ケトン体ダイエットで運動のパフォーマンスが上がらない理由とは?
ケトン体でスタミナ切れを防げる?
「ケトン体でスポーツのパフォーマンスが上がる!」って考え方がありまして、近ごろはサッカーの長友選手も実戦しているんだとか(1)。
ご存じのとおり、ケトン体は脂肪が燃えたあとに肝臓で作られる物質。体内のブドウ糖が足りないときは、代わりにエネルギー源になってくれるんですな。
で、なんで長友選手がケトン体にこだわってるかというと、 糖質は体内に貯蔵できる量が少ないから。糖質は主に筋肉や肝臓にためこまれてますが、あわせてだいたい400gぐらいなんですね。これは、サッカーのようなハードなスポーツでは、すぐに使い切っちゃう量。
いっぽうで脂肪は貯蔵量が多いので、ちゃんとエネルギーとして使えれば、サッカーでも燃料が切れる心配はなし。体脂肪をうまく使えれば、スタミナ切れが起きないんじゃないか、と。なかなか筋は通ってる気もしますが、実際はどうなんでしょう?
アスリートでケトン体の効果をチェック
ってことでとても参考になるのが、新たに出た論文(1)であります。これはオーストラリアカトリック大学の実験で、「アスリートがケトン体回路にしたらどうなる?」って疑問を調べたもの。
参加したのは21人の競歩選手。みんなオリンピック候補になるレベルのアスリートだったそうな。
実験期間は3週間で、3つのグループにわけております。
- 高炭水化物グループ:糖質60〜65%、タンパク質15〜20%、脂肪20%
- ピリオダイズグループ:三大栄養素のバランスは高炭水化物グループと同じだが、糖質を摂るタイミングを細かく変えていく。例えば、月曜と火曜はトレーニング後だけ糖質を摂り、水曜日はトレーニング前後に糖質を摂る、みたいな感じ。多くのアスリートが取り入れてる手法。
- ケトン体グループ:糖質50グラム、タンパク質15〜20%、脂肪75〜80%
もちろん全グループのトレーニングメニューはまったく同じ。
エネルギーの効率は良くなってもパフォーマンスは上がらない
そのうえで、実験後にみんなのパフォーマンスや脂肪の燃焼レベルなどをチェックしたところ、
- 全員、VO2maxは同じように向上していた(つまり心肺機能が上がったわけですな)。
- ケトン体グループは脂肪を燃やすキャパシティがアップした。
- 10キロの競歩テストでは、高炭水化物&ピリオダイズグループはタイムがアップ(それぞれ6.6%と5.3% の向上)。しかし、ケトン体グループにはタイムの向上がみられなかった。
- ケトン体グループはレース中の酸素消費量が上がったが、他のグループは酸素消費量が減った。
- ケトン体グループは主観的な疲労度が上がった。
みたいな結果だったそうな。要するに、ケトン体グループは心肺機能が改善したにも関わらず、パフォーマンスが低下したわけですね。エンジンの性能が良くなったのに、燃費が悪くなっちゃったイメージでしょうか。
ケトジェニックでパフォーマンスが下がった理由
こういった現象が起きるのは、糖よりも脂肪のほうがエネルギーに変わる際の酸素消費量が多いから。確かにケトン体は良いエネルギー源になりえるものの、そのぶん酸素の利用効率が悪くなっちゃうんですね。つまり、運動が長引くほど辛くなっていく感じ。
今回の実験はプロアスリートが対象ですけど、このへんのメカニズムは皆同じなんで、おそらくは一般人でも似たようなものかと思われます。もちろん、一部にはケトジェニックで良い成績を出してるアスリートもいまけど、基本的には「ちゃんと糖質を摂ってスポーツしようね!」ってことで。