できず、「純文学で他人の心を読むのがうまくなるんじゃなくて、他人の心を読むのがうまい人が純文学を楽しんでるだけじゃね?」って結論になってしまいました。

 

 

もっとも、過去に出た他のデータでは、「良質な海外ドラマを見るとコミュニケーション能力があがった」とか「上質なエンタメ小説で脳の機能が向上」ってデータもあるんで、まだフィクションの効能については議論が続いてるとこではあります。

 

 

赤い服を着るとモテる

「赤を身につけるとなぜもてるのか? 」って本で有名になった説。2011年の実験(2)では「赤いドレスを着た男女はセクシーだと判断された!」って結論だったんですけど、2016年に行われたより大規模な追試(3)では、「服の色とモテ度は関係なし!」って結果になっております。

 

 

こちらも追試のほうが参加者の数が多いんで、オリジナル論文のほうがかなり不利な状況ですねー。

 

 

マクベス効果

マクベス効果ってのは、手や体を石けんで洗うと、いっしょに罪の意識まで流れ落ちていくという心理現象。2006年にトロント大学が発表して話題になったネタであります(4)。

 

 

が、こちらは2014年にオックスフォード大学が大規模な追試(5)をしまして、オリジナル論文の5倍の人数で再チェックしたところ、イギリスでもインドでも同じ効果は再現できなかったそうな。これは別の追試(6)でも否定的な結果が出てまして、ほぼ間違いだったとみてよさげ。

 

 

まとめ

そんなわけで、いろいろ見てきましたが、

 

  • ほぼ効果が否定された説=パワーポーズ、マクベス効果、赤い服でモテる
  • かなり形勢が不利な説=小説と人の心を読む能力、社会的プライミング、1万時間の法則、笑顔で楽しい気分に
  • まだ議論の余地がある説=意志力の消耗

 

って感じですかね。まだ完全な決着がついてないものも多いので、そのあたりはご注意ください。いやー、心理学もいろいろ大変っすね…。

 

 


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1976年生まれ。サイエンスジャーナリストをたしなんでおります。主な著作は「最高の体調」「科学的な適職」「不老長寿メソッド」「無(最高の状態)」など。「パレオチャンネル」(https://ch.nicovideo.jp/paleo)「パレオな商品開発室」(http://cores-ec.site/paleo/)もやってます。さらに詳しいプロフィールは、以下のリンクからどうぞ。

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